第7話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。7
何かアニメの二期の冒頭とかの語りだしをした元会長だが、この人そんなにふざけるような……人ですね、文化祭とかもう数年後には黒歴史として口にするのもおぞましい記憶と化してるだろうな。
「はぁ、真犯人ですか」
「興味なさそうだな。君にとっては無関係ではない耳寄りなネタだというのに」
「文化祭は色々とはっちゃけたんであんまり掘り返したくないんですよ。助けたとはいえ、あんな大盤振る舞いアニメでもない」
「現実とアニメをごっちゃにしたような人生を送ってるのだから変わらないだろ」
やっぱこいつは一度殴った方がよかったんじゃないだろうか。
でもなー、一応かつては尊敬していた先輩でもあるし、ここは被害妄想だろうが聞かない方が後々厄介なイベントに発展する可能性も無きにしも非ずなのでそのまま席に居座る事にしましょう、そうしよう。
「教えてください。真犯人について」
「いいだろう、ふふん」
何か急に自信を取り戻して、昔の余裕を見せつけてきたぞ、この高三先輩。こっちが降参しそうですので勘弁してください。
「事の発端は一年前、君が入学した直前の五月頃の話だ」
「随分と昔ですね。その頃から刹菜さんに対しての嫉妬というのはあったんですか?」
「ないといえば嘘になる。だが当時は文化祭に至るまでの長大な計画は頭には無くて、ただ妄想の中で彼女が私に首を垂れる姿を思っていたぐらいだろう」
「今更言うのも遅いですが会長って刹菜さんをどういう目で見てたんですか?」
「素晴らしい女性だよ。それこそ全てを奪ってやりたかったくらいにね。結局、私が全てを奪われたわけだけど」
自虐することも厭わない元会長様。苦笑いしながら語るその姿は初見だったら只のやべー奴でSNSのアカウントをその場でブロックしてる。俺、この人とやりあってよく勝てたよね。こいつの可愛い部下達も含めて、奇跡に奇跡が重なったマーベラスな力が働いたんだろうなぁ。何か俺自身も感化されたのだろうか。思考がおかしくなってない?
「そんな時だった。ある日、私の机に手紙が置いてあった。最初はいつもの適当なラブレターと思ったがそこに綴られていたのはそんな可愛いものではなかった」
含みある口調で言うと、元会長は隣に置いてある鞄に手をやり、中から一枚の折りたたまれた便箋を取り出すと俺の方へと差し出して来た。
「これが?」
「言うよりも見た方が早かろう」
そらそうだ。
差し出された便箋を広げ、広げた手紙に目を通した。
『雪村真一様
中学時代、あなたが雷木刹菜に対して酷く心を痛めつけられたことを知っております。そんな彼女に一泡吹かせようと思いませんか? ここに書いてある通りに動くことができれば、彼女の精神も心も切り裂く事ができます。全ては親のコネがあるあなただからこそできる事です......』
そこから先に記されていたのはこれから起きるであろう事件を計画書のようにまとめたものだった。しかし唯一違うのは最初の出来事は彼女のヲタク趣味を理解しているという友人の態で元会長が近付き、そこから文化祭実行委員が退場からの文化祭運営費盗難事件と冒頭だけ違っている。
「まあヲタク趣味はわからなかったのでね、少し計画を変更させてもらったよ。マキナを上手く利用させてもらったおかげで結果的にはその計画書通りになったのだから」
「……はぁ」
「何か釈然としない顔だな」
当たり前だろ。いきなり生徒会室へ呼び出され、来てみたらこんな訳わからない計画書を見せられてそれが真犯人だってねぇ……本当に頭大丈夫か、こいつ。
それにもし本当だったところで鵜呑みにして実行したのは雪村真一自身だ。その罪を転換できることではない。一生徒が悪ふざけでしたと収めるには無理があるこの一連の事件達、俺はともかく刹菜さんやこいつに利用された人々はこんな紙切れ一枚が真実でしたで納得できるほどの安い話ではないだろうしな。
もういいだろう。これ以上は話を続けても何の得にもならない。
便箋を目の前の机に置くと、俺は立ち上がって部屋の扉の方へ歩いていく。
「帰るのかい? まだ話は」
「もういいです。その便箋が真実でも嘘でも終わった事ですし。まだ続くとしたらそれはもうあなたが未だに過去ってやつに執着している証拠でしょ?」
「……それもそうだな。なあ、雨宮。本当に」
「何も言わないでください。皆の憧れの生徒会長、雪村真一さんでいてください。俺はあなたみたいに容量いい人間ではないし、叱られてばかりで多分大学生、社会人になっても同じことを言われ続けられる。でもそういう時、真似できるような人がいると生きやすいんですよ」
言い放ったその言葉の意味は深くない。ただありのままだ。
俺みたいな人間は行動力があっても考えは浅い。周りを見えずに後々怒られ、何もかもがやり直しになる場合もある。やり直しならいい。それすらも許さないのがきっと社会ってやつなんだろう。
「話が終わりならこれで。受験勉強頑張ってください」
吐き捨てるようにそう言い放って、俺は腰を上げ、そのまま生徒会室を後にしようとする。
「なぁ雨宮」
「何ですか?」
「お前はさ……どうしてあの女をあそこまで助けようと……」
「簡単ですよ。男には人生で一度くらいはヒーローを演じてみたい時があるんですよ」
今度こそ扉を開けて、生徒会室を後にした。
やっぱり人の事言えないよなぁ、俺も。
このまま帰宅コースに走りたいがまだ今日の仕事は終わっていない。今日期限のタスクはあと一つある。
北条さんにはまだ文化祭のお礼とかも言えてないので丁度よかった。しかし放課後に呼び出したその真意を見抜けていないのが不安要素。一応あの人もこんな俺に好意を持っている女性だ。今となっちゃ雨宮蒼と付き合っても何とも思わないのかもしれないがそのずっと前から俺に対する想いとやらはそういうベクトルになっていたのだ。
そのせいで今は調子いい瀬尾川から酷い目にあったのだがそれはもう過去の事だ。もう少しいいやり方があったのではないかと反省はしている。
教室にたどり着いたので中を覗くと自席で携帯を弄っている北条さんがいて、入ってきた俺に気付き、顔を上げた。
「や、お疲れ」
「や、どうも」
彼女の元へと近づき、一つ前の席に座った。他の女子だったら勝手にパーソナルスペースを侵害してきたと言われかねないがこの人ならいいだろう。
「待たせて悪い」
「ううん、私が呼び出したんだし。最近雨宮君と話せてないなーって」
「文化祭以来だな。てかそのお礼もまだちゃんとしてなかったわ」
「ほほう、お礼をしたいのですか。それじゃ聞きましょうか」
何やら期待している視線が飛んできたのでコホンと軽く咳払いして、姿勢も改める。
「あの時は色々とありがとう。本当に助かった」
「そっか。じゃあ私と付き合ってくれない?」
ん? 今とんでもない剛速球が返ってきたような……。
「ごめん、付き合うって言った?」
「言った」
「君と?」
「うん」
「俺が?」
「うん」
「どこに?」
「恋人関係に」
今日中にタスク終了の報告はきつそうですね、これ。
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