第5話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。5
「……誰?」
鏡に映った謎の少女に発した言葉がそれだった。佳美さんと違うけど同じくらいに可愛い子、でも知らない。セミロングって呼ばれるくらいの長さに青い十字架のような髪留めが際目立つけど彼女の顔立ちとも相まって、いいバランスが取れている。知的なクール系美少女ってところかな、でも知らない。
私が知らない女の子なんだ、この子は。
いつからこうなったかと言えば、文化祭の終わり。教室に戻ろうとした時、階段、いや天から降ってきたのがこの子だ。まだ佳美さんの身体にいた私はそのまま正面衝突し、一瞬意識が途切れ、そしてまた起動した。
しかし再起動した私はおかしい。まず目線が違う。佳美さんの身体にいた時はもっと視界が低かったはずなのに。次に身体だ。やけに身体が軽く感じたら佳美さんと違って、女子高生としてはまあそこそこというくらいの大きさになっていた。どこがって? 男子なら皆大好きなところだよ。
そして極めつけは先程まで私自身としていたはずの花珂佳美さんが目の前で横たわっており、その彼女を必死に雨さんが呼び掛けている。
現実に対する理解が追い付かず、次第に私の精神に動揺が走る。意味が分かんない。何で佳美さんの身体から抜けてるの? この身体は誰なの?
出した結論は逃亡だった。雨さんには気付かれることはなく、走って走ってやがて足を止めた私はまず情報収集を始めた。まずは着ている服、二年五組とでかでかと書かれているクラスTシャツとスカート。スカートのポケットには携帯もあったのでなんとか指紋認証で解除。アプリやメモ帳というのは便利だ。一つ一つフロー状に追っていけば大抵の事はわかるんだから。
彼女の名前は
以上、いやそれくらいしかわからないのが当たり前なのだが特に広げる情報がこれ以上見あらない。誰と遊ぶ予定とか塾に通っているとかそういう些細な事とかでもあればと思ったが何もないくらいに彼女は真っ白だ。
さて、それではどうしてこうなったかの原因究明に入ろう。
どうして私と彼女の意識は入れ替わったのか? 佳美さんの時には意図的に入れ替えることが可能だったけれど今回のケースは全くの別物。私と彼女が互いにぶつかりあった、その衝撃で切り替わってしまったのだとしたら日本、いや世界中でも同様のケースが報告されているはずだ。
私が神使であることが重要なのだろうか。うーん、駄目だ思いつかない。
結局、その日はそのまま帰宅することしか私に選択肢はなかった。
碧という名前で呼ばれるのは違和感だ。なんせ私のパートナーとも言うべきあの人の名前だし。
「碧-、ご飯よー」
「はーい」
碧さんの家族は普通で子供は私の他に弟がいたようだ。中三でちょっと生意気だが暇あると料理してくれたり、お風呂作ったりしてくれる優しい子。素直じゃないところはあの人そっくり。男の子は素直になるの苦手だもんね。そういうツンデレ、嫌いじゃないよ。
もう文化祭から一か月も経とうとしている。佳美さんの様子を見に行ったが驚いた、笑っていたんだ。あの子が、花珂佳美さんが。
私がずっと見続け、禁忌を破ってまでも救い出した彼女が笑っている。あの頃のように辛く、現実を地獄としか捉えられなかった彼女の精神はどこにもない。しかも喫驚はまだ終わらない。彼女が笑っているその会話の相手はまごうことなき雨さんだ。どうやら髪を切ったようでさっぱりしていて、清潔感もある。大方、侑奈さん辺りにいい美容院でも紹介してもらったのだろう。前は髪がもっさりでよく寝ぐせを直さないまま登校していたし。やっぱりカリスマのリア充様にかかればハイパー大変身しちゃうんですね。
そんな二人が話していたのはヲタク談笑。アニメやラノベのマシンガントークが止まる事を知らない。どうやらこの一か月で数年分の情報が彼女にインプットされていったようで誰よりもその興奮を誰かと共有したかったらしい。そんな相手、一人しかいない。
色々とパニックになることを恐れていたがその辺は雨さんが上手く対応してくれたので安心した。流石雨宮蒼、そこに痺れる憧れるぅー! えへ。
で、どうしようか。
そろそろ雨さんに事情を説明し、今後の事を決めておかないといけないもんなぁ。
あの日の話の続きもしたいしね。もう色々とわかっているようだしね。
口実はそうだね、放課後にふらっと声をかけて、どこかラーメンでも食べながらお話しますか。ついでにあの人クール系な子好きだろうからちょっとからかってやろ。ボクっ娘アピールも忘れずにね!
× × ×
「こんな次第なんですよ、雨さん」
「こんな次第なんですか、神様」
「本当はもっと早く声をかけるべきだったんですが色々と気持ちの整理とか碧さんの身辺整理もしないといけなかったので」
言い方な。身辺整理はよろしくない。
「それでどうでしたか? 久々に私とお会いして」
「安心したよ。相変わらずで」
「碧さんが生粋のボクっ娘でよかったですね」
「事が解決したら改めて友達になりたいもんだな」
「今でもハーレム計画進捗良好状態なのにまだ進める気ですか」
やかましい。ボクっ娘も俺の脳内ドキュメントに色々なアーカイブを残していきたいからその為にも懇意にさせてもらいたいんだよ。
さて、とりあえずわかった。で、ここからが本題。
「衝突が原因、か」
「でもそれだけではありません。やはり何かが欠けている気がするんです。だって普通に考えてもおかしくないですか?」
「そりゃそうだ。正面衝突で入れ替わりがしょっちゅう起きるならもう日常茶飯事でラノベの題材でも広く取り扱われてる」
つまりそこに+aが必要になる。そうなると片方が神様だからか? いやもっと、何かもっと重要な秘密が残ってるんじゃないか?
「さてと、それじゃ問題は一度置いといて、今日の本題に入りますか」
「いや入っちゃ駄目だろ。大体、今日はその原因を話し合いにきたんじゃないのか?」
「違います。一番大事な話が残ってるじゃないですか」
「残ってる?」
「とっくにご存知ですよね?」
その含みある言い方で察した。
神様との大事な話、それは文化祭の時に話せなかった約束の件。
「それでは改めてお聞きしましょうか」
けれどそんなの考える余裕もなかったというのにここで本題を持ち上げてくるのはずるすぎないか?
だがこちらの事情などお構いなしに彼女はこの質問を投げかけてきた。
「あなたの変えたい世界は決まりましたか?」
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