第4話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。4


 ラーメン後はそのまま帰路に着いた。

 本人に色々と訊きたかったのだが、「ごめんね。今日は僕用事あるから」と行ってしまわれたので一人寂しくテクテクモード。なんかストーキング中の三人もいつの間にかいなくなってたしね。

 それにしても本当に神様。いや実在するかどうかはもう突っ込まねぇ。

 もっとさぁ、俺にラブコメストーリーをカテゴライズしてもよかったんじゃない? デスティニー的な出会いを与えてくれてもよかったんじゃないのぉぉ? いや確かに運命的だけどさ。これは文句の声が出てしまいますよ。

 けど無事でよかった。その想いは変わっていない。雨宮蒼という人間が知っているあいつは確かにそこにいたのだ。物陰一つ見せなかったはずなのにひょんなところから出てくるんだから人騒がせもいいところだ。


「たでーま」

「おかえりー。ありゃ今日は随分早いね」

「澪霞もだろ。部活は?」

「休みだよー。テスト前だからね」

「聞くんじゃなかった……あーめんどくさ」


 中学も高校も大して試験の日程は変わらない。志閃も部活休みなので試験勉強という口実で遊ぶ連中がいつもよりも多い。そうよね、皆でパーッとしたいもんね。前夜祭というの名の別れの宴というところだろう。何に対する別れか? それ以上は言うまい。おかげで今年の三者面談は憂鬱ですね、ええ。


「そういえばさ、お兄ちゃん」

「何だ? 今期のアニメなら部屋だけじゃなくてリビングのプレーヤーでも録画してあるぞ」

「それはさっき確認したよ、あんがと。そうじゃなくてお兄ちゃんと同じ学年に鹿米さんっていない?」


 考えるまでもない。流石の俺も昨日見知った人の名前を忘れるほど馬鹿ではないし、つい数分前までそいつの事が頭にあったわけだもん。


「知ってる。なんなら今日一緒にラーメン食べてきた」

「おや? もしかしたらもしかすると」

「お前の言いたい事は分かるが違うからな」

「だよねー。お兄ちゃんの彼女なんて血縁関係並の深い間柄じゃないと」


 それだと誰も付き合えないんですがそれは。


「で、鹿米さんがどうかしたのか?」

「うん。私のクラスの鹿米さんの弟さんがいるんだけど、最近お姉ちゃんの様子が変なんだって言ってたから。で、お兄ちゃんと同じ志閃に通ってるっていうから知ってたら何か変わったところとかないかなーって」


 変わったどころか鹿米碧本人は今の彼女にはいないんだとは言えない。本人だって最初は困惑してたんだろうし。つか元からボクっ娘じゃなかったらちょっとお説教だからな。純粋な青少年の心をもてあそんだ罪は重い。


「いや何も知らん」

「ふーん。そっかー、翔君可哀そうー」

「きっとその内経てばいつも通りだろ。というより澪霞さん? 何で名前呼び? もしかして巷で噂のカレピッピ?」

「その言い方古いよー。んー、残念。翔君はいい子だけどアニメ苦手っぽいから駄目」

「そりゃ残念」


 俺同様まではいかないがそこそこのヲタクに育っている以上、交際する上で受け止めないといけない。そう考えると俺と付き合おうとしている五日市とか北条さんってその辺忘れてないだろうか。

 話を終えたので自室に戻り、ベッドへ寝転がる。携帯を見ると着信が二件。一人は神様、いや花珂さんから。メッセも来ていたのでそっちの方で確認すると、『明日暇なら映画見に行きません?』とお誘いのお言葉が。予定はないが少し考えたいので保留。

 もう一人は本日注目度No一の彼女、鹿米碧さん、現神様。こちらも着信だけじゃなくメッセが届いていた。

 内容は『今日はごめんね。もし蒼が明日暇ならどこか喫茶店とかで詳細な事話したいな。文化祭から今日に至るまで何があったのかとかね。そしてこれからの事もね』との事だ。

 ダブルブッキングかー。そうなるとどちらを優先するか。旧神様、現神様。いやどちらも別人なんだけどね。

 花珂さんは最近ちょっと遊びに行ってないしなぁ。別に好感度を上げたいとかではないが彼女も生粋のヲタクである。話が合って盛り上がる空間を作れるというのはとても有意義な時間の使い方だ。それに俺個人としてはどうしても花珂さんを

 一方で碧の方は深刻だ。新しい身体になったが根本的な問題は解決していない。神様が今の碧の意識にいるということは元々あった鹿米碧の意識は閉ざされてしまっている。元の木阿弥だ。それにリュナさんの言っていたことも気になる。そういや最近顔を見てないけどあの人何してんだろう。

 どちらも重要機密。しかし優先度高いのは後者だ。だがそれで花珂さんの誘いを断るというのも申し訳ない気がしてならない。


「……しゃーない」


 少し考えた後に二人に送る文面を綴り、返信後、そのまま携帯を放り投げて深い眠りについた。

 何だか久々によく眠れた。ここ最近は何もなかったのにやけに眠りが浅かったからな。



 × × ×



「で、そういう事情があるので今日は長くいられないと」

「悪いな。神様だって花珂さんの事わかってるだろ?」

「ふーん。そりゃあね。多分蒼が知ってる以上には」

「ならその辺も鑑みて頼むよ。あと神様の時で俺に話す時はいつも通りで」

「この顔であの話し方って似合わないんだよねー。だから碧の時は蒼の方がしっくりくるっていうか」

「……もう任せます」


 翌日の放課後。

 馴染みともいえる喫茶店『RABAS』に碧を呼び出し、昨日の話の続きをしようとしていた。学校近くだとまずいんじゃないかと思うが傍から見れば俺達が話していることなんて学生の痛い妄想にしか思われないだろうし。


「それで? まず確認したいんだが本当に神様で間違いないんだよな」

「ええ、間違いないよ。君の知っている花珂佳美時代にいた神様だよ。今はちょっとバージョンアップしてクール系美少女鹿米碧さんの元に居候させてもらっているけど」

「さいですか……ちなみに理由とかっていうのは」

「もう蒼も予想ついてるでしょ」


 平然とそう告げる彼女の言う通り、心当たりがあるのだ。

 文化祭二日目、いやもう終了して後夜祭もクライマックスという所で神様は突如降ってきた女の子と正面激突した。幸い大きな怪我はなかったのだがその時からだった。花珂佳美から神様が消えたのは。


「佳美さん、元気ですか?」

「今は元気だよ。当初は色々と大変だったし、彼女の環境を乱すわけにもいかないので嘘をついてるし」

「嘘?」

「お前ならわかるだろ。いきなり目覚めたら全く


 そう、本当に大変だった。

 あの時、花珂さんは自分がまだ中学二年生であると思っているという事、そして俺の事はで名前と顔だけは知っていたらしい。それ以外は全くわからずそもそも自分の最後の記憶が川に飛び込んだところで止まっているらしい。

 流石に焦った。ここで彼女がパニックでも起こし、騒ぎになればご家族にも連絡がいき、そうなった時に一番困るのは彼女だという事を。

 ひとまず俺は咄嗟に思いついた嘘を話した。それは川に飛び込んだ後、偶然助かったという事だが時々記憶が忘れてしまいがちで今もその現象の一つだと。また騒ぎにしたくないから唯一の知り合いである俺には話していたと。

 苦し紛れの嘘だったが何とか納得してくれたようで今はそれで通している。


「そうですよね……でも元気なんですね……」


 碧、基い神様の表情に優しい笑みが浮かんだ。心配な気持ちはお前の方が大きいもんな。


「それじゃあ本題に入ろうか」

「そうですね……とりあえず順追って語りましょうか」


 ゆっくりと回想を聞くとしますか。

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