第3話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。3


「うし、終わりっと」


 授業終了のチャイムが放課後を知らせたのと同時に教室を勢いよく飛び出した。

 既に連絡は来ているので待ち合わせ場所である校門前へ急いだ。放課後イベントがあるということなのでお昼は抜き。食い意地を張るつもりではないがあの子と二人でラーメン……いや悪くない、悪くないぞ!

 そうしてたどり着いた先には既にHRを終えた碧が立っていて、こちらに気付くと手を振ってくれた。


「雨宮君お疲れ様ー」

「碧もお疲れ。つか校門前でよかったの? かなり目立つと思うんだけど」

「別に? むしろそっちの方が気にしないと駄目なんじゃないの?」

「あ?」


 ほれほれと言わんばかりに俺の背後を指さしたのでゆっくりと振り向くと昇降口からこちらを覗く顔が三つ。


「……あれなんなんですかね?」

「知らない。私が聞きたいわよ、本当」

「ふーん。またヒロイン追加ですか、そうですか」


 教室を出る時に何か声かけられたような気はしていたが気付かされてましたか、そうでしたか。お昼の時にやけに疑われてしまったのでそうだろうとは思っていたけどね。こんな形でラブコメ系ラノベの展開始まってしまったが致し方ない。でも痛い目に合わせるのだけは辞めてね?


「とりあえず行こうか。このままだと俺の命が危ない」

「そうなの? ま、いいよ。僕も早くラーメン食べたいし」


 と、隣にいた碧が俺の手を掴んだ。ぎゅっと伝わってくる感触が余計に緊張を昂らせる。この女、やるな……。

 が、ぶっちゃけこんな手を掴みながら移動するくらいの距離ではない。食べたいラーメン屋は本当に学校近くにあったので歩いて五分程度。当然後ろのズッコケ三人組も変わらず同じ。図書館でよく読んだなぁ。


「雨宮君はさ」

「蒼でいいよ。俺だけ名前呼びなのもなんかおかしいし」

「んじゃお言葉に甘えて。蒼はさ、アキバによく行くの?」

「よくって程じゃないけどそこそこはね。まあ遠いから月に一回くらいだけど」

「へえー。アキバで具体的にどんな買い物するの? やっぱりフィギュアとか同人誌とか?」

「よく同人誌を知ってるな。俺はあんまりフィギュアは買わないかな。場所取るし」


 あとは澪霞がよく部屋に遊びに来るのだがその際誤ってフィギュアを棚から倒してしまったりするからね。どうしてあんなに躓いたり、手に取ったフィギュアを落としてしまうのかは知らん。知らんし許さん。


「あ、着いた着いた。今日は混んでなさそうだね。いつもは授業終わりでもかなりの人混みなんだ-」

「ふーん。如何にもなラーメン屋だな」


 巷で流行ってるようなお洒落な感じではなく、昔ながらの暖簾とでかでかと『ラーメン小石』と書かれた昭和風の看板。碧がこちらに構わず、さっさと扉を開けて中に入っていくので後に続くと「らっしゃい!」とこれまた期待を裏切らない店主。適当にカウンターに座ると「塩ラーメン二つ」と勝手に注文された。


「塩でよかったよね?」

「それがおすすめなんだろ?」

「うん! 一番おいしいのは醤油だけどね」


 じゃあなんで塩にしたんですかね……。

 内装も油でベトベトの床に端っこの本棚には某有名な百巻超えの漫画がずらりと置いてある。厨房の方に掲げられているメニューを見るとラーメン以外も中華料理だったり、提供しているお酒が豊富だったりとどうやらバリエーションに溢れたラーメン屋らしい。

 だが俺は信じている。こういうラーメン屋は外れない。油でベトベトなのは常に調理をしているからであり、至る所で綻びが見えているのも長く営業している証だ。このラーメン業界、ユーザーが離れてしまえば長続きは難しく、毎年畳む店も少なくはない。

 何よりこんな美少女が勧めた店というのが最大の決め手だ。


「お待ち。塩二つね」


 カウンターにどんと置かれたラーメン丼からは早くも腹を刺激する匂いが漂ってくる。ふむ、この匂いはただの塩ラーメンではない。貝類を出汁として使っているな。

 隣に目をやると既に碧が美味しそうに面を啜っている。

 だが俺にはラーメンを食べる時に必ず守っているがある。今回もその通りに進めていこう。

 まず匂いを味わったところで次はスープ。別に最初に麺を食べるのがNGではないがスープとはいわば麺を最大限に活かすためのステージ。ライブだって会場着いたらまず周囲の雰囲気を楽しむのと同じだ。うん……この魚介類の旨味……ファンタスティィィクゥゥ!

 おっと失礼、乱してしまった。さて次は……いよいよ麺を味わう。ここは一気に啜るのではなく、軽く一口で食べれる定量を啜り、噛み締める。これを何回か繰り返し、途中でスープを飲む。替え玉を頼むことも考慮して飲み過ぎないように注意。もちろん替え玉も頼みすぎはNG。食い過ぎて動けないというのはせっかく味わったハーモニーを雑音で汚してしまうのと同等の行為だ。

 以上が俺の一連の食べ方である。フッ、第三者目線だとウザイな、これ。でも辞められない。


「どう?」

「想像以上のうまさだな。塩ラーメンに出汁として海鮮の旨味を使っているのは素晴らしい」

「ちなみに醤油ラーメンも普通の醤油ではなく魚醤油うおしょうゆのいしりを使ってるんだよ」


 ふむ、では明日また参ろうか。


「いやー蒼が満足してくれてよかった」

「こっちこそいい店を紹介してもらって嬉しいよ。ありがとな」

「いえいえ。これで助けてもらったお礼が出来るというものなので」

「……助けた?」


 また俺何かやっちゃった系の主人公にシフトしたの? 確かに異世界への進路希望は出してみたい気もするけどアキバに行けない世界は駄目だよなぁ。

 で、真面目に思考モードに切り替えるが全く思い当たらない。殆ど知り合い以外とは会話しないし、強いて言うなら文化祭……文化祭だよねぇ……。


「その顔は覚えてないってやつだよね? まあ僕はあの時、さっさと行っちゃったからねぇ」

「あの時?」

「ヒントは文化祭、さらに大ヒントで後夜祭」


 その言葉である出来事が脳内検索でヒットした。

 神様が変わってしまった出来事、謎の少女との激突。


「そしてそして大大大ヒント―」


 言うと、葵はこほんと軽く咳ばらいをして、箸をおくとこちらに顔を向けて、笑顔でこう言った。


「雨さん、相変わらずの主人公ぶりですね」


 その話し方に俺は箸を落とした。

 忘れるわけがない。まだ文化祭が終わってからはそんなに長い期間は経ってはいないのだから。

 という訳で答え合わせです。


「か、神様?」

「ふふふ、僕の正体を見破ったね、蒼。いや雨さん?」


 声のトーン変えるの、いいと思います。



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