第2話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。2
「あれ? 君って文化祭の時に見かけた……」
「雨宮の知り合いか?」
「一応知り合い……なはず」
答えを濁した俺の視線の先に唖然とし、信じられないような表情をしながらリズが目の前のカップルを見ている。わかるぞ、声優の『ご報告』の見出し記事並に辛いものだと感じ取れる。いや最近はむしろ結婚したらおめでとうございますというのが率直な感想なんだよなぁ。いい事だしね。
なんて事を口にするとお前、自分が好かれてるから調子に乗ってんじゃねぇよ、ゴミと暴言を吐き捨てられそうなのでお口チャック。
「あ、あの……失礼ですが間違えなければ速水楓さんですか!?」
アイドルの握手会並の気迫で尋ねるリズ。速水楓は歌恋のPNだっけ。
「そうですよー。というか一度会ってますよね? 蒼君の文化祭に私も行ったんですよ」
え、そうなの? 歌恋っていつ来たんだ? うちの高校に友達がいるってのは聞いてたけどそれが魔棟? その辺の事もあとで聞こうかな。付き合うまでに至った成り行きには興味あるし。
「あ、あの! 俺はその! はははは速水さんんのだだだ」
「そこまで緊張するか?」
「馬っ鹿! お前失礼にも程あるだろうがぁ!」
と、物凄い勢いで逆上した男が顔を近づけてきた。キモいから下がれ。
「えーと……もう少しフランクに話してほしいかな? 駄目?」
「めめめめ滅相もないですっ! こちらこそよろしくお願いします!」
「全然出来てないし……」
そもそもそこまでのファンだったっけ、お前。
とりあえず埒が明かないので一度落ち着いたところで見計らって適当に話を濁すか。なんとなくだけどもう一度魔棟が歌恋と付き合ったというワードを聞いただけでも発狂しそうだしね。
「魔棟。さっき一階で前にお前が好きだって言ってたソシャゲの期間限定ショップがオープンしてたぞ。よかったら行って来たらどうだ?」
「もういった。歌恋が書いたキャラだったからな」
「結構前に描いたキャラだったから懐かしかったなー。あれSSRキャラなんだけど私引けなくて」
「課金が足りない。神絵師なんだからもっと運営に積め」
「えー。イラストレーター特権とかでくれないのかなー」
「無理に決まってるだろ。そんなのしたら誰だって絵師を目指す」
「目指してもイラストレーターとして成功するかわかんないけどね。私も続けててよかったよ」
「継続は力なりともいうからな。まあ他の三流絵師よりかは遥かにレベルが超越してるというのは確かだな」
「三流絵師とか言わないの」
そう言いながら歌恋は指で魔棟の頬をつついている。もう完全二人だけの世界を広げてらっしゃり、俺ら眼中にないってことでいいっすか? つか邪魔しちゃったね。ここらで失礼しました……と立ち去りたいところだがその光景を目にした男が黙っているはずがない。
「な、なぁ雨。速水さんの隣にいるあの陰キャの塊みたいな男はお前の知り合いか?」
「お前も俺も十分な陰キャだよ。ああ、文化祭の時見てなかったかもしれないけど学校の友達」
「そ、そうか……やけに速水さんと仲いいし、さっき俺の聞き間違いかもしれないが付き合っていると聞こえたような」
「な訳ねぇだろ。俺が保証する。さあ、早く見て回ろうぜ」
「そ、そうだな」
尚、この嘘は一か月後くらいに歌恋がSNSで『彼氏とデートなう』と買ってもらった指輪を薬指に嵌めた画像を機にバレ、俺が酷い目に合うという後日談が待っている。
展覧会も回り終え、俺は秋葉原の街を一人で歩いていた。リズはこの後オフ会があるらしくお別れ。そのまま帰ろうとも思ったのだがせっかくの秋葉原。このまま帰るのは持ったないので適当にぶらついている。
電気街の方は平日でも外国人観光客やらで賑わっており、どの店も人がいっぱい。
ちなみにいつも通りアニ〇イトやらとら〇あなやらを見て、仕上げに近くにある家系ラーメンを食べて帰るのがルーチンワークとなっている。
とはいえつい最近大宮の方の支店でも見たばかりなので特に目新しい物もないのでこのまま家系直行になりそうだ。
だが何も買わないのであればせっかくだし少し足を伸ばして、東京駅の地下街に美味しいラーメン店が連ねていると風の噂で聞いたので行ってみるのもありだな。
「どうすべきか……」
一考するもすぐに答えは出てこない。
いつものルーチンワーク通りでいくか、はたまた少し散財してみるか。もしくは真っすぐ帰宅し、出費を抑えるか。
「あ、みーつけた」
声が降りかかったのは突然だった。思わず顔をやると視線の先に女の子がいた。可愛い。肩まで伸びたセミロングヘアがとてもさらさらしてる。顔立ちも普通にレベルが高い。神様やら刹菜さんを見てきた俺が太鼓判を押してもいい。
で、何の御用でしょう。
「アキバって平日なのにこんな人いるんだねー、私迷っちゃった」
「えーと……すいません、失念しているのですがどこかでお会いしました?」
「ん? あーあー、ごめんごめん。僕ったらすっかり忘れちゃった。失敗失敗」
余談だがユマロマはボクっ娘大好きなので今の言葉を聞いたら、歓喜のあまりさっきのリズとは違う意味で発狂するだろうな。てかこの三次元で僕呼びのこんな可愛い女の子がいていいのか? ありなのか? 何だか俺が困惑してきたぞ。
で、その女の子はというと俺の目の前に来て、こほんと軽く咳払いするとまた口を開いた。
「僕の名前は
「へえー。君もあおいなのか」
「はい! 雨宮君と同じです。今日はたまたま用事があって、学校を休んでたんだけど前からアキバってどんなところか気になっててさ。それで簡単に回っていたら雨宮君の姿を見つけたからつい声かけちゃった。えへへ」
鹿米さんが満面の笑みを浮かべた。何その反応。それ反則技だよ? 俺の知っている範囲でそれやるの神様くらいだからね。いやそれはどうでもいいや。
「鹿米さんは俺の事知ってるんだ」
「碧でいいよー。呼びにくいかもしれないけど」
「んじゃ碧さんで」
「さんもいらない。同い年なんだし」
「んじゃ碧。なんか自分を読んでいるようでむずむずする」
「同じ名前なんだし仕方ないねー。ま、僕と雨宮君が付き合ったらそういう呼び方が当たり前になるかもね」
「ははは、冗談がうまいなー」
これ以上頭痛の種を増やす真似なんて今の俺が出来る訳がない。というよりそんなことを五日市と刹菜さんに知られたら今度こそ俺はどこかの山の奥か誰も知らないようなビルの地下で酷い目にあうかもしれない。
「ところで雨宮君は今何してるの?」
「あーどうでもいいことについて悩んでた」
「どうでもいいこと?」
「ラーメンをここで食べるか、東京駅で食べるか。もしくは我慢して家で親の飯を食べるかの三択」
「ふーん。面白そうな悩みだね、あはは」
くだらない悩みに笑ってくれてありがとう碧。やっぱ自分の事を呼んでるみたいでキモいな……槻木宮の事も絶対名前では呼ばないようにしよう。
「そっかそっかぁ。それじゃあこういうのはどうかな?」
「こういうの?」
訊くと碧は指を一本立てて、提案を始めた。
「今日、我慢して明日僕と一緒に学校近くにある美味しいラーメン屋に行く。いいところ知ってるんだよー」
「何それ。碧が行きたいだけでしょ」
「バレた? でも一人で行くのもあれだから誰かと行きたかったんだよね。で、どうでしょうか? 今日はこのまま我慢し、明日はこの美少女女子高生である僕とラーメンというのは?」
「……いいよ。なんか碧と話してるの楽しいから乗った」
「いぇい。じゃあ明日連絡するから連絡先交換しない?」
「はいよ」
互いに携帯を取り出し、互いの連絡先をQRコードで読み取る。まあ友達関係で行く女の子のご飯くらいはスルーしてくれるだろう、多分。細かい事は考えた所で答えに行き着かないのだからね。
「それじゃあね。また明日、雨宮君」
「おう、じゃあな」
駅の方へ向かう碧の姿が見えなくなるまで手を振った。いやーボクっ娘で美少女にラーメンが好きそうと見た。
未来に楽しい予定があるっていいものだな。
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