第7章世界は君が思うよりも蒼く、そして青い。
第1話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。
蒸し暑く、過ごしづらかった夏が終わり、涼しさとちょっぴり寒さが漂う秋が訪れた。夏も好きだが過ごしやすさで言えば秋が断トツなんだよなぁ。
文化祭から一か月とは思えないくらいにまだ学校中の熱は冷めない。というのも決して俺がこれまでの事件の犯人じゃなかったとか刹菜さんは被害者だったとかそういうことではない。
まず一つは文化祭中にめでたく結ばれた恋人達の熱が治らないという事。まあイベント事ではお決まりといってもいいくらいだからそこは仕方ない。一番驚いたのは魔棟に彼女ができたという衝撃事実なんだが。いやあいつどのタイミングで作ってたんだよ。
ちなみに相手が歌恋ということも色んな意味で頭を悩ませることだった。
もう一つはそうして自分も幸せになろうと奮起立つ者達。
丁度この文化祭であるベストカップルが別れたというニュースもあるのでこれぞとばかりにアプローチ仕掛ける
「どうしたました雨宮さん? 何か考え事をしているようですけど」
「いやなんでもないよ……花珂さん」
「佳美でいいですよー。細かいんですから」
「すいませんね。細かくて」
ああ、忘れてはいけない。個人的な問題がもう一つ。
文化祭終盤で起きたとある少女の衝突。それにより俺の知っている神様は……消えた。うん、もう彼女の面影は花珂佳美にはない。今俺の目の前で会話している彼女は本来の花珂佳美の意識である。
何度も何度も確認したがその度に「雨宮さん、何言ってるんです?」と、怪訝そうな顔をされるので流石にからかっているとかではなさそうだ。もう訳が分からな過ぎてここ最近の俺のトレンドと言っても差し支えない。
「神様、気にしても無駄。細かいことを考えているようで考えてないんだから蒼は」
「まあ蒼だからねぇ。昔からこんなんだし」
「同調しないでもらえます?」
んで何故か知らないけどこの二人もおまけについてきている。
一人は文化祭以降どこで仲良くなったのかは知らないがいつの間にか"神様"呼びをしている五日市。もう一人は同じく文化祭以降で俺の所に顔を出すようになった刹菜さん。
この一同が介しているというのは物凄く珍しい光景なのだが色々と複雑な心境でもある。うん、そろそろですね。
「ところで雨宮さん。昨日からアキバでシスルプリンスの展覧会が開かれているんですけど放課後行きません?」
「あ、神様ごめん。今日さ、こいつ私と大宮に出来た新しい映画館行く予定なんだよね」
「あら? 蒼は私と二人で今期アニメの総復習をする予定なのだけど……」
そうして睨み合い均衡する三人。
そろりそろりとテンプレのように逃げようとするがこの手のシーンは逃げきれたことはないので、
「雨宮さん。どうしますか?」
「当然約束は守るわよね?」
「ふーん、蒼は私と一緒に私の家でご飯食べたくないんだ」
最後のおかしくない? アニメ見るんじゃないの?
それはさておき、こちらに回答を求める視線。もちろん答えは決まっているので致し方ない。
「二人共申し訳ない。今日は五日市が一番初めに約束してたからまた今度で」
「えー! また侑奈先輩ですかー!」
「ごめんね。や・く・そ・くだから」
わざとらしく挑発しない。むっと頬を膨らませてるから。可愛いけどごめんね。
一方で刹菜さんは分かっていたかのように余裕の笑みで「じゃあ来週は私が蒼君予約しとこー」と呟いている。俺の人権はどこへやら。
このように文化祭以降で変わってしまった関係。失ったもの。そして考えなければならない事。問題は山積みなのだがそれを解決してくれる指南役はいない。全て自分で背負い、見出していく。それが俺の選んだ答えというやつなのだがラノベ主人公素質ない男なのでこうしてうじうじと悩みを募らせるだけ。
今日も今日とて、五日市と映画を見に行くというデートなのにそこで答えを出そうとも考えていない。いや無理でしょ、そりゃあ冷静に考えたらそうだけど、今この場で彼女出来ましたというのもなぁ。刹菜さんが裏でとんでもない事をしでかそうだし。
と、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
どうやら話し合いもここまで。いずれにせよ平和な日々がいつまでも続いてほしいと願ったところで人間、苦しい想いを乗り越えないといけない時が多々訪れるというのが人生のバグだ。誰もが苦しまずに済む世界、そんなの創作上でしかないのだからね。
× × ×
「あー楽しかった! でも何で最後あんなにうやむやにしたんだろ」
「うやむや方が続編とかで売れるだろ」
「そっか」
「そういう商売だからな」
本当に映画、DVD商法いくない。テレビでやったことはテレビで解決しよう。伏線とか残しちゃ駄目、絶対。
それにしても大宮にもこんなに大きな映画館が出来たとはねぇ。三十年近くやっていた小さい映画館からこんなリニューアルオープンなんだもん。スクリーンが広くなり流行りの4DXでの爆音上映もお手の物。
「それで? この後どうする?」
「んー、今日は……そうだね」
くるくると指を回しながら考える五日市。このまま帰宅でもいいが女の子とのデートでそれはない。つかこの場合俺から言うべきだよな。
「飯でも行く?」
「あーうん。どうしようかなー」
あれ? 珍しく歯切れ悪い。いつもならすぐに飛びついてくるのにどした?
「やっぱごめん。今日はちょっと用事あるからここでお別れでいい?」
「俺は構わないけど……」
「悪いね。また今度ご飯食べに行こ。文化祭のお礼も込めて、ね」
「多少は遠慮してくれると助かる」
「えへへ。じゃあまた明日」
別れを告げ、五日市は駅の方へと走っていった。何か気になる所はあったが用事なら仕方ない。
さて、せっかく大宮に来たんだ。アニ〇イトでも寄って、久々にゆっくりと物色タイムといこうかな……というタイミングで携帯が震える。
差出人はリズ。このタイミングということはこいつも一緒に来て、散策かな? 果てや今からアキバ行っちゃう?
『すまん。助けてくれ。変な男達に捕まってる。今トイレからかけてる。場所はアキバの駅構内のファミレス。急ぎ頼む』
俺も全力で駅の方へと駆け出した。
「すいません。俺こいつと約束あるんで。それじゃ」
「あ! だから話は」
「あ、これジュース代ね! それじゃ!」
わざと大声を張り上げて、リズの荷物を持った俺は二人でそのまま出口へ駆け出した。店員が怪しそうな目で見てくれるおかげで連中も呆然とするしかない。
しばらく離れた所で足を止め、リズに荷物を手渡した。
「ほらよ」
「ほんっとうに助かった!」
「宗教まがいの連中には気を付けろってユマロマも言ってただろ」
「いやーそうなんだけどさ。つい」
今だから笑い話だが俺来なければどうなってたことか。知り合いだからこそ本当に怖い話だこと。
「で、もう大丈夫なら適当に同人誌漁りにいくけどお前は?」
「あーもしそうなら今アキバでシスルプリンスの展覧会やってんだけどいかね?」
そういやかみ……花珂さんもそんなこと言ってたっけ。ちなみにシスルプリンスとは歌恋のサークル名である。しかし先に見るのは抜け駆けな気もするけどいいか。二回いけばいいだけだし。
「どこにあるんだ?」
「駅の中だよ。三階にある」
リズに連れられ、駅に併設してあるショッピングセンターの三階の展覧ブースへと向かうと夏コミで見た歌恋のイラストが出迎えてくれた。大きなポスターがビル内の至る所でも見受けられたし、こうして展覧会が開かれている様を見るとあいつもかなり有名になったもんだ。
「もう三回目なんだよなーここくんの」
「暇なのか……」
チケットを購入し、早速中に入るとこれまで手掛けた商業のイラスト紹介から始まる。額縁に飾られたイラストは素敵、素晴らしいという言葉くらいしか俺の語彙力では表現できない。つか本当にどうやって作ってんの。
「あれ? 蒼君? もしかしてきてくれたの?」
蒼という言葉に反応して振り向くと噂をすればのイラストレーター、歌恋と隣には何故かではないが魔棟が制服姿で並んでいた。
「魔棟も来てたのか」
「
「まあ……用は無いし」
そっぽを向いて顔をほんのりと赤くする魔棟があまりにもレアで思わず吹いてしまい、ぎろっと睨まれた。いや君がそういう顔するの知ったら誰でもこんな反応になるって。
「ああ、そういや言ってなかったな。おめでとさん」
「何がだ」
「いやお前ら付き合ったんだろ?」
「そうだけどお前、こういうところでそういう発言をするな。誰が聞いているか」
そこまで言いかけて魔棟が口を止めた。何だ? と顔をやると俺の後ろに視線を合わせているようで振り返るとそこには、
「つき……あった……?」
唖然としているリズがこちらを見つめる様が。
ん? なんかこれまずくない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます