第20話フェスティバルは終わらない(後編)20
刹菜さんと別れ、グラウンドにやってきた。
後夜祭もそろそろお開きという頃合いで徐々に姿を消す生徒が増えていく。
ちなみに刹菜さんは「ちょっと結衣に会って来るね」と友人の元へ行ってしまったので俺も帰るだけなのだが誰か残っているかなーと探しにきたのだ。
まあこういう時に限って大体都合よく残っているのは……ああ、いたいた。
「お疲れ様」
「あ、まだいたんだ。刹菜先輩は?」
「友達のとこ。五日市は?」
「一華と話してたけどこっちも友達のとこ行っちゃったから帰ろうかなって思ってたとこ」
「そか」
「そ」
いるとはわかってたけど思った以上に早く見つかってよかった。お礼言いたいのと一応こいつとは個人的に話したい事があったし。
「ありがとな、今回の事」
「別に。会長にむかついてたのはあんただけじゃないし、今回なんて殆ど魔棟君が働いたようなもんじゃない」
「そうかもしれないけど全員に感謝してるよ。俺が見てないところで皆色々と頑張ってくれたんだろ?」
「それなりにはね」
「だったら感謝の言葉くらいはな」
「ふーん、言葉だけなんだ。私は全員に焼肉の食べ放題を奢ってくれるものだと思ってたんだけど」
「……前向きに検討しとく」
財布の中身を必死に思い浮かべようとするが全然思い出せない。元々お金なんて入ってすぐ使っちゃうようなタイプなのでろくに溜まってないのだけは確かだが。仕方ない、ライブブルーレイ購入用に溜めてたお年玉を解放しますか。
バンドの演奏が終わり、司会者の挨拶が始まった。どうやら締めるようなのでばらけていた生徒達が一気に中心のステージに集まっていく。
今なら皆見てないからタイミング的にいいだろう。
「あのさ……告白の返事なんだけど……」
「……決まってないんでしょ」
「あ、えと……いやあの……」
言葉に詰まった俺は必死に捻りだそうとするが頭の中に何も浮かばない。我ながら言葉のボキャブラリーの少なさに情けなくなる。
そんな見苦しい姿に五日市は小さく息を吐いた。
「いいよ。もう少しだけ待ってあげる。でも待たせるからには納得のいく返事じゃないと駄目だから」
「はい……善処します……」
「よろしい。それじゃ私達もステージいこっか」
と、五日市は俺の前を走り、ステージの元へと駆けていった。いや本当は答えは決まってたんだよ。
この文化祭、いやそれより前からずっとだ。皆が信じない中でただ一人俺の潔白を認め、何よりいつも一緒にいた。それが委員長だからとか生徒会だからとかは関係ない。
いたかったんだ。五日市侑奈という女の子が目に見える所にいる。ただそれだけの事を叶えたかった。そんな気持ちをここになって気付くとはつくづく面倒な性格をしている。
だからこそ迷った。そういう事を思ってるってことはつまりはそういうことだよな、と。なら答えは簡単と言いたいところだがそれじゃあ終わらない。刹菜さんの約束の事、そしてあいつの事。
不器用だからこそ必死に考えた。自分がどうありたいか。どうあるべきか。
何度も何度も。考えてもわからないなら誰かに聞くべきかもしれないけれどこればっかりは自分自身で答えを見つけ出すものってことは俺にも分かる。一人で抱え込み、一人で苦しみ、一人で見つけた答えが俺の求めている未来だ。
いつか言った。人は自分の青春という名のページを毎日こつこつと執筆していると。その思い出がお金では叶えようのない財産になるということも。
この半年を振り返ってどうだっただろうか。色んなことがあり、色んな人と知り合い、色んなことを味わった。初めてのことばかりで時には嘘をつき、時には罵倒されたりもした。自分が正しいと思っていたことも第三者から見れば大きな間違えというのも知った。
もちろんまだ終わりではない。高校生活はまだ一年以上あるし、人生だけでいうならばもっと長い。
しかし俺にはやらないといけないことがある。
あの子の意識を取り戻さないといけないから。
でもその為には……ああ、いや今はよそう。文化祭が終わるまでは少なくともあの件に関しては触れないようにと決めたはずだ。
思考の海から一瞬現実に戻るとどうやら締めの挨拶が終わり、ぞろぞろと校舎へ戻っていく生徒が見える。五日市の姿はその人混みで消えてしまった。
もう俺も帰るか。と、校舎の方へ振り向くとまた見知った顔があった。
「神様」
「ん? ああ、雨さんお疲れ様でした」
「お疲れ様。後夜祭出てたんだ」
「あーはい。まあちょっとばかし」
目を逸らしながらぽりぽりと頬をかく神様。何かぎこちない感じするけどまあいいか。
「ありがとな、その色々と」
「いえいえ、私は何もしてませんよ。全部雨さんがやっただけですから」
「それでもだよ。今回はお前がいないと駄目だった」
「……その言い方はずるいって言われません?」
笑った彼女は僕の腹を軽く一突き。同じように笑みを浮かべて話を続けた。
「あのさ……俺、神様と」
「あ、その前に鞄だけ取りに帰ってもいいですか? 帰りながら話しましょ」
「あ、ああ。そうだな。じゃあ俺も行くよ」
やっぱ難しいな。ここにきて、シリアスな話だもんなー。
でも神様だってもしかすると薄々は気付いてるかもしれないからいい加減やらないとまずいっていうか、なんといいますか。
「どうしました?」
「い、いや別になんでも」
言いかけたところだった。
丁度階段に差し掛かったところでふと目の前に突然影が現れたのが見えた。いや正確には影ではない。電気がついてないから一瞬そう思っただけでそれは実在しないものなんかではない。
女の子が降ってきた。
それは人生史上初めて目にする光景で呆然としたがすぐに大きな鈍い音が響く。それに反応して横を見るとその女の子と神様が倒れており、二人共頭を抱えている。
「え? あ、え? ええええっ!?」
なんて叫んでる場合かよ。
つかさず二人の方を向き、声を上げた。
「大丈夫か!? えと」
「いてて……あ、はい。大丈夫です」
神様の方はなんとか。もう一人は、と。
「大丈夫ですよー。かなり驚いたけど……」
痛そうにしているが何とか大丈夫みたいだ。とはいえ下手に頭を打ってたりしたら後々面倒なことになりかねん。一応病院まで付き添った方がいいだろう。
「とりあえず神様、今から夜間の受付やってる病院へ行くぞ」
「あ、別にそんな……あれ? あの……すいません」
「何だ?」
「ひょっとして雨宮蒼さんですか?」
「……はい?」
耳を疑いそうになる。本当に頭を打っておかしくなったかもしれん、これ。
「何言ってんだ。もしかして記憶喪失とか?」
「え? あ……そうだ。私、川から飛び込んで……あれ? 何でここに……っていうかこの制服何? ここどこ?」
周囲を怯えた様子で見渡し始める神様、やっぱりこれ大丈夫か?
記憶喪失の可能性だと救急車の方がいいんだろうか。いやまずは人を呼ぶべきか?
「と、とりあえず名前は言えるか?」
「あ、はい。雨宮さんは私の名前を知らないんでしたよね」
そう言って軽く咳払いをして、こちらを見つめると口を開いた。
恐怖だった。だってそこには俺が知っている神様の面影は何一つ残っていなかったのだから。
「初めまして。大律中学校二年の花珂佳美です。よろしくお願いしますね、雨宮さん」
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