第17話フェスティバルは終わらない(後編) 17
「で、先輩。この後どうしますか? 殴り込みいきます?」
「その前にお前は反省の色を少しは見せろ」
まあ結果的にはよかったがこちらのカードを切ることになってしまったのだからこれで対抗手段が一つ消えたようなもんだ。既に会長の元にはこの槻木宮と皆川との大波乱は伝わっていることだろうし。
皆川はあれからどうなったかは知らない。浅間さんと彼女が連れてきた皆川元カノ女性陣に囲まれ、色々と追及されていたのでまあ前と同じように涼しい顔で過ごすというのは難しいだろうな。
けど、あいつを追い詰めたところで委員会が止まることはない。まあ当たり前だよな、本当はもっとこう交渉的にやるつもりだったのにそれをこの彼女大好きな一途な子が壊してしまったのだし。
「殴り込みはなしだ。とにかくもう時間も時間だし、会わないって選択肢はないだろうな」
「やっぱ殴り込みじゃないですか」
「お前はどうして物事を物騒に考えるんだ」
少しは冷静さを取り戻したかのように見えたらすぐこれなのだから手が負えない。
ひとまずはどこかの空き教室へ戻るとするか。もう手遅れだろうが俺をとっ捕まえようと委員会の連中が来るかもしれないし。
「あ、雨宮君みっけ」
ほら、早速みつかった。
すぐに離れようとしたがその声は聞き覚えがあり、顔を向けるとどこかで見たクラスメイトの顔があった。
「北条さんか。お疲れ様」
「そっちもお疲れ様。色々と大変みたいね」
「もうバレてるの?」
「何なら雨宮君捕まえて、後夜祭で晒し者にしようかって考える人がいるくらいはね」
「ならこんな人目がつくところで悠長に待ってるわけにはいかないんだけど」
暗にさっさと消えてくれと言ったつもりだがその意味は汲んで、北条さんは言葉を続けた。
「雨宮君。侑奈からの伝言。これから生徒会室で数十分間、会長と副会長以外を足止めする。だからその間に決着をつけてほしいって」
「……ごめん、話の流れがさっぱり読めないんだけど」
「もう時間がないってこと。本気で会長達から元カノを取り戻したいんなら急げって話。じゃあね、一応私は応援してるよ」
そう告げて、北条さんは踵を返してどこかへ消えて行った。
今から足止め? 何をしでかすつもりかは知らないが少しは作戦会議ってやつをだな。
「先輩、急ぎましょう」
「雨宮先輩。私も手伝います」
「……あんがと。とりあえずデータ捜しでもするか」
まあ可能性としたら消去法で一つ心当たりはあるんだけど……。
× × ×
「ねぇ何なの。この生徒会室は客にもてなしもできないの?」
「来賓の方にはやってます。あなた達は生徒ですから」
「うっざ。マジで変な奴しかいないわ。真一も趣味悪ー」
ウザイ。
その言葉をそのまま返送してやりたい。監視とか言っててずっと生徒会室に釘付け。しかもおまけもいる。
「あのマキナ先輩。お茶です」
「あ? ウチはアイスティが飲みたいの。少しは気を使えよ」
「す、すいません!」
紀和場君も下っ端として随分大変そう。てか君って委員長だよね? 仕事は?
まあ二人がここにいるおかげで携帯一つ操作するのも制限されてしまうので無難に業務を続けている。やる事は沢山あるのが不幸中の幸いだ。
もちろんそれは私だけではなく端っこでキーボードを叩いている魔棟君も同じ。朝からずっと机から離れず、何かをしているようだけどさっぱりわからない。
「つかさー、真一が言ってた例の計画書ってどうしたの?」
「あれですか? もう消したんで探しても無駄かと」
「ふーん。じゃあこいつらに教えてもいいってことか」
ニヤって気持ちの悪い笑みを浮かべた柊先輩、いや柊は私達の方に顔を向けて口を開けた。
「知ってる? 私達が去年の文化祭から今回の文化祭に至るまでの計画をデータにしてたの」
「いいんですか? 会長が不在とはいえ私達にそんなこと言っても」
「いいんだよ。つか話聞こえてんだろ。頭悪いのかよ」
お前にだけは言われたくない。
「で、そのデータがどうかしたんですか?」
「いや。お前らはそれがあれば刹菜を救えたかもしれないなーって。もう消しちまったけどな」
「……雪村さんが書いたんですか?」
唐突に魔棟君が声を上げた。
流石に柊も驚いたのか、顔の向きを変え、にらみを利かす。
「あ?」
「雪村真一会長が去年の文化祭の運営金失踪事件の首謀者で且、今回雷木刹菜先輩に対し、自身の私情から哀れもない事実を着せたことをビラに記載して校内へまき散らし、果てや今回の文化祭の後夜祭でそれを本人に無理矢理証言させようとしている。その計画書を書いたのは雪村真一会長で間違えないですか?」
「お前馬鹿かよ。さっきからそう言ってるだろうが。真一が書いたって」
一言も言ってないだろ。
けどこいつらが馬鹿でよかった。まあ紀和場君は何かおかしいと察した顔をしているが今の魔棟君の訊き方はまるで言質を取ろうと……あ。
私は思わず魔棟君の方を向くと彼の口角が上がっている。
つまりそういうこと?
「……柊さん。ちょいと奥にいる陰キャみたいな奴、調べてもいいですか?」
「何で?」
「多分こいつ今の会話録音してますよ」
「はあ!?」
気付いた頃にはもう遅いだろう。
今頃はその録音データとやらを雨宮に送っているはずだ。そしてここから先は私の予想だけど紀和場が消したっていうドキュメントデータも……。
「調べるならどうぞ。何もしてないんで」
「何お前。いちいち気に障る口の利き方だな」
「ん? なあ、こいつってもしかして同級生?」
「うん。紀和場君はそうだよ」
「何だよ。少しはまともそうかと思ったから礼儀とやらを形だけでも示してやろうと思ったけど二人共屑ならいいわ」
ん?
魔棟君ってこんな子だっけ? ゲーム好きであまり一目でつかないようにしてて、不愛想なイメージのはず。
少なくとも喧嘩を売るタイプではない。
「てめえなんつった?」
「言い方が三下。というか俺でも知ってるわ。こいつって五日市にフラれた」
「うるせぇ!」
紀和場君が思いっきり拳を振るう。思わず声が上がりそうになるがパシッという音と共にそれは魔棟君の腕で止められていた。
「単調過ぎ。もう少し考えろよ」
そんな言葉を吐いて、彼は紀和場君の膝を蹴った。すぐにその場で蹲る委員長の姿をただ呆然と見ていることしか出来ない。え? なにこれ?
「あ、あんた。手を出したわねっ!」
「先に手を出したのはこいつだろ。何ならこの生徒会室に取りつけてある監視カメラで確認してもいい」
「そんなのっ! 私が証言すれば!」
「ああ。そういえば雨宮から聞いたんだけど去年の運営費を盗んだ実行犯はあんたなんだっけ。知ってる? 窃盗の場合、民法でどれくらいの罪になるのかって」
「そ、それは」
「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金刑。ただ初犯でも懲役がつく可能性は高い。高三のこの時期に逮捕だなんて将来は大変ですね。先輩」
この言葉がとどめだったのか、柊もその場で「あ……あ」と何やら呟きながら崩れ落ちた。
「魔棟君、私」
「ドキュメントとこの録音以外に重要なものが二つ取れてない。一つは先程雨宮にデータと一緒に伝えたからあいつが何とかする。もう一つはどうしても本人が来ないと話にならん」
「じゃあ……私がやる」
「……俺がやるのはここまでだ。この貸しは今までの分チャラだけじゃ足りないと雨宮に伝えといてくれ」
「うん、私も色々と奢ってもらわないとね」
ま、本気でほしい物は他にあるけどそれはしまっておくとしよう。
そうと決まれば会いに行きますか。
初めて話す事になるけどうまく話せるかな?
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