第15話フェスティバルは終わらない(後編) 15


 二日目開幕のアナウンスが校舎内に流れ、一気に来場客がなだれ込んで来た。昨日よりも人数は多いので大方実行委員はそちらの対応に追われ、俺を気にする余裕なんかないらしい。

 しかしどうするか。

 五日市も魔棟も恐らく役職に追われているので対処は難しく、神様だってマークさせられている。そうなると他のメンバーなのだが島張さんに頼むのもあれだし、有菜に至っては昨日の夕方くらいから連絡がつかない。何かあったのだろうか。

 色々思考を巡らせた末、心配になった有菜を選択。ひとまずあいつがいるクラスへ向かうことにした。昨日と違って、女装もしていないので見つかりやすくはなっているがその分人混みも半端ない。

 これなら奴らに見つかることなくいけそうな気も……ないな、うん。まあこの一年生フロアは現代の好尚にあったタピオカミルクティー等が販売されているので集中的に人が群がるのも無理はない。


「とりあえずさ、先に」


 そんな言葉を零した直後、前から歩いていた生徒と思いっきりぶつかり、その場で尻餅をついてしまった。


「いてて、だ、大丈夫か?」


 訊くと目の前にいた男子生徒は何も言わず、表情も虚ろだった。一目瞭然で様子がおかしいと判断してもおかしくないレベルで。


「な、なあ?」

「……あ、すいません」


 ようやく声を上げてくれたがそんなことはどうでもいい。大丈夫か、こいつ?

 人の心配している時間なんかないのだがこんな状態の奴を放置しておくのも後味が悪いってやつだ。

 やがてその男子生徒は俺の顔をじっと見つめ、そして思い出したかのように「あ」と声をあげた。


「もしかして雨宮先輩……ですか?」

「あー、うん。まあそうなんだけど出来ればあまり騒いでほしくないっていうか。いやほら? こちらも色々と事情がな」

「お願いします! 協力してください!」

「へ?」


 あまりの急展開。急迫された男子生徒が現れるとかお兄さん、聞いてないよ……。





 場所を移して、学校の屋上まで移動した。文化祭中は立ち入り禁止になっていようが鍵の施錠管理が甘すぎる。まあ正規のルートから入ったわけではないのだがそこはどうでもいい。

 連れてきた男性生徒の名は槻木宮葵といい、有菜と同じクラスメイトだ。

 彼は有菜から頼まれて、俺の臨時ヘルパーとして今回影で動いてくれていたらしいが実行委員の皆川に彼女である出雲まどかを取られ、おまけにそれを救えなかった自分が情けなく、意気消沈としていたようだ。


「仕方なかったんです。まどかしかクラスでの出店を認めさせることはできなかった……」

「そうかもしれないがだからってそんな身売りさせるような真似は」

「わからないですよね。先輩は文化祭に参加してないものですし、どれほどクラスの皆が楽しみにしてたかなんて」


 言うねぇ。いやその通りなんだけどさ。

 そういや昨日生徒会室で皆川と会長の会話でデートがどうとか言ってたな。まあ皆川如きに女を取られたとなればそりゃあ落ち込む。あの野郎は外面は良さそうに見えるがそんなのただの金メッキで本物じゃない。

 誰もいない屋上で文化祭の騒音が微かに聞こえてくる中で俺の携帯の着信音がそれを覆っていく。咄嗟のことに動揺を見せたがすぐに携帯を取り出すと画面には魔棟の名前があった。


『もしもし?』

『お前今どこにいる?』

『屋上だけど?』

『そうか。ちょうどいい。一ついい情報があってな』

『情報?』

『ああ。確たる証拠というやつだよ。普通こういうのを残すなんて馬鹿らしいんだがどうやらある協力者からの情報提供で連中は一連の事件についてのことをドキュメント化しているらしい』

『ドキュメント化?』

『早い話が書類データとして残しているという事だ』

『つまりそれを使えば……』


 一網打尽に出来るということか。それはいい。ついに突破口を見つけ、


『が、これだけでは無理だ。確かに連中の名前があるがあいつらがこれを作ったという証拠が足りん』

『え? いやだって』

『あいつらの筆跡でもあれば話は別だが、パソコンの文書ソフトで作られたデータなんか誰だって作れる。必ず追い詰めるには確たる証拠とやらが必要だ』


その通りかもしれない。確かに会長達に下手な証拠を突き付けたところでのらりくらりとかわされてしまうのがオチだ。逃げられないようなトドメを刺すにはもっと具体的で裁判でも有効な証拠でないと。

......いや、待て。


『なあ、魔棟。仮になんだが会長に直接じゃなくても会長に関わってる連中の弱みならどうだ?』

『証拠としては薄い。が、ないよりかはましだし、下手すれば文化祭での連中の企みとやらを阻止できるかもしれん。後夜祭は文化祭実行委員会主催だ。その中枢に関わっている以上、弱みを交渉材料に彼女を舞台に上げさせないということも可能だ』


決まった。

そういうことなら丁度うってつけの相手がいる。


「おい」

「なんです?」

「皆川から彼女を取り返す方法があるといったら手伝うか?」

「なんでもやります! まどかをあの野郎から取り戻せるなら!」


純粋な後輩だこと。そのまどかさんとやらが本当に好きだというのが十分に伝わる。こういうラノベ主人公いたよな。


「これから皆川の弱みを握る。その為にはお前にも協力してもらわないといけない。どうだ?」

「なにからやればいいですか? 先輩」

「いい返事だ。んじゃ行くぞ」


いつまでも好き勝手出来ると思うなよ、なんてカッコつけるつもりはないがいよいよ盛り上がってきた。

さて、文化祭二日目。本当のスタートだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る