第14話フェスティバルは終わらない(後編) 14
追いかけてくる、奴らが。どこまでも、どこまでも。
「悪いな。匿ってもらって」
「いえ。丁度休憩時間なので皆出払ってますから」
「にしても神様のクラスがお化け屋敷やってるなら見に行けばよかったわ」
「私は受付役なんですけどね。集客率が上がるとかで」
ああ、そういうことね。まあこの子が脅かす役に回ったら、それこそ本当の恐怖を味合わせるのも可能なわけだし。こんなくだらない茶番に無駄な力は使わないだろうけどな。
とはいえ今は身を隠すのみ。木を隠すなら森の中、人を隠すならひと人混みの中。
既にここは連中が確認した場所だし、何よりお化け屋敷だけあってクラス内は入り組んでいる。むやみに探して壊したりでもしたら問題に発展するのでそこまでの詮索はしなかった。
「連中の狙いって結局何なんですかね?」
「さあな。ただ嫌がらせとかは文化祭なんかで仕掛けるよりも毎日コツコツとやる方が精神的にはくるから、小さいものではなく大きく派手にやるんだろう。体育祭の時みたいに暴露したりとかな」
「なんか詳しいですね」
「客観的な意見を述べただけだ」
「何にせよあの人達は文化祭の中でも皆が注目しそうな場所で派手にやっちゃうってことですか」
納得してくれたようでうんうん、と頷いている。
しかし派手にやると言ってもそれは何を定義としているのか。
全校生徒の前で彼女をいじめるか? はたまた醜態を晒して、残り少ないが学生生活を台無しにさせるか?
想像だけはいくらでも膨らませられる。しかし正解は一つだ。
「神様ならどんなことされたら辛いとかってある?」
「私の答え参考になります?」
「だよな」
「それで納得されるのもなんか嫌なんですけどー」
「いや神様は神様じゃん」
「そうですけど……でもあれじゃないですか?」
と、神様は指を一本上げて、くるくると回しながら話を続けた。
「派手にやるってことは皆が集まる場所、つまりこの文化祭で多くの人が来そうなところいえば後夜祭じゃないですか?」
「……後夜祭、か。確かにそれならかなりの生徒が集まる」
「だって刹菜さんに対して、何かをするにしても人が集まらないと意味はないならそこしか考えられないでしょ?」
後夜祭という結論にたどり着くというわけか。
だが中身はまだわかっていない。もしこのまま分からないままなら俺達は闇雲に突っ込むということになる。それだけは回避したい、いやさせたい。
が、思い通りにいかないのが人生というクソゲーだ。攻略本もなければ必勝コマンドもない。ならば一撃必殺、突撃あるのみしか現状の選択肢はない。
「で、ここからどうしますか?」
「どうする、か。現状何をさせようとしているのかは本人に聞いた方が早いんだが無理だろうな。どうせ教えてくれないさ」
「まあなんとなく理由は察せます」
「助かるよ」
「とはいえ、このままだと休憩時間も終わっちゃうんで見つかるのも時間の問題だと思いますよ?」
言ってくれるなよ。こっちだと思考をフル回転させて対応策を捻り出そうとしてんだから。
しかし、結局それ以上の案は浮かばず、俺は一度神様のクラス、さらには学校からも離れようと校舎から離脱した。幸いにも監視の目を潜り抜けることに成功し、どうにか脱出はしたがこれで明日以降の再侵入は益々困難となっただろう。
進退両難、前途遼遠。
まだまだミッションコンプリートの文字列を手にするのは遠そうだ。
× × ×
翌日、あまり気分にいい目覚めではなかった。
当然といえば当然なのかもしれない。あれから校舎に残った友人たちから得た情報はほぼ無に等しい。こちら側の打つ手を悉く封じていく。
なので今日こそは慎重に、そして神様との会話でもあった後夜祭に向けて動き出そうとしていたのだが今朝になってから『校内に刹菜さんに関すること、去年の文化祭に関する内容のビラが出回っている』と連絡を受け、急ぎ足で向かうことに切り替えた。校内への侵入だってあれほど慎重と心がけていたが結局真正面から突っ込むことで今は空き教室へと退避している。まだ開場前だし、登校時間だ。実行委員たちの監視の目が緩くなっていたのは不幸中の幸いともいうべきか。
俺も適当にビラを見つけて、目を通した。
内容は確かに真実だが明らかに刹菜さんに対する攻撃的な書き方でこれを看過している生徒会も教師ももう正気の沙汰とは思えない。余程彼女がこの件に対して、何も言ってこないものだと考えているのか。
「おはよ」
「ん」
「やっぱり駄目。会長とその取り巻き連中から今日は生徒会手伝えーってさ。つかあの取り巻きみたいな奴ら、マジでウザい。いちいち口挟んでくんなよ」
「五日市なら言い返せるだろ」
「大人しくしてやってんの。下手に反発でもしたら面倒だし」
「……そうか」
声を小さくして、そう返事すると五日市は俺の隣に移動し、同じように座り込んだ。
「服、汚れるぞ」
「いいよ。あんたがそういう顔している方が嫌だから」
「……好きな人、だからか?」
ごくりと息を呑んだ。自分で何を言ってるのだろうか、この男は。そういうデリカシーのないことを。だからヲタクは空気読めないとか言われちゃうんだよ、こいつ。
「そ。悪い?」
でもこの子は全然動揺しない。むしろ清々しいくらいの笑顔で対応してくれるんだから余裕ありげな恋愛マスターの女の子と言うべきかな。
恋愛マスターは言い過ぎか? でもまあ彼氏いたことあるし、俺が知っている五日市侑奈って前はそういうイメージだったし。
普通に考えればおかしいとは思わないだろうか。俺が刹菜さんを助けようとした時、最初に声をかけたのはこいつだった。本当に何も考えない男だよ。ついこないだ告られた女の子に対して、「好きだった人を助けたいから協力してくれ」なんて口走るのだから。
五日市はそんな俺の頼みに何も考えずに「いいよ」と即時に回答を示した。
だからずっと気がかりで、けど考えている余裕もなく。
「聞いてもいいか?」
「少しくらいは遠慮してくれるなら」
「五日市って何で俺を好きになったんだ?」
訊いた途端、思いっきり脇腹を抓られた。
「話聞いてた?」
「痛い! 痛い! わかったわかった!」
「はぁ……知ってたけど本当雨宮だね」
「どういう意味だろ」
「知らなーい。自分の胸にきいてみたら?」
「いやマジでわからねえって」
「……そ。ま、そこまで馬鹿なら教えてあげるよ」
言って、五日市は俺とは反対方向に顔を向けてから語り出した。
「正直なところ」
「は?」
「人に嘘をつかず、自分がやりたいと思ったことを何も疑わずにやる。それだけの話」
「いやいや、そんなラノベ主人公みたいな」
「ラノベかよくわからないけどそうでしょ?」
断言されてしまうとつい反論に戸惑いが出てしまう。
まあ確かに言ってみればそうなのかもしれないけれど、今まで雨宮蒼という男のアイデンティティにそんな馬鹿正直というものがあったのかと頭を巡らせても多分引っかからない。
雨宮蒼自身がそう感じてないからな。
「でもそれだけか? 好きになった理由ってのは」
「あとは話しやすさ。結構私って取り繕う一面あるからさ。好きな人の前とかだと」
「ああ、確かに告白の時は」
それ以上は言わなかった、いや言えなかった。隣から鋭い眼光が輝いているのに気付いたので。
「ま、あの時はそういった方が効果的かなって思っただけよ。結局未だに保留にされてるけど」
「この文化祭終わったら必ず言うよ」
「やけにはっきりと明言するわね。あとで後悔しても遅いんだから」
「いいんだよ」
そう、いいんだ。
刹菜さんを助ける。それが終わることで俺の中である一つのピリオドを打つ準備が出来る。もちろん直前になって考えを改める可能性も否定はしないが、色々と考えた末の結論だ。
さてと。五日市の事、神様の事。
雨宮蒼の物語は紆余曲折なのでまだまだ時間はかかりそうだがまずは着手できることから始めて、それが終わったら……その時に考えますか。
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