第12話フェスティバルは終わらない(後編) 12


「で、呼び出されたわけだと?」

「丁度夏休みだと思ってな」

「馬鹿。もう大学は始まってんだよ」


 放課後、俺はある三人と連絡を取り、相談に乗ってもらうことにした。

 全員都合よく集まれるということで待ち合わせ場所のファミレスに着くと、既に顔ぶれは揃っており、いつものように和気藹々とトークしている様子。


「雨君。夏コミぶりだね」

「お久しぶりです。nichさんも元気そうで」

「そう? 夏コミ終わった後は色々と忙しかったんだよ。サークルで旅行行ったりとかしてたし」


 そういえば旅行サークルに入ってるとか言ってたっけ。もう一人の大学生よりかは充実したキャンパスライフを送っているようで何よりだ。そういやこの二人ってあれから進展はしたんだろうか。あとで聞いてみよう。


「リズは相変わらず暇そうだな」

「まあ文化祭準備も「いらなーい」って言われたしなー。女子だけで色々決めちゃうから男子いると邪魔なんだと」

「それ横暴過ぎない?」

「いいんだよ。その分、イラストの練習したり、バイトを増やしたりとこっちも得になってウィンウィンってやつ?」


 本人が納得しているならいいか。

 それよりも今日の議題に入らせてもらおう。


「すいません、今日三人に集まってもらったのはちょっと相談したいことがありまして」


 そう切り出すと真っ先にnichさんが声を上げた。


「うん、文化祭についてだよね」

「へ?」

「あれ? もしかして違うの? 神様ちゃんから『相談くるかもしれないのできたらよろしくお願いします』って連絡受けてたんだけど」

「……どうやら話を大幅に省けそうですね」


 俺の行動はお見通しってわけか。流石は神様なんだが言う前に一応声はかけてほしい。まあこの三人ならバレてもいいけどさ。

 それから今回の詳細について、知っていることを満遍なく話して、ようやく言い終えると全員が苦渋の表情をしていた。


「現実にそんな奴がいるもんだな。サイコパスというか」

「事実は小説より奇なりってやつね。雨君のところって面白い人が多いのね」

「むしろそこまでなら逆に会ってみたいな。その会長とやらに」


 それぞれ同一の印象は感じてくれたようだ。


「現状、生徒会長とその界隈で俺達の動きは徐々に封じられていっています。このままいくと文化祭で間違いなく刹菜さんは彼等からとんでもない目に合わされることになる」

「同人みたいに?」

「同人ちゃうわ」


 そんなことあってたまるか。


「にしても高校の文化祭でそこまでするってもう生徒会を私物化してるな。いやー俺も私物化して、変な部活作ったりとか屋上解放したりして、もっと青春したかったもんだ」

「あーわかる。やっぱさ、学校の屋上は解放してほしいよね」

「そうっすよねー。まあうちの場合は女子が高飛車な奴ばっかなんでこっちからお断りですけどね、ははは」


 リズはそう言って笑った。もったいない、顔はそれとなく整っているのでヲタク気質を隠せば、モテそうなのに。

 しかし隠せないからこそ俺の親友かもしれないな。ヲタ友っていうのはそういうところだし。


「とりあえず一番の課題は雨君をどうにかして文化祭に侵入させることだよねぇ」

「そうなんですよね。多分当日の警備はいつも以上に固く、来場者全員が敵だと言っても過言ではないですね」

「ほう、面白そうだな」

「……来たきゃどうぞ。というより来て、手伝ってくれるなら助かるよ。ユマロマも土曜ならこれるだろ?」

「まあ講義はないからな。えーと、二人は?」

「私も土曜は大丈夫かな。神様ちゃんに会いにいきたいし」

「俺も平気。まあ予定入るようなら連絡するわ」

「三人とも助かります」


 と、頭を下げた。

 三人共口元に笑みを浮かべている。心に余裕ができた、これでまだあいつらと戦える。

 するとnichさんが何か思いついたのか、いきなり手を叩いた。


「ああ、そうだ。雨君、一つだけ妙案があるんだけど」

「妙案ですか?」

「そう、絶対にバレないし、何より雨君って顔立ちはいいからちょっとメイクだけすれば絶対にいいと思うんだ。素材として完璧ってやつ」


 な、何言ってるのこの人?

 若干冷や汗が流れ、他二人も呆然とした様で見ている。


「え、えとその妙案は具体的にどういう」

「それはね―――」






「はい、完璧ー!」

「うん、蒼君なら似合うと思ってた。まあ個人的には前みたいに異世界系のコスプレがいいかなって思うけど」

「その話は辞めてくれ」


 文化祭前日、都内のスタジオ。

 nichさんに呼ばれると何故か歌恋もいて、すぐに衣装に着替えさせられるとメイクをさせられ、その後はヅラを被ったりして、あれよあれよという間に完成。


「黒髪ショートも似合うかなって思ったけどロングの方が見栄えはいいね。クール系っていうか」

「そうですね。でもウィッグをもう少し―――」


 二人は色々と盛り上がっているようなので近くにあった姿見で確認することにした。

 いや凄いね。特殊メイクをしたわけでもないのにパッと見るだけじゃ雨宮蒼って気づかねえもん、これ。多分五日市や魔棟とか神様もキツイんじゃないかな。


「蒼君、お疲れ様」

「ん、ああ。nichさんは?」

「電話が来たから少し離れるって」

「そか」

「にしても面白そうなことに巻き込まれてるんだね。蒼君らしいっていうかさ」

「面白がるなよ。必死なんだから」

「ごめん、ごめん」


 歌恋にまで話が広がるとか誰が予想できたことか。

 ここまでして駄目でしたはもう済まされないぞ。


「私も当日は行こうかな。友達いるから志閃祭のチケットはすぐ入るし」

「いやそれはそれで恥ずかしいというか」

「何言ってるの。今更でしょ?」


 顔を覗き込むように見つめる歌恋に困惑の表情しか浮かべられない。

 いや君が来ると色々厄介なことになりそうなんだよ。例えば五日市とかに余計なこと言いそうだし。


「とりあえず困った時は連絡してね。少しくらいは役に立つかもよ、私」

「そりゃあ助かる」

「なんかこういうのって物語のクライマックスとかである総力戦みたいでいいね。皆でボスをやっつけよー!」


 大きく腕を上げる歌恋をみるとほっとする。

 ここまでしてもらったんだ。あとは向こうがどんな卑劣な手段を取ろうがこちらには『勝利』の二文字しか見えてない。生徒会長には色々世話にもなったがこれまでのことが今回の件にすべて繋がっているとしたら、話は別だ。


 ここで蹴りをつけよう。


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