第11話フェスティバルは終わらない(後編) 11
九月五日、文化祭二週間前。
「何で集められたの? 私達」
「まあそういうなって」
最初に発言したのは五日市だ。
彼女だけじゃなく今教室には神様、有菜、それに五日市の友達である島張さんに生徒会の魔棟も加えた珍しい面子が揃ってる。
「全員揃ったようだな」
「なあ、雨宮」
「どした?」
「もう帰っていい?」
「いやそこをなんとか。今回の礼として今までの借りを全てチャラにしてやるから」
手を合わせながら申し訳なさそうに頼むと魔棟は鼻を鳴らし、帰ろうとはしなかった。積みプラを解消してやったり、ソシャゲのクランに入れてやったりとヲタク仲間としての借りはそこそこある。こういう時にこそ有効活用しないとな。
「雨さん、雨さん。私と有菜ちゃんは実行委員の打ち合わせあるので長くは入れないんですが」
「あ、私は大丈夫。蒼君がこうすると思ってたから代理を頼んであるんだ」
「あ、そうなの? じゃあ私だけですね」
「なら神様は事後報告で」
実の所、その必要はない。神様には殆ど話してるし。
それに今日集まってもらったのは雷木刹菜救出計画に賛同してくれる仲間を各自確認というのが目的である。最も今現在において、その計画を俺と神様、恐らく察しているであろう有菜を覗いては理解してないだろう。
「他に何もないなら始めるぞ」
「……私的には皆の紹介欲しいかも」
恐る恐る手を挙げたのは島張さん。俺もよく知らないがたまたま五日市に声をかけた時に居合わせて、何かやるなら手伝ってくれるとの事だったからお願いしてしまった。
「一華には後で私から紹介しとくから。話を進めて」
「ん、助かる」
軽く咳払いして、改めて話を切り出した。
「集まってもらったのは既にわかってると思うが現在生徒会長達からある事情で狙われてる刹菜さんをどうにかして救いたい。その為には俺一人で動くのには無理がある。なので君らに声をかけさせて」
「前提はいいや。とりあえず現状教えて」
「あ、はい」
説明する必要がなかったようで。まあ俺がわざわざ人を呼び集めるという時点である程度の予測は立てられるもんか。我ながら考えが単調で微妙な気持ちになる。
だが分かっているなら話は早い。本題に入らせて頂こう。
「SNSとかを調べる限りでは動きは見せていない。しかし水面下で必ず準備はしているはずだ。体育祭に関しても、競技であんな事を全校生徒の前で打ち明けてくれたおかげで俺のクラスでの居心地が悪くなる一方だ」
「そういえば生徒会長達って体育祭の時ってなんか処分ってあったの?」
島張さんが訊くと隣にいた五日市が首を横に振った。
「厳重注意だけ。どう見ても何かしらの方法で手を回したとしか考えられない」
「ああ、賄賂とか渡して黙ってろってやつ?」
「今時そんな古典的なやり方を取るとは思えないけどね」
と、五日市は肩をすくめた。
何はともあれ最終的には合意してしまった教師の怠慢とも捉えられる。目がくらむ程の条件を持ち出されたのだろう。まあお金とかなら生徒会長持ってそうだしね。
「あと実行委員会に関してだが、島張さん以外は関係者だからよくわかると思うけど既にあの組織は生徒会長の傀儡で見覚えある顔がゴロゴロ揃ってる」
「去年の事件の主要メンバーでしょ? 皆川先輩とか柊先輩とか。個人的には皆川先輩好きだったけどね」
「そういえば顔を好みとか言ってたね、一華」
「なんなら体育祭のデスティニーボイスで告ろうとしたもん。まあ友達を優先したけどねー」
「はいはい、ありがと」
微笑ましい限りでよき。
まあ因縁ある連中に関しては早い話が適当に相手をしていればいいだろう。
本命は生徒会長、雪村真一その人だ。
まともにやりあうにしても、情報不足が看過できない。どういう方法で刹菜さんを苦しめるのか、その為の対策はどうするか。
そして何よりも何故会長が狙うのか、だ。刹菜さんと会長に因縁があるという話は少なくとも俺は聞いたことがない。その辺もどこかで調べるしかないようだな。
「現状はこんな感じだ。申し訳ないが文化祭前後は色々と協力してもらうことが増えてもらうと思うので悪いがよろしく頼んだ」
そう言って頭を下げると個々に声を上げた。
「ま、これに関しては気に食わないしね」
「雨宮が課金代を負担してくれるなら多少の労力は割いてやる」
「私は侑奈がいるし、正義の味方って感じがするから全然いいよー」
「お姉ちゃんの為だからね」
これは心強いもんだ。
とにかく残り二週間近く。まずは情報収集だな。
「お前、文化祭の参加は禁止だから」
「は?」
九月十二日、文化祭一週間前。
担任に呼び出された俺は職員室に行くなり、開口一番にそう言われた。
「去年あんな真似をした生徒を参加させるのは危険っていう俺と教頭、生徒会の判断だ。ま、今年大人しくしていれば、来年は参加できるらしいからな。我慢しろよ」
「……失礼します」
「おい返事」
後ろから言葉がかかるも、無視して職員室を後にした。
大義名分としては申し分ないだろう。運営費用を盗んだ生徒をわざわざ餌のある場所に置くのは危険だというのはね。だが生徒の自由性をここまで無視できるものだろうか? まあこの件も色々と裏で暗躍している者がいるという話だ。
「葵君っ、葵君っ。まどかは最近ランドに新しくできたアトラクションにですね」
「一人でいってきなさい」
「デートに誘ってるんですよ。こんなこと葵君にしか言えないんですから」
「はいはい、ありがとうありがとう」
目の前から和気藹々としたカップルが歩いている。女の子のリボンの色が赤なことから一年生か。お盛んなことで。俺も付き合っていたはずだったんだけどなぁ。
しかしその為にはあの人をユウナにするっていう約束がまだ残っている。
けど覚えているだろうか。事件以降は見かけたとしても噂が立たないようにあえて避けていたし、そもそも一年ぶりに話すとしても絶対緊張で上手く話せない自信がある。
何にせよ、まずは文化祭にどう参加するかが課題だな。
俺はスマホを取り出し、五日市にメッセを送った。課題は山積みだが乗り越えないことには色々と明日は見えないんでね。
× × ×
「お姉ちゃん、私だよ。聞こえる?」
「話したくないならそこでいいよ。私も部屋に入らないから」
「あのさ、今、蒼君やその友達がお姉ちゃんを助けようと頑張ってるんだ」
「うん、わかるよ。どうして蒼君があんな目に合ったのにお姉ちゃんの為にまた動こうとしているのかは私にもわかんないや」
「でもさ、お姉ちゃん。あの人はそういう人なんだよ。お姉ちゃんが体育祭で生徒会長達に色々言われてから少しずつ学校が居づらい場所になってしまったこともきっと蒼君は知ってるよ」
「私も馬鹿だなって思うよ。そんなアニメとかの話じゃないんだしさ、現実見ろよって言いたくなるけど本気なんだよ」
「知ってる? だよね、あの人のことを本気で好きだったんだから」
「私も蒼君のことは好きだよ。色んな意味でね」
「まあお姉ちゃんに何かしてもらおうとは思ってないし、きっと生徒会長達から文化祭に関することで色々言われてると思うけどそれを私達に安易に教えてくれるとも考えないよ。どうせバレたら蒼君のことを退学にするとかでも言われてるんだろうし」
「だからこれは私の独り言。聞いてくれてありがとね、お姉ちゃん。おやすみ」
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