第6章 フェスティバルは終わらない
第1話フェスティバルは終わらない(前編)
もし世界に神がいるのだとしたら僕は問いたい。
何故僕なのか?
「
僕じゃなくても適合となる人物は他にもいるはずなんだ。何故僕なんだ?
「もしもーし? 葵君、聞こえてますかー?」
どうして……僕じゃないと、
「あーおーいーくーんー!」
「うるさい!」
「っ! い、痛いですよ葵君……」
「大人しくしてないお前が悪い」
「でも叩く事ないじゃないですかぁ」
「安心しろ、この教室で僕が頭を叩ける女の子なんてお前くらいだ」
「ほう、つまりそれはまどかの事が好きって事ですよね!?」
「お昼行こうか」
「行きまーす」
能天気な奴だ。
だが彼女、
「
「川口、次にデートって言ったら、二度とノートは見せないぞ」
「それは勘弁だ。ま、仲良くやんなさんな」
「からかうのは辞めろ。勝手についてきてるだけだ」
「まどかはいつも葵君と一緒ですよっ」
「うるさい」
会話に入り込んでくんな。
本当、どうして僕なんだ? まどかは学年有数の美少女、かたや僕はどこにでもいるような
「あ、まどかちゃんだ。今日も槻木宮君とご飯?」
「ハルちゃんおつかれさまー。うん、葵君とご飯だよー」
「相変わらずだね。葵君、まどかちゃん泣かせたらあれだからね」
「あれですからねっ」
通りすがりの女子からも認知されている僕達の関係。別に告白をしてもされてもいない。勝手にまどかが僕に付きまとい、いつの間にか出雲まどかの彼氏という扱いになっていたというのが真実だ。
「今日のお昼は屋上ですか?」
「食堂は出遅れたから席空いてないだろ」
「まどかは葵君と一緒ならどこでもいいですけどねっ」
「……たまには友達と食べるというのは」
「嫌です。それに友達も「彼氏と一緒がいいんでしょ」って追い出されますから葵君が一緒に食べてくれないとまどかはぼっち飯です」
と、演技っぽく泣くふりをする。というかそれって友達から呆れられてない? いや呆れられてるか。今時ここまで強引な女の子はまずいない。若者には積極性が足りないとか話題にも上がってるが僕の自称彼女はもう少し女の子らしさを持つところから始めてほしい。彼女ではないけどね。
屋上に着くと珍しく生徒が多い。ただお昼を食べるというよりかは今月に控えている文化祭の準備。ダンス部が練習したり、美術部が看板を作成したりと忙しない様子がうかがえる。
ひとまず邪魔にならないように端の方で食べる事にした。
「今日のお昼はなんですか?」
「コンビニで買ったおにぎり二つ」
「だと思ったのでわたしがお弁当作ってきましたっ! はい、どうぞ」
と、自身の巾着袋から弁当箱を二つ取り出して、一つを僕の前に持ってくる。開けると空揚げや卵焼きと健康的な食材が並んでおり、美味しそうという感想以外は浮かびようがない。
するとまどかは端で唐揚げを掴むと僕の口の前に持ってきた。
「あーんしてあげますよ、はいあーん」
「人目につくから」
「あーん」
「……ん」
「どうですか?」
「美味しいよ、ありがと。でも残りは自分で食べるから」
「一回でも付き合ってくれるだけでまどかは嬉しいですっ。明日も作ってきますねっ」
嬉しそうに笑うまどか、これだから怒るに怒れないんだ。男が可愛い女に弱いっていう心理を上手く表している表現ともいえる。
「そういやまどかは放課後実行委員の会議だっけ?」
「そうですよー。有菜ちゃんから「どうしても手伝わない事が出来たので実行委員の代役として代わって」とお願いされたので」
「……男子の実行委員が僕であることは関係ないんだな?」
「大有りですけど流石にまどかも一度決まった事には文句言いませんから無理に変われとは言いませんよ」
「よかった」
「お金は払うから譲ってくれとお願いした事はありましたけど」
「辞めなさい」
軽くまどかの頭を叩くと痛そうなふりをした。そうだろうと思ったよ。
そういや文化祭の事でまどかに聞きたい事あったんだ。僕はそっちの話題を切り出し始めた。
「まどか、雨宮先輩って知ってるか?」
「雨宮蒼先輩ですか? むしろ知らない人の方が少ないんじゃないですか?」
「どれくらい知ってるんだ?」
「みんなが知ってるような知識くらいですよ。この学校で一番の美貌を誇ってる有菜ちゃんのお姉さん、雷木刹菜先輩に不埒な事をした最低な男くらいです」
「……そうだよな」
納得のいく答えだ。
一年生の間でも入学してから一か月後くらいにはほぼ全員に知り渡っていた本校最大の悪人、それが雨宮先輩。その時、先輩は自身のクラスで問題を起こし、停学処分となっていたので一年の間でも停学者が出たという事で話題になった。それで雨宮先輩は何者なんだと興味を持つ一年が先輩から聞いた話を瞬く間に伝染させ、全校生徒が彼の悪行を記憶したという話。
しかし掘り下げれば掘り下げる程、僕は首を傾げる所が多く、疑問だけが深まっていく。もちろんそれを解明しようとは思わないし、そこまでお人好しでもない。
「まどかは雨宮先輩の事はどう思う? やっぱり最低な人ってイメージ?」
「うーん、どうでしょうかね。まどかは自分の事があるので憶測だけで判断するのはよくないと思うので。あ、葵君の敵ならまどかの敵ですけどねっ」
「いや僕も同じだ。雨宮先輩が悪いとは思えない」
「やっぱり相思相愛ですねっ!」
「さて教室に戻ろうか」
「ああ、無視しないでくださいよぉ……」
今度は本当に残念そうな表情だ。僕の事になると素直になる、これが出雲まどか。
だから分からない。この学校はどうも色んな人がいるのにどうして僕なのか?
雨宮先輩だけじゃない。生徒会長の雪村先輩やサッカー部の皆川先輩とかは爽やか系イケメンとこの学校にいるなら男子も女子も知るくらいの有名人だ。ちなみによくない噂もかなりある。特に皆川先輩は女癖が悪いとかなんとか。そして雪村先輩は体育祭で起こしたあの告白事件。雨宮先輩を庇うような発言だったがどうにも他に狙いがあるように思えてならないが問題はそこではなく、何故そういった人達がいるのにまどかは僕を選んだのか?
それは卒業までに聞き出したい所なのだが僕には何故か教えてくれないので困ってる。嫌いじゃない、むしろ志閃美少女ランキング一年部門で二位に輝いた女の子と付き合えるんだからな。一位は……知らん。なんか変なあだ名がついていた女の子なのは覚えているが興味がないからな。
「まどか行くぞ」
「はーい」
ま、まだまだ時間はある。
それよりも面倒な実行委員会議をさくっと終わらせてしまおう。
× × ×
「では実行委員会議を始めます」
放課後、空き教室に集められた各クラス実行委員達の表情はやる気に満ち溢れてはいない。スローガンも役職も決め、当日の仕事分担等もすでに決めてあるので早い所、クラスや部活の出店準備に戻りたいというのが本音。何せ文化祭まであと四日しかない。
「葵君っ、終わったらまどかは駅前のクレープ屋に行きたいです」
「いってらっしゃい」
「葵君も行くんですよ」
「ぼくはいかな」
そう言いかけた時、教師の目に止まってしまい、叱責の言葉が飛ぶ。
「一年四組、うるさい。二度は説明しないからな」
「すいません」
さっさと謝罪して、会議の方に集中する。とはいえ殆どは業務連絡のみでノートに追筆するような内容のものはない。だからまどかが退屈なのはちょっとは理解出来た。
「ふむ、そうか。じゃあこれで終わりだな。次、生徒会」
実行委員長の紀和場先輩が振ると我が校の生徒会長である雪村先輩が席を立った。
やっぱり男の目から見てもカッコイイよなぁ、この先輩。
「生徒会から一点だけ連絡がある。これは生徒会というよりも先生方と協議して出た結論だ。そこまで皆に注意してほしいという訳ではないが一応耳には残しておいてもらいたい」
一度、軽く咳払いし、雪村先輩は続いて話した。
恐らく今日の会議の議事録を残すのであれば、唯一特筆すべき内容ともいえる話をね。
「昨年、文化祭期間中に問題を起こした生徒がいるのだが彼には今年文化祭の参加を自粛してもらう事にしている。自宅学習を命じてはいるがもし彼が期間中の学校に顔を出すようなら実行委員は見かけ次第、生徒会または実行委員長や先生方に連絡してほしい。名前は二年三組雨宮蒼、以上だ」
教室中が小さなざわめきを見せた。
だが大半の顔は次第に納得を促すものとなる。恐らく僕とまどかは違い、そして目の前にいた女子実行委員もまた不満そうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます