第12話サマートラブレーション! 12
長い長い一瞬に感じられた。
けど、それは杞憂だ。俺の身体から離れた途端、小柄な彼女がどうなるかなんて分かっているだろう。
確かに俺が言った事は期待をないがしろする言動だよ。認めるよ、最低最悪で自身の言葉に責任も持てないクズだって。
だからといって、こんな真似をするとかこいつはよっぽどの馬鹿だ。
予想? ああ、外れてほしかったよ。でも外れようが外れまいが人っていうのは咄嗟に動いてしまうもの。
「っ!」
苦しそうにじたばたとする目の前の女の子を掴み、自身の身体へと抱き寄せた。砂浜からも異変を感じ取れたようでライフセーバーが海に飛び込んでいるのが見える。どうやらお説教は間逃れないらしい。
「はぁ……はぁ……」
「……馬鹿かよ」
「あなたには……言われたくないですね……」
「じゃあ何度でも言ってやる……お前は本物の馬鹿だ! 何を考えてんだよ!」
数メートルといえど、命を落とさない保証なんてどこにもない。
怒るなという方が無理な話だ。
「……あなたが言うからですよ」
「あ?」
「あなたがそういう事をいうからですよ」
不安そうに声を漏らす神様。
見せつけたかったのか? 死ぬという事がどういう事かなんて。それで考えを改めさせようとでも? いや本当の馬鹿だな。他に手段はあるだろ、神の使いなんだから少しは頭使えよ。
「神様がこんな死に方なんてしたら罰当たりだぞ」
「関係ないですよ……それに例え死んだとしても、あなたは解放されるのですからいいじゃないですか」
投げやりにも思える言葉。
益々俺の激高が駆られていく。
「ふざけんなよ! それで本当に死んだら、お前はよくてもこの子はどうなる!? こいつだって歩みたかった人生が」
「じゃああなただったらよかったんですか?」
「何?」
「あなたが佳美さんを心配したように自分の事だからって誰も心配してないとでも思ったんですか? いい加減にしてくださいよ! 前にも言いましたよね、自分の事しか考えないって。本当に反省しない男ですね、あなたは!」
「事情が違うだろ! 少しは考えたから言えよ、ボケ!」
「女の子に向かって、その暴言は何ですか!? このヲタクが!」
「てめえもヲタクだろうが!」
海の上で繰り広げられるどんぐりの背比べ。もちろん砂浜にも聞こえていたらしいのでやってきたライフセーバーに連れられて、戻った時は「痴話喧嘩か?」と温かい視線が突き刺さってくる。うるさい、黙れ、見るな、あっちいけ。
全くこんな俺を過去の自分が見たら何て思うのか。少しはヒューマニティーさが出てきたとでも称賛されるか? な訳ない、ただの道化だ。何ならミジンコに土下座するレベルの哀れな男。
本当、嫌になる話だよ。
× × ×
「さっきはすいません……でした」
「まあこっちも……悪かったよ」
ぎこちない空気の中でこぼれる謝罪の言葉。もうやりづらさと気まずさで吐きそうだがさっきみたいに急変な行動取られても困るので目を離せないでいる。
海から上がった後は少しだけ南下、というより関東方面に戻り、途中、福島県の南会津にある駅で降りた。あれ以上海にいても仕方ないし、もっといえば一度崩れた距離感を再度構築しなおすのは容易ではない。
そんな状態で適当な民宿を見つけた俺達は部屋に行くと互いに開口一番で発した内容がこれだ。素直になりきれないというか、まだまだ子供といいますか。
そんな状況なので適当な話よりも真面目な話題の方が会話を弾むだろうと判断し、切り出してみた。
「そういや一つ思った事があるんだけど」
「何ですか?」
「昔話についてだ。あの話だと神の使いと少年は入れ替わりに成功しているがもし俺達が何らかの方法で入れ替わる手段を見つけたとしても、その為の身体が足りないんじゃないのか?」
「……まあ理論上ではそうですけどちょっとそれは大丈夫かなと。まあ意味合いが違う方の大丈夫ですけど」
「理由は?」
神妙な面持ちで聞くと、その続きを同じような顔をしながら語り始めた。
「実を言うと今回の旅行は確かに入れ替わるという点については深く知る事が出来たかもしれませんが根本的な解決になっていません」
「解決? あ」
「そう、私の願いは佳美さんの意識を取り戻す事。更に詳細にするならば私の意識を神の元へ返す事。なので成果的には微妙な所なんですよね」
「なるほどな」
「だってそもそもおかしかったんですよ。覚えていますか? 私が頼んだ依頼」
問われた言葉を脳で働かせる。
忘れるはずもない。でなきゃ俺がここにいる意味がないのだからな。
「そういやそうだったな。お前は俺に『彼女の意識を取り戻してくれ」と頼んだよな」
「その通り。という事は身体を入れ替える事が目的ではない、つまり昔話で行ったとされる方法では違う人格が入ってしまう」
「でも意識の入れ替えを己自身にやれば」
「いや多分無理でしょう。話を聞く限りだとあれは互いの意識が目覚めている状態で行ったのですから片方が眠っている私の状態だと条件が成立しない可能性があります」
「って事は今回無駄足か?」
「いえいえ。個人的には凄い有意義でしたよ。解決策は見当たらずとも色々と前進した気はします」
と、神様は満足げに言い切った。
成果は無ではない。しかしまだまだ俺達の戦いはこれからだ! エンドって訳ね。何だか気が遠くなるような心境だが零よりかはましだ。
時刻は午後六時五十分。この後のスケジュールは夕食を食べた後はお風呂、就寝のコースである。昨日みたいな青春の一ページは今日の出来事を思い返す限りでは無理だろうし、互いにこれ以上花を咲かせられるようなネタはない。精々、今回のコミ〇の感想くらいか。
「神様、そろそろ」
「あ、待ってください」
言葉を遮られると神様はとても自身ありげ、なのにその不適な笑みは恒例の嫌なパターンを彷彿とさせるもので、
「夕食後に少しだけ外に出ません?」
少し食欲が無くなった。
夕食後、外に出た俺は神様に連れられて、歩き出した。
青森よりかは村がある会津だが夜になれば、闇一色。一面緑だった山の姿は消え、ぽつぽつと見える外灯には昆虫達のダンスパーティーが繰り広げられている。時にはクワガタを見つけ、内心テンションが上がるも目的を知らない俺に不安が少し、また少しと広がっていった。
「いい加減何をするかくらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」
「今日喧嘩した相手には簡単に心を開きません」
「あれは不可抗力ってやつだろ」
「はい、そうですかと納得させられると思ったら大間違いですよ。というか彼女いたくせに女心分からないんですね」
「お前、神様だろうが」
「今は女の子ですもん」
知らんわ。そんなん器量の話だろうが。
「ま、この辺りでいいですかね。本当は山の中に入りたかったですけど熊とか出そうですし」
若干不満そうに言って、足を止めた。どうやら到着したようご様子。
見た所、足元はコンクリートで正方形に枠を取った白線が並んでいる。つまりは駐車場だ。
神様は手に持っていた鞄から袋を取り出し、それを広げ始める。ビニールシートだ。
「おい、ここで広げるのは」
「いいじゃないですか。人いませんし」
「そうかもしれないけど」
「じゃあ二人だけの秘密って事で。ルールは破る為にあるもんですから」
「神様の使いとは思えない発言だな」
「好きなアニメから抜粋した言葉です。私にお似合いかなって」
確かに神からのはぐれ者だしな。
テンポに乗せられてしまったのか、軽く苦笑いを浮かべて、降参の態度を取った。
「じゃあみましょうか」
「見る?」
「今日は雲一つない日でしたよね。だからほら」
そう言って、頭上を見上げたので俺も続いた。
「……これは凄い」
「でしょ?」
プラネタリウムの比じゃない。
星々と惑星に一大パレードが始まっていた。
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