第7話サマートラブレーション! 7


「実はドッキリでしたっていう展開はない?」

「私の反応見て、そう思えるのなら流石ですよ」

「いや真面目にさ」


 開口一番に出てきた会話はこんなものだった。そりゃそうだろう、恐怖を覚えるくらい展開が進んでる。到着当初に口にした神様だからって理由もこれで帳消し、疑うなというのが無理な話だ。


「で、ここから小学校って遠いんですか?」

「そんなには歩かないが素直に入れてくれるかね」

「駄目なんですか?」

「夏休み中だし、俺達はOBというわけでもない。店主さんはあんな軽々しく言ってたがどんなもんやら」

「ふーん、意外とそういうの厳しいんですね」


 そう、次の目的地なのだが俺達は小学校に向かっている。より正確に言えば、その小学校に配置されている図書室に用事がある。何でも店長曰くここに先ほど語られた昔話の原典が置いてあるらしい。どうやらこの話はまだ続きがあるらしく調べるのであれば行ってきた方がいいと勧められたのだ。

 とはいえ標高高い山の上でもこの炎天下。自販機一つろくに見当たらず、足がまともに進もうとしない。


「暑いの苦手ですか?」

「インドア派なんだよ。コミニケーション取らずに生きるライフプランなもんでな」

「孤独死コースじゃないですか。向こうでお会いするのも近いかもですね」

「縁起でもない事言うのやめーや」


 君が言うと洒落にならないんだけど。それにインドアの何が悪いんだという話ですよ。ゲームに漫画、最近では小説を書くというのも選択肢の一つとしてあるフリーダムに過ごせる生き方な上にエアコンによる快適空間の作成で熱中症等の心配もいらないし、人に会う事もないので余計な緊張感も不必要のユートピアだぞ。まあ俺が言うのは説得力ないけどさ。というのも高校生になったら、そのデビューの一環としてヲタクライフとは無縁なナイトプールでクラスの連中と撮影した写真を投稿して、そのまま写真アプリのライブ機能で様子を中継しながら愉悦に浸っている、そんな事を夢に見ていた時期もありましたよ、ええ。しかし改めて考えると一ミリも似合わないな。ナイトプールとかなんだよ、プールは陽が差してる内にいくのがいいんだろうが。


「あ、見えてきましたよ」


 聞こえた声に反応すると視界に小学校らしき建物が入ってきた。付随してるグラウンドには人影は見えず、物寂しさが漂っている。


「人いますよね……?」

「多分な……」


 実際の所、こんな田舎の小学校だし、今は夏休み。関東県内の学校とは大違いでさして忙しくもないと見受けられる。仕事がないのに職場に来るのは社畜だけだ。つまりもし誰もいなければ……。


「不法侵入ですかね」

「考えを読むなって」


 ひとまずそのまま歩き続けて校内へ入っていく。やはり人の姿は見えない。ならあとは校舎を確かめるしかないだろう。


「こんな田舎の学校って授業は長いんですかね? 私達みたいに」

「小学校だからカリキュラムが違うだろ。俺の時は午前中だけとか多くても午後一時間だけ授業して終わりとかだったな」

「でも最近のニュースだと今の小学校は一日八時間目まであるとかないとか」

「教育形態が変わったってやつだろ。そんなに勉強した所で何が得られるのやら」


 自分を客観的に見れば、それは一目瞭然だろう。まあ小学校の勉学で将来の糸口を見つけろというのも無理な話なのだが。

 校舎の前に立ち、中を覗く。見たところ、予想通りの静寂さでやはり誰もいないようだ。念の為に昇降口の引き戸を開けようとするもガチャガチャと音が鳴るだけで事態は進展しない。


「あの店主、適当な事ぬかしやがって」

「そう悪く言うもんじゃないですよ。あのお店なかったら大変だったんですから」

「それはそれ。これはこれ」


 なんて不服を立てていると後ろから足音が聞こえてきた。振り向くとこちらに向かってくる人影が一つ。


「ほら見なさい」

「うるせ」


 タイミングの問題だろうが。

 いやそんな事はどうでもいい。何とか説明しないとな。


「あー、すいません。俺達この近くのラーメン屋さんの店主から」

「ええ、聞いてますよ。すいません、遅くなって。何せ仕事をしようにもあっという間に終わっちゃいまして、おまけに今はお盆なものだから私以外の教員は今この村にいなくてね」


 忙しない様子で教員さんは言った。それからすぐに鍵を開けてくれて、そのまま校内へと通される。ついでに図書室まで案内してくれるとの事で甘えさせてもらう事にした。

 校舎は三階建てで一から三までの前半学年が一階、四から六の後半学年は二階で授業を行っているらしい。三階は理科室だったり家庭科室だったりと移動教室が主に集められている。


「それじゃあ私は職員室で少し仕事をしてます。あとで様子を見に来るのでもしそれまでに終わらないようでしたら、一旦帰りますので出る時に連絡してください」

「すいません、ありがとうございます」

「いえいえ、では」


 教員さんは軽く会釈し、後を去っていった。気がよさそうな人で助かった、面倒と思われるようなら開けてすらもらえないからな。

 さてここから仕事だ。


「にしてもこの中から探すのか」

「一苦労ですね。見た感じだと殆ど昔の本ばかりですから確認もちゃんとしないと」


 神様は気合十分のようだが何で青森まで来て、図書室で本探しとか……。しかも数はそこそこなようでうちの高校とまではいかないがこの村に在籍する小学生の規模を予想するに十分と言える量が収集されている。


「ラノベの一つや二つくらい持ってくればよかったですね。いい布教になりますよ」

「だとしてもこの村に最新刊が出る度送らないといけないだろ」

「そんな事しなくても気に入れば子供達が自分で買うんじゃないですか?」

「かもしれないが不都合で買えない場合もあるだろ? いいか? 布教はな、するからにはその人に作品の全てを伝える責任があるんだ」

「はあ……謎の信条があるんですね」


 ヲタク理論の一つだけどな。俺も布教してもらった際にユマロマやリズがDVDBOXやコミカライズを貸してくれたおかげでその作品のありとあらゆるメディアミックスを知る事が出来たんだ。サンキューヲタク、フォーエバーヲタク。


「とりあえず私はこっちから探すんで雨さんは向こう側の方から頼みます」

「へいへい」


 やる気ない返事をして、窓側の棚に行き、並んでいる本を十冊単位で取り出していく。

 よし、始めますか。


「雨さんー」

「何だ?」

「暇」


 始めたばっかなんだけど……うん、これは違う。


「そういえばこの間クラスの女の子からカラオケ誘われたんですけど男子もいるっぽいんですよねー。可愛い子には興味ありますけど野郎はちょっと……ね?」

「知らねえよ。つか思うんだけどお前の言動って本当に神様の使いとは思えないよな」

「うるさいですね。というより何でこの人、気付かないんかな」


 なんかごちゃごちゃ聞こえるが手を動かせ、手を。これも違った、と。この列は終わりだな、次。


「雨さんは五日市先輩や有菜ちゃんから誘われたりはしないんですか?」

「俺を誘う奴なんて相当な物好きか罰ゲーム好きな奴しかいないだろ。ちなみにお前と有菜ってそんな仲良くなったの?」

「んー、何か体育祭の後に色々と声をかけてくれたので気付いたらですね。ソシャゲの話とかよくしてて、最近はプリンスコネクトの話題がメインですね。有菜ちゃん、SSRかなり持ってるんで」

「余程の幸運の持ち主か廃課金厨のどっちかだろ」


 これも違う。これでこの棚は終わり。


「あ、そういえば来週に夏祭りあるじゃないですか」

「行かない」

「まだ誘ってませんよ。もしかして誘われてると勘違いしちゃいました? まあ雨さんと一緒に行ってくれる女の子なんて世界広しといえどこの」

「なあ」

「はい?」


 息をすっと吐き、くるっと振り向く。

 ひとまず表面上は笑顔で、そしてなるべく筋を立てないように口を開いた。


「て・を・う・ご・か・せ」

「い、いえっさー」


 答えた神様はすぐに手元の本をパラパラとめくり始めた。この室内、全ての本を見るなんて今日一日じゃ不可能なんだから早く見つけないと日が暮れる。つか流石に職員さんに追い出されるだろ。

 今回の旅行はスケジュールでは二泊三日。もし今日一日で終わらなくても、明日があるのだがこの本探しだけで解決策が見つかるとは思えない。そう考えると出来れば今日は本探しで明日はそれに繋がる別の調査が必要だと考えるべきだ。


「雨さん、今どの辺―?」

「端から三つ目の棚の途中。そっちは?」

「今一つ目が終わった所です……」


 そりゃそうだ。

 ちらりと掛かっている時計の方に目をやる。短い針が四で長い針が十を指している。流石にあと一時間くらいが限界だろう。夏とはいえ山の中だ。暗くなるのも関東より早いだろうし。


「神様、とりあえず」


 その時、ガラリと扉が開き、俺達の視線はそっちに向けられる。

 立っていたのは職員さんだった。


「お疲れ様です。どうですか?」

「あ、お疲れ様です。すいません、まだ見つかってなくて……」

「どんな本を探されてるのですか?」

「この村に伝わる昔話で神様の使いについて」

「ああ、心替えの事ですか」

「心替え?」

「ええ。もしかして店主さんからは何も?」


 俺は首を縦に振った。神様も同様だ。


「じゃあ改めて話さないといけないですね。私は祖母からかなり聞かされていましたのでもしよろしければお話しましょうか?」

「お願いします。かみ……花珂さんもそれでいいよな?」

「え? あ、はい」


 驚いた様子だが察してくれたようですぐに返答してくれた。流石に見知らぬ人の前で神様呼びはね。ましてやこれから語ってくれる話が話というのもあるし。


「それじゃ話しましょうか。ちょっと座ってもいいですか?」

「はい。あとそんなに改まらなくて大丈夫です。俺達高校生なんで」

「そうかい? じゃあ少しは崩させてもらうね。君達高校生くらいの子には見えないくらい大人っぽくみえるから」

「あ、ありがとうございます」


咄嗟に礼を述べてしまったが誉め言葉と受け取っていいのだろうか? 老け顔って意味かもしれないし。


「そうなんですよね。私達いつもそう言われて」

「うるさい」


 文句を飛ばし、俺達も職員が座るテーブルへと腰を下ろす。


「じゃあお願いします」

「うん。それじゃ話そうか」

 


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