第4話サマートラブレーション! 4



「こんな感じ?」

「そう! で、ここの防具のところはマントを」

「あーわかったわかった。でもあー君ってこういうの本当に好きだよね」

「……そのあー君っての辞めてくれないか」


 不機嫌そうに露骨な表情を見て、私を吹き出してしまった。


「可愛いのに」

「この俺に可愛さなんて」

「厨二病設定だって、分かっているのに無理やりしてるところかもね」

「うるさい」


 もう少し素直になればいいのに。そういう所が距離置かれてる原因なんだぞ。

 最初の挨拶だって、「中学の連中なんて皆、俗物だから俺だけがこの世を正すヒール役になるんだ!」なんて言っちゃって……まぁそこがなかったら、こうして話す事もなかったけどね。


「そういえば今度友達と一緒にコミ〇っていうのに出るんだけど、あー君は来る?」

「コミ〇か……行きたいのは山々だがその日は既に先約があってだな」

「お金ないなら貸すよ?」

「考えを見抜くな」


 だってお金の使い方がいつも雑なんだもん。

 ゲームや漫画、ラノベはもちろんだけど最近ではマニアックな剣とか銃も買ったりしてるし。あれ結構なお値段するんだよねぇ。


「しかしあれだな。お前もとうとう同人作家とやらになるのか」

「そんな大げさなものじゃないって。友達の同人誌に一ページだけイラストを載せてもらえる事になっただけだしさ」

「てっきり俺は声優にでもなると思ってたぞ」

「うーん、まあ悪くないかなって思ってたけどどうしても養成所とかお金かかるじゃない? だからその道はきっぱり諦めたんだ」

「そうか。まあ悔いがないならいいんだけどな」

「大丈夫、大丈夫。それより少しくらいお金貸すから、あー君も来ようよ」

「だからそのあー君は辞めろ」


 でもあっくんはうちのクラスにもういるからなぁ。てかどこの学年にもいるよね、あっくん。


「じゃあ蒼君?」

「まぁ……それなら」

「でもあー君の方が」

「駄目だ! 駄目!」


 意地っ張りなんだから。

 まあでもそんな彼を独り占め出来ているこの時の私は本当に楽しく、そして嬉しかったんだと心から感じている。


 そう、今もその気持ちは変わってなかったりする。



× × ×



「……これ全部?」

「うん、私が今まで担当したイラスト」


 絶句した。

 数々のラノベやソシャゲのイラスト。ほとんど知名度が高いもので実際のイラストも中学時代とはかなり変貌し、惹かれるものばかりだ。


「蒼君が引っ越した後、特にやることもなかったからずっと絵の練習してたら、たまたまネットにあげたイラストを見た編集さんが声をかけてくれて、それからもう忙しくって」


 ははっと笑う彼女にもまた驚愕した。

 俺といた中学時代は長い黒髪に漫画でよく見るような丸眼鏡で何より地味っていう印象が強かった。

 それが今や肩に少しかかるくらいの金髪ショートでコンタクト、何より表情が生き生きとしている明るさが目立った子に大変貌している。

こんなので歌恋だと気付くはずないだろ。


「蒼君は相変わらず?」

「あーまああの頃に比べれば、まあまあ大人しくなったと思う」

「そりゃよかった。まああのまま高校生になった蒼君も見たかったけどね」

「色々あったんだよ、あれから」


 ほとんど高校に入ってから変化したようなものだが、言葉じゃ理解してもらえないくらいに色々あった。あの頃の俺でも信じないだろう。

 というよりもう何年だろうか。親の都合とはいえ、唯一信頼と言える友達と別れるのは今でも辛かったのを思い出す。転校先では同じように話す友達はおらず、孤独に厨二病を続けていた訳だし……そっか、本当に歌恋がいるんだ。


 そんな懐かしい談笑をサークルスペースの端でしていると買い物終えた神様が視線上に入ってきた。


「あ、神様お疲れ」

「やばかったです。まさかラスト一冊とは」

「そりゃあ幸運だな」


 まあ神様だからそこは人間よりも運度が高いって所かもな。

 と、出迎えた神様を隣で物珍しそうに歌恋が見ていた。


「蒼君の友達?」

「ん、一応学校の後輩」


 そう紹介すると今度は神様が口を開いた。


「蒼君?」

「……言っとくがお前が考えているような事じゃないぞ」

「五日市先輩に報告しときます」


 それはそれで突っ込まれそうなので辞めて頂きたい。


「ふーん。蒼君にこんな可愛い後輩出来たんだ」

「成り行きでな」

「ふーん、ふーん」

「あんまじろじろ見るな」


 歌恋の視線を遮るように俺が神様の前に立つと余計にニヤニヤとし始める。

 それに呼応するかの如く、神様も同じ表情になる。うわぁ……。


「初めまして。蒼先輩の後輩の花珂佳美です」

「どうもどうも。同じ中学校であー君唯一の友達の弓南歌恋です」

「おい、あー君は辞めろって言っただろ」


 混ぜるな危険とはこの事だ。

 しかしこの時間もそう長くはもたない。歌恋のサークルの人と思われる人がこちらに来て、「すぐに戻ってきてください。サイン求める人が多すぎて」と困惑の表情を浮かべている。


「ごめんねー、もう少し神様ちゃんと話したかったんだけどそろそろ行かないと」

「いえいえ。また色々と話しましょう。あ、そしたらID教えてくれれば」

「あぁ、アプリのね。そしたら私のは」


 早々にアプリのID交換を済ますと歌恋は颯爽と戻っていった。


「面白い人ですね」

「お前も十分面白いけどな」


 というより俺の周りってそういう人ばっかりじゃないの?






『只今を持ちまして―――』


 コミ〇が終わった。

 あと一日残っているし、買い物だけなら明日が本番とも言えるが本命の一日が終わったのだ。喪失感、そして達成感が湧き出てくる。


「よし! 今日は打ち上げだ!」

「ユマさんのおごりだー!」

「は!? いやそれは」

「そうなんですか。ユマロマさん、太っ腹ですね」

「……よし! 全員で肉だ! 肉を食うぞ!」


 そんなやり取りが行われ、現在都内の焼肉店にユマロマとnichさんのサークル全員で打ち上げ中である。まあチェーン店の食べ放題だけど俺達は未成年だから、こういう所じゃないと入れないので仕方ない。


「へえー。nichさんって専門出身なんっすね」

「まあ色々勉強になるかなって。でも基本的には講義の他にも模写したり、色んなタッチで絵を描けるように練習したり、とにかく色々やってたなー」

「やっぱ俺も模写からですかね」

「リズ君の場合なら―――」


 絵師同士はやはり話題がそっちの方に進んでおり、盛り上がっている。

 その一方で目の前にはちびちびと焦げた野菜を口に運ぶ大学生が一人。


「印刷代……参加費……来週のイベント代……」

「いい恰好つける前に財布を見なさいよ」


 計画性のなさもいいところである。


「でもお前だって神様ちゃんの前ならいい所見せたいじゃん?」


 そうだろうか。

確認の為に隣で美味しそうにカルビに合わせたご飯と美味しそうなカルビを食べている神様を見て、ふーっと息を吐き、口を開いた。


「全然」

「お前達そういう関係じゃないの?」

「あいにくと」


 というよりそういう関係性にはならないだろ。

 こいつが俺の近くにいる目的はあくまで本体の意識である花珂さんを取り戻す事だけだ。第一、好意を持っているならば、神様の感覚とやらでバレてるだろう。つまり俺達にそういう感情は芽生えてないという事だ。

 なんて思い浮かべてるとユマロマが新たな話題を切り出してきた。

 

「ところで今回はどうだった? 初めて創作してみて」

「まあ楽しかったかって聞かれれば楽しかったよ。かなりキツかったけど」

「そか……まあ気が向いたらでいいから、また書いてみろよ」

「また合同誌作るのか?」


 そう聞くと、ユマロマは首を横に振った。


「リズみたいにお前も創作側の方に回ってこないかって事。SSでもイラストでも自分が作りたいって思わなきゃ出来るものじゃねえんだ。だから暇な時間で少しずつやっていけば、次第に自分がこっちに合ってるかどうかってのが分かるってもん」

「そんなもんかね」

「そんなもんだよ。お、トイレ空いたからちょいと」


 まあ言われてみればな。


 正直楽しかった。色々と戸惑う事や勉強した事もあったけど、それでも書けるならまた書いてみたい。もっと自分に語彙力あれば、クオリティだってあげれたのだからまだまだ勉強不足というの痛感したし。

 あと二次創作もだけどもしやれるならオリジナルでもやってみたい。昔からラノベ作家のように小説を書くというのは一つの夢だったのだ。

 夏休みはまだまだ時間がある。特に何か予定がある訳でもない。

 ならもっと書いてみるか。


「あ、雨さん雨さん」


 いつの間にかご飯を食べ終えた神様から肩を叩かれたので目を向ける。


「どした?」

「いやちょいと雨さんには早めに言っとかないと先に予定入れられそうなので」

「予定? お前どっか行くのか?」

「はい。ちょっとした」

「へぇ。まあ気を付けて」

「何言ってんですか」


 と、神様はにっこりと笑顔を向けて、こう言ったのだ。


「雨さんも一緒に行くんですよ」




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