第14話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 14
「いえーい! それじゃ第五十一回『
そのコール&レスポンスに体育館中に轟音が響き渡る。
人生初の文化祭がまさか運営側とはなぁ。当初の予定では俺もあそこでうぇーいってやってるはず……いや無理。何なら参加すらしてないし、直前までラーメンの鍋の前でスープの具合を見てるまである。
そう、クラスでの居場所が現状なくなってしまった。一応俺の仕事は簡単な事前準備のみなので調理もしないし、接客もしない。したがってクラスでこれ以上やる事はないし、いても邪魔だ。何ならクラスTシャツの名前一覧がみんなあだ名に対して、『あめみやくん』となっている辺り悲壮感が出る。いやいいんだけどね。
『幕、完全に降りました』
『了解です。では実行委員はこれから各自シフト通りに動いてください』
インカムからの連絡にそう答えて、俺も運営本部へと戻っていく。
クラスでの居場所がなくても、こっちはやる事が多過ぎる。何せほとんどの委員がクラス、部活の方でこちらの仕事まで手が回せないのだ。人手不足過ぎて、求人票を出したいくらいだが報酬が百円くらいの詰め合わせお菓子くらいなんだよなぁ。
「さーて、それじゃあ申し訳ないけど」
「ええ、あとで見回りの時に行くので楽しみにしてます」
「可愛いからって写メは一枚五千円だぞ?」
「駄目じゃないんですね」
いや五千円くらいの価値あるけどね?
そうして刹菜さんが自身のクラスへ戻る中で我らが運営本部の教室に戻った俺はさっそく実行委員にインカムで連絡を入れる。
『雨宮です。委員長から伝言で各委員はそれぞれマニュアルに違反した生徒を見かけたら、即運営本部に連絡をお願いしますとの事。また万が一、シフトに出れない場合は出来れば代理をたててほしいとの事です。もし見つからなくても連絡だけは必ずお願いします。以上です』
さて……俺もどうするか。
暇つぶしに自宅からラノベを何冊か持ってきてはいるし、ソシャゲのイベント周回もありっちゃあり。そう、例えぼっちでもやる事は多いのだ。
とはいえ流石にいつ教師が来るかわからない。そうなると没収される可能性高いスマホは封印。ラノベ一択だな。
が、ちょうど鞄から取り出そうとした矢先だった。がらっと教室の扉が開かれる。
「お疲れ様です……あれ? 今って誰もいない?」
「えーと誰もいないっていうか午前中はほとんど俺が担当です。他の実行委員はみんな仕事があるらしくて」
「あ、そうなんだー。私、最初の時間はフリーって言われたから暇になってさ、何か仕事ないかなーって」
あらびっくり。皆、頭の中からこっちの仕事の事なんて忘れてるのかと思ってた。何なら万が一に備えてクラスの奴にも一言伝えたのだが「こっちは大丈夫だから、そっちに専念してね」と明らかに邪魔扱いされたので問題なし。というより確かその相手速水さんだったよね? あなた一応実行委員……もういいけど。
で、そんな中で一人来てくれたこちらの女子。何だろう、最近話した記憶はあるんだよなぁ。確か名前も教えてもらった気もする。
「雨宮君はクラスの仕事ないの?」
「あいにくいない方が仕事が進むらしくてね」
「ははは……」
「てかそっちはいいのか? 適当に友達捕まえて、回ったらどうなんだ?」
「あー、どっちかといえば私は一人でいたい方だし、それに少し雨宮君に話したい事もあったから」
「話したい事?」
「うん、前の委員長さん達について」
思わず顔を向けてしまった。
別に深い意味なんてない。ただ文化祭初日当日に一番は出た話題が皆川達なので咄嗟に反応してしまったのだ。
「詳しい事情なら俺も知らん」
「知ってるよ。ただ一応伝えとこうと思って」
「何をだ?」
「昨日、雨宮君と委員長が席を外してる時にやってきて、仕事復帰したって報告しに来た件」
ここで愕然とするのは変に思われるので何とか無関心な態度を取る。だがそれでもその話はかなりの懸念事項だ。
もちろん彼等が来た報告なんてこっちには来ていない。つまりほぼお忍びでやってきたという事だし、しかも仕事復帰だと? 今更どの面下げてここに足を踏み入れてるんだ?
とはいえ第三者の彼女がいる手前で気が逸るのはみっともない。
「ありがとう。あとで委員長にも報告しておく」
「うん、よろしくねー」
ひとまずは彼女がここを離れ次第、連絡を取ろう。
活動自粛という名目で自ら放棄した彼等が直前で戻って来るなんて何かの腹いせを考えているのか? それとも上手く手柄を横取りしようとしているのか?
ああ、駄目だ。一度考えてしまうと様々な仮説が浮かんでしまう。今は一度忘れて読書、読書と。
「……ねぇ」
「ん?」
「雨宮君って一応刹菜先輩の彼女なんだよね?」
唐突にそんな質問が飛んできた。おっとっと。やっぱり気になっちゃいますか。そりゃあ実行委員の間では現在進行形でちょっとした話題のホットニュースだ。あの雷木刹菜に一年生の彼氏がいるというのは。
しかしここで嘘をつくのは面倒だし、真実を伝えないとあの人との約束を破る事になる。現状をそのまま伝える事にした。
「いや。残念ながら」
「へえー。ずっと一緒にいるからみんな付き合ってるって言ってるよ?」
「ずっと一緒にいるのはそのみんなとやらが手伝ってくれないせいでもあるんだよなぁ」
「そりゃそうだ」
と、話が落ち着いた所でインカムの無線が入った。
どうやら二年生の飲食店でトラブルがあったご様子。
「あ、私見てくるよ。誰か残ってないと駄目でしょ」
「じゃあ……頼みます」
「ほいほーい」
颯爽と教室を飛び出して行き、また一人。それにしても中々元気がいい人だったな。いまだに名前が思い浮かばないけど。
それよりも、だ。もし今後彼等がここに現れた時、俺は憤慨する気持ちを抑制し、彼等と対話が出来るだろうか。否、無理である。刹菜さんが許したところで仕事を他人に押し付けるような連中相手に聞く耳を持てるはずがない。
さらにいえば仕事復帰をしたなんてお前らが出来そうな仕事なんぞごみ捨てぐらいだ。ついでにお前ら自身もごみと遜色ないのだから一緒に燃えてくれるほうが好都合だ。
考えれば考える程、己の感情が浮き彫りになってきて、苛立ちが積っていく一方。けれど既に遅かった。
事件は俺の知らない所でもう始まっていたのだから。
× × ×
初日終了。特にあれ以降目立ったトラブルもなく、シフトも欠ける事はなく終了したのだが生徒会長から「申し訳ないが生徒会室に来てほしい」とインカムから連絡を受け、現在足を運んでいる。とはいえ教室を二つ、三つ挟んだところにあるので大した距離でもない。
扉の前に立って、二回ノックすると「どうぞ」と声がかかる。
「失礼します」
「悪いな。一日お疲れのところ」
「いえ」
生徒会長の一ノ瀬幸太郎の表情はどこか険しく、室内も何やら重い空気だ。
ただ事ではないというのがすぐに察せる。
「何かあったんですか?」
「ああ、だがその前に単刀直入に聞きたい。君は今日一日シフトで運営本部にいた。それは間違いないか?」
「ええ、まあ」
「……そうか。雪村」
「はい。悪いが雨宮君、ちょっと失礼するよ」
「へ?」
間の抜けた声が出たと同時に雪村真一が近付いてくると急に俺のズボンのポッケや身体をまさぐり始めた。はい?
「いや……これ何ですか?」
「会長。見た所こちらにはないようです。念の為に彼の鞄も調べますか?」
「いや大丈夫。悪い、雨宮君。先に君の犯人への疑いを少しでも晴らしておきたくてね」
「犯人?」
「ああ……」
踵を返した会長は少しためらった後にその重い口を開いた。
「なくなったんだよ。文化祭運営費がね。そしてその犯人候補として君が上がっているんだ」
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