第12話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 12
それからの夏休みは幸せ過ぎる日々だった。
普通に遊びに行くのはもちろん時には海行ったり、花火したり。
それに夏コミにもね。個人的にはリズに色々言われたがまあ向こうは自分の趣味以外に興味はなく、それ以上追及はなかった。
刹菜さんだけじゃない。妹の有菜にもこっそり誘われ、内緒で遊んだりもしていた。バレた時の事を考えると中々躊躇したがまあ妹なら別という彼女の言葉を信じる事に。
そんな幸せな夏休みの八月のお盆明け。もうあと数日といったところだった。
『緊急事態発生! 委員長及び各役職長の半分が辞任』
嵐の前触れといえる連絡が届いたのは。
× × ×
「原因はやはり」
「本人達は"成績が悪く、次の模試に向けての勉強をしないといけないし、親からも言われている"と如何にもな理由をつけてきたよ。ま、建前だけどね」
刹菜さんに呼ばれて、俺は学校に来ていた。本来ならば始業式までは来る必要はなかったが刹菜さんから相談があるという事なので急遽臨場したという始末。
「まあ仕事放棄はどうでもいいです。それより俺が聞きたいのはどういう事ですか?」
と、目の前の彼女を問い詰める。流石に俺から言われるのはうろたえるようでそっぽを向いてしまった。
というのも学校に着くなり、いきなり報告された言葉が、
「良太郎達の仕事を全部引き継ぐ事になった」
それで納得出来るはずがない。
「委員長だけじゃない。副委員長に辞任した財務、装飾、記録・撮影。それ以外にも各部活との打ち合わせやPTAとの兼ね合いもあります。それを全て一人でやると?」
「……だってそれが一番手っ取り早いし」
「いくら刹菜さんが人間離れした存在でも流石に倒れますよ」
「その言い方はひどいと思うんだけど」
そう思うなら一言相談してくれないものか。これじゃあ事後報告になっている。
はぁと小さくため息を吐き、口を開く。
「でどこから手をつければいいんです?」
「え?」
「もう受けるって言っちゃったんですよね? 刹菜さんがそこまでこの文化祭を崩させたくない理由についてはあえて聞きません。だからその代わりに」
そう区切り、軽く微笑して、
「一人で抱え込まないでください」
全く彼氏面かよと思ってしまう。
でも心配なものは仕方ない。大体この人がやるって決めてるのなら、俺がそれに反対する理由なんてないのだから。
「……ありがと」
「全て終わってからにしてください。これだけの量を二人だけでやるって相当ですよ」
「まあそこはなんとかね。次の会議までにはまとめれば」
「いえ次の会議も前倒しで始業式当日にやりましょう。委員長達の事情も説明しないといけないですし」
「あ、蒼君。それなんだけど……」
少し歯切りが悪いので顔を向けるとばつが悪そうな顔をしながらこう言った。
「良太郎達は家庭の事情、もしくは一時的に休みって事に出来ない?」
「は?」
「いや……色々とね」
「その色々を聞かない事には納得いきません。仕事放棄した奴らを庇う理由って何ですか?」
「庇うっていうかね。正直勉強を理由に休みますでみんなが簡単に納得するはずがないじゃん。だからちょっとだけ言い方を変えてね」
「それでも皆川先輩達ですよ? あのクズみたいな男にそこまでする価値があるとは」
「お願い!」
手を合わせた彼女を前にさっきよりもしかめっ面になるしかない俺。
文句を言いたいがそうすればこの人は一人でやろうとしてしまう。あえて聞かないとは言ったが本当にそんな嘘をついてまでしなきゃいけない理由は何なんだ?
しかし聞いたところでこの人が考えを改める訳でもない。不服ながら俺は了承する事にした。
結局その後は彼等が残した仕事についての確認、そして各部署の実行委員へ連絡。生徒会への報告と夕方まで打ち合わせは続き、それから夏休みの間は数日学校に行っては話し合いをした。貴重な夏休みを浪費させた皆川達には一言言ってやりたい気分だが本当にやることが多く、そんな考えもすぐに消し飛んだ。いやマジであいつら仕事しろよ。
そうして新学期が始まり、新体制となった実行委員会では更に問題が発生していく。
「えーと出れない?」
「ごめんなさい。一年は必ず手伝えって先輩命令で……」
運動部の年功序列ともいえる上下関係。部活動やっている人間としては逆らえないものだ。
しかも一人認めてしまえば、他の実行委員も消えてしまい、人員不足が目立っていく。ただそれはカバーしきれる範囲だし、生徒会の全面的にサポートもあった。
どちらかというと俺個人の方が色々ややこしい。
「すいません。この書類、昨日までなんですけど」
「は? 知らねえよ。あんたがやれば?」
「俺書記代理なので」
「こっちも知らねえよ」
知らねえよじゃねえよ。お前の仕事だろ、ボケが。
「雨宮君だっけ? 議事録のまとめの製作任せていい? 私ら、しばらくクラスの準備に回りたいんだけど」
「いや俺もそれあるんですけど……」
「頼むよ。今年はガチでやろうって決めてんだって」
こっちもガチでやれや。
そんな感じで仕事を無理やり押し付けられていた。
まあ理由はわかる。学年一の美少女の隣にいるのが冴えない一年。そんなの男子から見たら面白くないし、女子から見たら刹菜さんを都合よく思わない連中のいい恰好の的だ。
ただきちんと仕事する奴もいた。
「雨宮君、終わったよ」
「ありがと……えーと」
「北条五月。前にも挨拶したじゃん」
「そうだっけ?」
「まあいいや。ほかに仕事あるー?」
「じゃあそれを」
名前、素で忘れてた……でもこれで名前覚えられはずだ、多分。
「蒼君、そっちは?」
「ひとまずこの辺の書類は片付きましたよ。で会議の方は?」
「思った以上にどこも粘り強くてねぇ。ここが使いたい、あそこが使いたいって」
と疲れた表情のまま、椅子に腰を下ろした。
部活会議ではそれぞれの部活がどこで屋台を出したり、展示をしたり、もしくは発表をするのか。毎年この内容で特に揉めるという。しかも本来ならば夏休み前にやらなきゃいけない打ち合わせなのに皆川が忘れていたようで大慌てで集まってもらった。
「まだまとまってはいないって感じですか」
「まあ発表系は体育館で収まるからいいんだけどね。問題は屋台を出したい運動部の連中よ。あそこを使いたい、ここを使いたいで結局くじ引きになった」
「妥当な落としどころじゃないですか」
「納得はしてくれなかったけどね」
それもこれも準備不足のあいつらのせいだと考えると激高に駆られそうだ。
すると扉の方からコンコンとノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
すぐに刹菜さんが声をかけた。
「失礼します。雷木さん、今大丈夫?」
「うん。えーと」
「あ、ごめんなさい。二年の海風サナと申します」
そんな行儀のいい、お嬢様のような挨拶が不思議と俺の耳にも深く届いていた。
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