第10話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 10
「お、お邪魔しまーす」
「そこまで警戒されるのは流石に嫌なんだけど……」
苦笑い気味にそう言ってくれるが考えてみろ。もはやここは聖域だぞ? 男たるもの、この領域内に踏み入るだけで不法入国扱い、最悪一生豚箱行きでも仕方ない。
「あ、一応注意点だけ」
「ここにきて、それ言います?」
「言い忘れてただけ。そんなに難しい事じゃないよ。ただ」
そう言いかけた時、左奥の扉が音を立てながら開き、「ふぁ」とあくびをした女の子が出てきた。そう、女の子。それも滅茶苦茶刹菜さんに似ている女の子。
紺色の薄着のパーカーとグレーのレギンスで如何にも部屋着といった容姿の彼女。
「あー、遅かった」
「へ?」
刹菜さんの顔を向いた途端、その彼女は大きな声で叫んだ。
「彼氏ー!? 嘘っ、嘘っ!? マジでお姉ちゃんの彼氏!?」
「有菜。悪いけどそういうのじゃないから。あとこの人、今日一日泊めるからお母さん達には内緒で」
「ほー、両親がいない隙に男を連れ込むとはやりますな」
「うるさい。じゃあ私は二階にいるから」
「はいはーい。あ、彼氏さん、一応名前聞いていい?」
「あ、雨宮です。雨宮蒼」
「蒼君ねー、じゃあごゆっくりー」
それだけ言うと、そのままリビングの方へ消えてしまった。
嵐のような瞬間だな。つかお姉ちゃんって呼んでたという事はあれ妹?
「ずいぶんと元気がいい子ですね」
「元気が良過ぎて困るんだけどね。ま、とりあえず君は二階へGO」
言われるがままに刹菜さんの後についていき、部屋に通された。
ごくり。軽く息を飲んで、足を踏み入れた。野郎の部屋とは違い、部屋全体に漂う女の子独特の香り。なんかこの感想キモいな。
しかしながらそう言わざるを得ないほどこの空間は愛おしく、それでいて素晴らしい。
「定番っぽく"あんまりじろじろ見ないでよねっ"とか言った方がいい?」
「そう言われても見たくなっちゃうのが男子ってもんです」
「だよね。まあ君の部屋程面白くはないよ」
そりゃそうだ。壁一面ポスターだらけでほとんど本棚とショーケースがある部屋と違い、白い壁紙に合わせたクローゼットと机にベッドとテレビが置いてあるくらいだ。漫画とかも俺の部屋にあるような大きい本棚を使用するほどの量は無く、衣装ケースに収納されているのが目に入った。
しかし一つだけこのザ・女子の部屋にそぐわない物があるのに気付いてしまった。
「これここに置いてるんですか?」
「うん、まあ」
と二人で机の上に置いてあるリナミスのフィギィアに顔を向ける。
間違いなく俺があげたやつだ。いや何もそんなところに置かなくても……もっと部屋の端っことか衣装ケースの中とかでよかったのに。
こういう風に自身のプレゼントが大事にされているのを目にすると恥ずかしさというか正面から刹菜さんの顔を見れないといいますか。
「緊張してる?」
「しない方がおかしいでしょ」
「せっかく女の子の家に二人きりなんだから、リラックス、リラックス」
無理に決まってんだろ!
しかしその叫びとは裏腹に刹菜さんはベッドに腰を下ろすととんとんと隣を叩く。
「はははは……」
「はい、おいでー。先輩命令だよ?」
「はい……」
楽しんでるよなーこの人。言われるがままに隣に腰を下ろす。
数時間前までは一緒に帰宅する事に喜びを感じていた俺はどこへやら。こんな急展開、アニメやラノベなら干されるぞ。
「それにしても一学期終わっちゃったねー」
「嫌なんですか?」
「そういう訳じゃないけどさ。何だかんだ楽しかったなぁって。可愛い後輩君とも知り合えたし」
「俺は色々と寿命が縮みそうな一学期でしたよ」
「スリルがあったほうが面白いでしょ?」
へぇへぇ。
まあこれまでのぼっちヲタク生活から一変、学校にいる時はほとんどが彼女と共にするようになった。過去の俺ならばこれを異常だと決めつけるだろう。
しかし今の俺は彼女、雷木刹菜に会わない一日の方が異常だ。思えば初めて会ってから早二か月、たかが実行委員の仕事だけで知り合うはずが些細な時間でも会って、話して、笑って。
もしあの時、俺が彼女になってくれという願いではなかったら何を願っていたのか。そんな事をたまに考えるが今でもその答えは見つからない。
「夏休みはどうしよっか? 一緒に夏コミとか行く? あ、それ以外にも思い切ってどこか泊まりに行く? 海でも山でもいいよねー、私アウトドア好きだし」
「むしろインドアでヲタク的趣味っていう所が想像出来ませんよ」
「ヲタク的趣味は好きになっちゃったから仕方ないの。それに普段は才色兼備な美少女。しかしてその正体は……的な方がギャップ差あってよくない?」
確信犯過ぎると思うがそれでもこの人には逆らえない。
だって好きなんだから。
と、その時。丁度雷が大きな雷鳴と共に降ってきた。
「……先輩?」
「しがみついているのはスルーして」
「確かに雷ですけどまだ序盤みたいなものですよ。ここから大雨に合わせて、降って来るんですよ」
「知ってる」
別に頼られるのは嫌じゃないがどうこうする訳でもない。
でもいつもは先輩肌の彼女がこうして自分に頼っている姿を見るのは新鮮でそして嬉しい。もちろん言葉には出来ないが。
「先輩」
「何?」
「まだ雷続きそうですよ」
「じゃあ収まるまで一緒にいて」
「はいはい」
まだまだ始まったばかりのお泊り。
しかし料理とかはどうするのだろうか?
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