第8話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 8



 別にその子にだけ固執していた訳じゃない。

 アニメやラノベが好きな子なんて今のご時世、どの学校にも一人どころか一クラス分いてもおかしくはない。それに自慢ではないが人当たりはいい方だと思ってる。だからまずは同じクラスメイト、続いて同級生。そして次が後輩だった。

 知識的な事で話すならクラスメイトの方が詳しそうだったのだが何やら私と話すのが苦手なようで頼めず、同級生達は下心が見え見えなので躊躇してしまった。

 もちろんあの約束の条件が彼女になりたいと要求した彼もそういう本心があったのだと思うけれど、私は彼を選んだ。カッコよさとかヲタク知識の深さとかどうでもいい。何で? 知らないよ、勝手に私がそう決めたから。馴れ合ってる内にもしかしたら気を許したかもしれないし。


「じゃあさっそく提案を聞こうかな」

「提案ってほどでもないですよ」


 彼はさくっとそう言った。参謀なんて言っちゃってるけど彼はただの学生だ。頭がよく回るという話も聞いたことないし、正直どういう事を考えてるのかは見当もつかない。


「まず確認なんですけどいい……皆川先輩はマキナさんが桑間先輩を振ったことで自身のプライドに傷がついたから、軽いいじめ紛いの嫌がらせをしていると」

「いじめに軽いも重いもないよ」

「失言でした。そして結衣先輩は彼氏である皆川先輩から嫌われるのも嫌。かと言って、友人としてマキナ先輩との仲を崩されるのも困る」

「平たく言えばそうなんだよね。でも付き合う前はもう少し強気っていうか、思ってる事すぐ口に出すっていうか。あんまり人に対しての遠慮がないっていうか」

「随分毒吐きますね」

「揚げ足を取らない」


 全く……少しは先輩として見られてるのだろうか。何だか親密になればなるほど、失礼になってる気もするけど今は見逃してあげますか。


「まあ嫌がらせに関しては案があるんですが噂に関してはどう火消しするかですよね。個人的にはやはり結衣先輩からあの噂はデマだったと言いふらしてもらった方がいいような気はするんですけどね」

「あ、蒼君。それについて一言」

「はい、どうぞ」

「多分マキナに関しての噂を流したのって良太郎達じゃないよ」


 聞いていた蒼君は「へ?」と間の抜けた声を出した。

 しかし理由はない。ただ言えるのは彼等を多少なりとも知っているのでそこは勘に近いものだが自信はある。


「だって流れている噂ってマキナに対しての誹謗中傷に近いものでしょ? そんなのいくら何でも結衣が許すはずがないし、良太郎もそこまではしないと思うし。正直今は文化祭期間だから本人は軽いいじり程度にしか思ってないけど終わる頃にはもう何もしないだろうし」

「かと言って、文化祭終わるまでの苦痛に耐えろって報告する訳にもいかないでしょ」

「それはもちろん。だから噂に関しては現状はよりこの噂に対する事を考えた方がいいかなって」

「ま、それが最善ですね」


 ついつち口を挟んでしまったがこういう情報は共有が大事。いつの時代も情報は命よりも重いからね。なのでアシスト的な感じって事で。


「それじゃマキナさんお助け案なんですが」

「ぱちぱちぱちー」

「そんな大それたものじゃないですよ」


 しかしニヤリと笑みを浮かべた彼はどうやら自信に溢れているご様子で。


「方法としてはまずマキナさんに確認ですね」

「確認?」

「桑間先輩を振った理由です。一言で付き合えないと済ますのは詭弁です。タイプじゃない、話したことない、生理的に無理とか色々あると思うんですよね」

「やけに具体例が生々しいのは実体験とかじゃないよね?」

「なのでそこを確認することが前提として必要になってくると思うんです」


 あ、スルーした。

 突っ込んだら、心の傷を抉ることになるんだろうなぁと思いつつ、続きの話に耳をしっかりと傾ける。


「恐らくなんですがマキナさんは興味ない相手だから付き合わなかった。多分顔やルックス自体はあの委員長の友達と考えるとまあまあいい方だと思うんですよね」

「平気な顔で中々の上から目線」

「聞かれる事ないのでノーカンです。なのでまずはマキナさんに彼に対する関心を持たせる、そして桑間先輩をこちら側に引き入れる事が今回の作戦の大きな目的です」

「桑間君をこっちって良太郎の友達なんだから、向こうに協力的でしょ?」

「男は女に弱いっていう生物の法則を利用するんですよ」

「法則じゃないと思うんだけど」

「とにかく! 方法はこうです。まず文化祭実行委員として仕事量が増やされている現状を打開すべく、先輩、そして結衣先輩の両名から桑間先輩に協力をお願いする。桑間先輩からしたらマキナさんと近づく口実が出来るし、一回振られたくらいじゃそこまで落ち込みはしないでしょう。普通に協力してくれます」

「そこから二人の仲を深めて、付き合わせるって事?」

「そんなことする必要はないです。狙いはあくまで皆川先輩からの嫌がらせをなくす為。いくら何でも親友が一緒にいる状況じゃ下手な手出しは出来なくなりますし」

「万が一、良太郎が結衣にどうして協力したのか言い詰められたら?」

「その時は桑間先輩からお願いされたとか先輩からお願いされたとか適当な感じで誤魔化せば、オールオッケーです。というより結衣先輩はこの件で少しは彼氏に対して強気であるところを見せて、多少の主導権を握れるようになった方が今後の付き合いに役立つかなって」

「……なるほどね」


 シンプルだが現状の打開案としては最善だし、結衣の方にも配慮したしっかりとした提案だ。それに長期間やる訳でもない文化祭作業だし、良太郎も今はちょっと意地になってるだけでほとぼりが冷める頃にはマキナに対する接し方も元通りになってるだろう。


「その案、頂くね」

「他にも何案か思いつきましたがこのやり方が一番楽だし、双方文句は出ないかと」

「だね。でも個人的には少し微妙かなー、ユウナになるって言っといて、結局人頼みなんだから」


 はははと苦笑いしながら、本音を漏らしてしまった。

 ユウナは誰にでも優しく、どんな相手でも強気だ。だからユウナになるというのはその覚悟が求められる。でも本音を言えば、ユウナだからじゃない。

 誰でもよかったのかもしれない。私だけで彼女を、いやどんな人でも助けられるなら。もう二度とを繰り返したくないから。


 しかし目の前にいる彼は首を傾げながら、口を開いた。


「いやいやいや。この計画って実際に動くのは先輩なんですから。むしろ先輩が下手な事したら余計こじれちゃうんですから頼みますよ」

「ねぇ、何か最近扱いが雑じゃない? 先輩に対する尊敬とかは?」

「これまでの先輩を振り返れば、何となくそんな感じでいいかなって」


 ぐぬぬぬ……後輩にそこまでポンコツキャラみたいな扱いをされてたとは……。しかしながらどうしよう。思った以上に気分いいかも。

 最初は腹立ったけど、何かこういう先輩後輩の関係性っていい。ラノベヒロインと主人公の構図に近いよね。そう思うと不思議と口からの笑みが止まらなくなった。


「何で笑ってるんですか?」

「いや。面白いなぁって、蒼君は。あ! そういえば聞きたい事あるんだけど」

「な、何ですか? 急に眉間にしわを寄せて」

「ど・う・し・て! 私だけ先輩呼びなのにあの二人は、しかも名前で呼ぶのかなぁ?」

「へ? 二人ってマキナさんと結衣せんぱ」

「な・ん・で・か・な・ぁ?」

「ひぃ」


 恐怖の表情を浮かべる後輩を問い詰める先輩。我ながら大人げない光景だがそれでもなーんかずるい。私だって……刹菜せつなって呼んでほしいのになぁ。

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