第6話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 6
文化祭実行委員の二年生で役職は企画。少々派手な恰好と地毛と言いつつ、染めている明るい髪型は注目を浴びたようで目をつけられているとの事。
「で、その柊さんが仲間内からハブられ始め、それがいじめに発展したって事でOK?」
「大方な。付け加えるなら相手が実行委員長率いるグループのようで面子のほとんどが各役職長っていう有様」
そんな風にため息をつく一ノ
ところでどうしてこういう状況になっているのかって? 放課後になって、いきなり刹菜さんが「蒼君、ちょいときてー」と呼びだすので行ってみれば、生徒会室へ連行。そして一ノ瀬が語り始めた。
そして今に至る。うん、分からん。一ノ瀬の話をきちんと聞いていたつもりだったがまるで分からんぞ。勝手に刹菜さんと二人で盛り上がっている様子なので蚊帳の外。何なら空気と同化してると言ってもいい。
もちろんそれは俺だけではない。せっせと仕事している雪村も無関心なせいか、目の前のノートパソコンとにらみ合いながらキーボードを打ち込んでいる。彼もまたこの場にお呼びではない存在なのだろう。
「ふーん、大体わかったよ」
「で、本当にこれ何とかするのか? 言っちゃ悪いが連中を敵に回すの面倒だし、いくら顔がいいお前でも」
「あら? 心配してくれるんだ。一ノ瀬君、やっさしー」
「生徒会長として言ってるんだ」
「生徒会長さんだからそうだよね。でも一ノ瀬君は協力者だから、教えてくれればそれでいいの。実際に行動するのは私でプランを考えるのが彼だから」
と、刹菜さんの視線がこちらに向いた。同時に一ノ瀬もこちらを向いて、目を細める。い、いや何もないですよ? というかいつの間に俺が考える事になってんだろう……。
とはいえ、連れてこられたおかげである程度の概要は掴めた。
いじめられている、何とかする、プランは彼。これだけで仮説は立てれる。つまりは柊マキナといういじめられている健気な少女を我らがヒロイン、雷木刹菜さんが助ける。その為の手法を俺が考えるという事だろう。
「えーと……すまないが名前を聞いてもいいか?」
「雨宮です、雨宮蒼」
「ああ、君か。最近噂の雷木の追っかけというのは」
え? そんな変な異名がついてるの? それ、その内ストーカー扱いされるコースだよね? というよりこの人から接触してきてる回数の方が多いんですけど、それは……うん、理不尽だね! 社会は。
まあ印象というのは大事だ。特に秀でたものがある訳でもない一年坊主と学校のヒロインじゃ考え方は自然とそういう方向に向けられる。
「まだストーカーって呼ばれないだけましじゃない」
「俺の事をそういう風に見てたんですか、そうですか」
「冗談だよー、あははは……あれ? 蒼君? 顔が怖いよ? スマイル、スマーイル」
笑顔を作った刹菜さんだが眉間にしわを寄せた表情を崩す事は出来ない。てか心読むなよ……。
だが互いにここが生徒会室である事をすっかり忘れていたようで一ノ瀬だけじゃなく、雪村も手を止めて、こちらを見ていた。
「……もしかしてそういうご関係?」
「そう見える? よかったねー、蒼君」
「生徒会長。一度眼科に行く事をお勧めします」
「後輩にそう言われたのは初めてだな。ま、噂は何とやらってやつか」
何か納得しているようだけど、個人的にはかなり不服な気分だ……。
そんな俺をよそに再び会話は続行される。
「だが現実問題、柊を助ける事は雷木にとってはよくないだろう」
「今度は私があいつらからハブかれるから?」
「それで済むならまだいいさ。いじめ問題に発展はもちろん、最悪学年集会レベルの事案にまでなれば、こちらも対処しないといけない」
「というか生徒会長がいじめ問題を止めようとしないのも問題があると思うんですけどー」
そう刹菜さんが言うと、生徒会長が言葉を詰まらせる。まあ図星だろうし、間違ってはいない。
しかし学校という社会ではそれが間違っているのだ。誰もが面倒ごとに巻き込まれたくない。ましてや相手が委員長達だ。遠目から見るだけでも如何にも陽キャラというかリア充というか……意味は同じだな。
そんな奴らを相手にするのははっきりいえば頭おかしい。連中がおとなしく引き下がる相手ではないし、下手すればこちらが大打撃を受ける。一度目をつけられれば、暴力、恐喝等々数えきれない。女である刹菜さんに至ってはそれこそ考えたくもない嫌がらせを受けるかもしれない。
それでも尚、この人は立ち向かうのか。
「とにかく騒ぎが大きくなる前にこちらも考えるがそっちも動くなら事前に連絡だけはしてくれ。あいつらああ見えて、頭はいいんだ。うまい具合に手を回してくるに違いない」
「了解。さて、それじゃ今度はこっちの打ち合わせだね。一ノ瀬君、ありがと」
と、立ち上がった刹菜さんの後に続き、生徒会室を出る。
どこへ向かうかは聞いてないがこれで開放されるはずがない。
「で、次は誰と会うんですか?」
「んー、とね。ご本人に直接取材の予定」
もうアポを取っているとは流石我らが刹菜さん。そのまま三年生の教室が立ち並ぶ階に着き、端の『2-3』の教室へ入ると予想通りと言わんばかりのギャルがいた。
「ごめんねー、一ノ瀬君と話してたら長くなっちゃって」
「別に刹菜は悪くないしょ。そんなに待った訳じゃないから」
「マキナならそう言ってくれると思ってたー!」
「はいはい……で、そいつが例の?」
「うん、例の!」
レイさん、呼んでますよー。レジェンドに乗ってきそうな名前だな。
もちろんある意味伝説的な方なら目の前にもいるのだが本人にその自覚はないだろう。
ひとまず軽く挨拶しとけばいいか。
「どうも」
「ふーん。刹菜の彼氏候補っていうから少しは冴えてるかと思ったけど、まだうちの陰キャラの方がいいかも」
あ、左様でございますか。陰キャラなんて言葉を知ってるとは凄いなー、このギャル。
しかしながらこんな茶髪な上に軽くメイクをして、制服を着崩しているという頭髪検査でまず逃れようのない女で全くタイプじゃない女だろうと刹菜さんの頼みである以上は助けないといけない。
「じゃあ早いとこ話を進めますか。この後も会議ありますし」
「そうだね……マキナ、大丈夫?」
「ウチは大丈夫だけど、刹菜はいいの? 流石に良太郎と結衣達を敵に回すのやばいっしょ」
「まあそこはね。でも不思議なんだよねー、結衣がそういう事を黙ってみてるなんて。あの子ってそういう事、一番嫌いそうじゃん」
そう言うと、マキナさんは顔を暗くし、軽くため息を吐いて、語りだした。
「結衣は違うんよ。あの子は良太郎達男子のグループから根も葉もない噂を聞かされてるから」
「というかそもそもの発端って何なの?」
「ウチにもよくわからない。初めはみんなで仲良くしてたのにいきなりウチを省いて、遊びに行ったり、勝手に委員会の仕事増やされたり。いつの間にか援交してるとかその……」
「まあその先は大方予想出来るわな」
俺がそう言うと、二人が視線をこちらに向けてくる。何か気味悪そうに。
「キモッ! これだから童貞キモヲタは」
「ど、どどど童貞ちゃうわ」
「はいはい。蒼君が童貞かどうかは本当にどうでもいいから。マキナ、その良太郎達とそういう事が起きる前に何か起きなかった? いくら何でもいきなり起きるなんて不自然じゃん」
そりゃそうだ。でも本人にも身に覚えがないのだろう。だから別の視点から探ってみるしか、
「特に何も。強いて言うなら、ウチが良太郎と仲が良かった男子の告白を断った事くらい?」
「「……」」
名探偵どころか警察もいらない推理だった。
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