第2話 メインヒロインは初登場が一番可愛い 2
こうして雨宮蒼君と雷木刹菜さんは出会う事になりました。恋の始まりが一目惚れなんて甘酸っぱいですね、本当。
さて、そうした物語の始まり、つまり過去編の序盤で何で口を挟んでいるのか?
いやいやいや。ちょっとした小話です。
この二人の出会いが今の現状を生んだ始まりでもあるのだから。
ん? さっさと読ませろ?
はいはい。全然言えてないですけど、小言はここまで。
再び回想へ舞い戻りますか。
× × ×
「それじゃあ今日は各グループで簡単な話し合いをして、後は自由解散で。以上」
実行委員長こと皆川がそう言って、一度会議を打ち切った。
俺が所属するのは余りに余った記録、撮影係。要は会議の議事録や文化祭関連の書類製作、また開催時は各クラスや文化部の出し物の撮影等々やる事は盛りだくさんなのだが、唯一人とのコミニュケーションがそこまで取る必要性がないと考えたのが一つ。
もう一つは極めて思春期男子らしい理由だ。
「じゃあ自己紹介しとこうか。三年の~」
ある人がここにいるから。
「二年の雷木刹菜です」
ただその声色と口を動かす表情をじっと見つめていた。見惚れていたと言う表現の方が的確かもしれない。
きっとその頃はそこまで恋する事に固執していた訳ではなかったかもしれない。入学当初程に自分の想像していた願望と現実はあまりにもかけ離れているという事を知ってしまったのだから。
「一年の雨宮蒼です、どうも」
「はい。じゃあさっき配られた資料に学年ごとで行う業務が書いてあるから。それを確認して、次回からよろしく。以上」
仕切っていた三年生はそう言って、記録、撮影はどこよりも早く解散となった。
刹菜さんも鞄を手に取り、教室を後にしていく。周囲のグループは委員同士が携帯を手にし、連絡先を交換しているようだった。確かに他のとこはうちと違い、そこそこの協力関係があってこそ遂行出来そうなものばかりだ。文化祭終了間際ではこんな繋がりに感謝するようなラブコメが待っているかもしれない。
でも望まなかったのは俺だ。嫌気が指した訳でもなく、面倒くさいから。
もう彼女や友達を求めようと思わなくなったから。選ばれたから仕方なくやっている。
教室を後にし、そのまま駐輪場へと向かった。
今日はせっかくなので少し同人誌でも漁りに駅前にでも出るかと頭の中でこの後のルートを必死に模索していた時だった。
「どうして~私にはあなたがいないのですか~」
唐突に聞こえた声。でもついさっきまでこの声は聴いていた。
方向は自身の目の前なので顔を上げればいいだけ。
そしてそこには自転車の荷台に腰を下ろし、歌っているあの人の姿がいる。
「……ふぅ」
声をかけるべきか?
いや学年も違う知り合いでもない男が近づいた所でただの根暗と扱われ、無視されるのがオチだ。
俺はそのまま黙って自分の自転車の元へと足を進めようとした。
「ねぇ」
「はひぃ!?」
我ながら驚く声がテンプレみたいなのだがそれはさておき。
「ぼ、僕ですか?」
「君以外ここに誰かいるの? 幽霊? 宇宙人?」
「いやそういうSF的なものは」
「反応が微妙だけど……いっか」
「はい?」
いきなり謎の空気に持ち込まれ、困惑しない人はいない。何だろう、宗教の勧誘だろうか。
「雨宮蒼君、で合ってる?」
「は、はい」
「私の紹介はいる?」
首を横に振って回答した。すると彼女は笑みを浮かべ、再度口を開いた。
「じゃあ本題。雨宮君、これ知ってる?」
そう言って、彼女は自分の携帯をこちらに向けてきた。
そこに映っていたのは見覚えあるイラスト。最近見たような……。
「あ」
「そ。君、この子好きなんだよね?」
「……ナンノコトデスカ?」
「誤魔化しは効かないよー。ふーん、ツンデレ系でポニーテールの先輩かぁ。ちなみに私はツンデレじゃないけどポニテにはしてみたよ」
と、見せつけるように髪型をアピールしてくる。さっきの打ち合わせでは下ろしていただけなのにこの短時間でセットしたのか。この為だけに。
いや本当にこの為だけにセットしたなら、何が狙いなんですかね。
少しだけ顔を強張らせ、恐る恐る聞いてみた。
「あ、あの……お金なら持ってませんよ?」
「いやいやカツアゲする先輩に見える? これでも新学期に入ってから、そこそこ後輩からは慕われてるつもりだったんだけどなぁ。てか初めて言われた」
「す、すいません」
「いやいやそんなにかしこまらなくていいから。あーこういうの難し」
こっちこそ難しいと文句を言いたいがここは我慢時だろう。
「とりあえず雨宮君。君ってこの子が出てるアニメ知ってるんだよね?」
「そのイラストのやつですか? まあ一応」
「やっぱり? いやーさっきの打ち合わせの間にちょーこっと携帯弄ってる所見たら、同じイラストあったから興味あるのかなーって」
どうやらホーム画面の壁紙だけでなく、画像フォルダも学校内ではご法度のようだ。
しかしながらいつ見たんだろ、この人。
そんな考えをしてる中、刹菜さんはここでようやく本題に踏み入るようで先ほどよりも少しだけ含んだ笑みを浮かべ、話を切り出した。
「で、雨宮君。相談あるんだけど」
「相談?」
「うん。実はさ、私をこの子にしてくれないかな?」
「へ?」
「私をこのイラストの子にしてほしいの」
メインヒロインとの出会いは衝撃的と聞くが少なくともこの雨宮蒼の人生の中では過去最高とも言っていいくらい、青天の霹靂な出来事だった。
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