第4章 ミスマッチとスイーツマッチ

第1話 メインヒロインは初登場が一番可愛い



「は?」


 昼休み後のHR。

 教室に戻った俺が開口一番にそんな疑問詞を零していた。


「という訳で厳選なるくじ引きの結果、女子は速水さんで男子は雨宮君に決定という事で」


 クラス委員長がそう言うと、教室中から拍手が沸き起こる。

 ぽかーんとしている俺に対し、女子の方は「面倒だけど仕方ないねー」と周囲の友人に愚痴っている様子。

 いやいやいや、そちらはそうでも、こちらは納得いかない。確かに昼休み後のHRで文化祭実行委員を決めるという話をするのは入学してから友達が一人もいない俺でも知っている。

 だからといって勝手に実行委員に決められるのは横暴過ぎる。


「あ、あの……何故抽選になったのかを……」

「ん? ああ、立候補も推薦もいないから、文句なしの抽選って事になったんだ」


 文句大有りだ! そう叫びたいのを堪え、「そうなんだ」と苦笑いで返した。

 クラスの話題はもう数週間後にある体育祭に切り替わってる。自分に関係ないと分かれば、こんなもんだろう。


 入学式からかれこれ二か月。

 小学四年生に初めて見た深夜アニメを機にヲタクの道へと落ちていた俺は高校では新しくデビューしようと気持ちを切り替えていた。

 中学の時は結局ぼっちのヲタクを極め続け、三年間を過ごしてしまった。部活? 知らない子ですねぇ……。さらに言えば、厨二病真っ盛りだったので色々痛い事もした。話しかけてきた女の子にアニメのキャラの台詞を言ったり、帰り道に遭遇した喧嘩にちょっかいを出したりとそれはもう痛過ぎて、出血多量で死亡レベル。

 ならば高校では友人なんてちょちょいのちょい。一年生で彼女作って、二年生で喧嘩して、その間に別の子と仲良くなるもやっぱりより戻す事になって、三年生で涙流しながら進路について語る。そんなリア充展開を広げるつもりでいた。その為にスマホの壁紙から制服の着崩し方まで学び、実行に移した結果。


 はい、彼女はおろか友達もいませんね。


 いじられキャラやキョロ充扱いにすらならない影の薄さ。いや流石にそれはモテなさそうだから嫌だけどね。でもここまで空気になるとは思わず、今もせっかくの昼休みなのに屋上でのんびりお昼寝。


「それにしても実行委員かぁ……」


 見方によってはいい方にも出来るし、悪い方では今後のクラスの立ち位置を左右する役目。

 一年生で高校一年の流れを把握する中で文化祭程の重大なイベントに失敗は許されない。気が重くなるがこの空気でやれませんなんて言う事の方が気が引けるもんだ。


 文化祭は九月。もう少しのんびりさせてほしいもんだ。



 × × ×  



「じゃあ全員揃ったので第一回文化祭実行委員会議を始めます。まだ委員長が決まっていないので代理として生徒会長の一之瀬が司会進行を務めます。書記は副会長の雪村が。よろしくお願いします」


 そう言っている生徒会長の声をのんびりと聞いていた。

 今日決めるのは実行委員長、副実行委員長、各委員役職決め。この三点なのだがぶっちゃけどうでもいい。あ、ちなみに一人になった。女子の速水は「急用出来たからごめんねー。あとで内容だけ教えてー」と連絡先すら交換されないまま、教室を後にしていった。きっと大事な事なんだろう。決してその後に「速水さん、今日彼氏とランド行くらしいよ」と会話していたのは全く関係ないはずだ。


「それじゃあ実行委員長は……うん、立候補一人だけだね。じゃあ皆川君、前へ」

「はい。あ、それとまだちょっと早いんですけど、副委員長の推薦もしていいですか? 一緒にやろうって決めてる奴いるんで」

「あ、ああ。別にいいよ」


 そう答えると、皆川という男子と隣に座っていた女子が教卓の前へと移動する。同じクラスメイト同士で仲良く楽しい文化祭ですか、はぁぁぁぁぁぁ……。

 と、大きくではないがため息を吐いた。


「二年五組の皆川良太郎です。上手くやれるかはともかくやる気だけはあるんでよろしく。ほい次」

「同じく二年五組の浅間結衣です。特にやる気がある訳ではないですけど、皆川がやるならまあ付き合ってもいいかなってくらいに思ってます」


 教室中が笑いに包まれるのをつまらなそうに見ているのは俺だけだろう。

 はいはい、面白い面白い。青春、青春。

 そう思いながら、教卓以外に目を向けようとすると一人の女子に視線が向いた。

 格段に可愛いなんて表現は弱い。俺が表現するとしたらこうか。


 同じ人間とは思えない美貌、そして何も言葉にしないのに見ているだけで取り込まれそうな雰囲気。


「そんじゃこっからは俺の司会で。今から紙を配るから、さっき説明してくれた仕事の中それぞれ希望するものを書いてくれ。五分後に回収する」


 少なくとも俺がその用紙を白紙のまま出したのはその子のせいに違いなかった。



 

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