第13話 ヒロインが二人以上の場合は危険信号 13
スイーツ&スパイスは一番最後に行われるので、それまでは個人競技の観察タイムだ。既にシューティングブレイクがスタートし、参加者一同苦戦している様子でこれは観客から見ても、中々白熱したものとなっているだろう。
「……サナさんがいるのか」
「サナさん?」
「前に話さなかったか。会長の彼女」
「あーどこかで聞いたような聞かなかったような」
むしろ刹菜さんと対比するくらいこの学校では有名人だ。神様でも顔だけでも知っているかと思ったがまあいい。それにあれだけの美人だ。遠目からでもはっきりと認識出来るし、何より動きに無駄が無い。まだ数発しか撃ってないが全て命中。
元々の実力か。はたまた予め事前にポイントを知らされていたのか。これでは追求しようがないし、そもそも会長の彼女だ。頭脳も運動能力もそこそこなはず。
「あ、試合終了みたいですね」
「そうだな……サナさんの圧勝だ」
「なんか二位の人が微妙な顔してます」
「ここまで圧倒的な差をつけられて、その後に告白なんて受ける側としては印象はあまり良くないだろ」
同情するレベルだが、次の試合へと目をやる。
『それではマイギャンブル、スタートです!』
掛け声と共に参加者達が競技場へと散らばっていく。探す方法は目で見つけるしかないがこいつが一番勝ち目がありそうだ。
今回は……やはり見間違いではない。北条がいる。そして会長も。
「……何でだろ」
「ん? どうした?」
「いやこの中で知っているの会長さんだけなんですけど、全然動かないんです。むしろ見つけても、譲ろうとしてるっていうか」
俺も会長のほうに目をやると確かにほとんど動かず、参加者をただただじっと見つめているだけ。いくら最低一回は回せるとはいえ、確率論から言うならばかなり低くなるというのに……
「蒼君。そろそろ集合だよ」
「わかった」
有菜に呼ばれ、いよいよ入場ゲートへと向かう。マイギャンブルは終了のホイッスルが鳴り、これからルーレットタイムだ。
「それにしてもまさか一番運動能力を問われる競技を選んでしまうとは……蒼君はその辺」
「期待すんなって言っただろ。あいにくと俺も自信はない」
「ですよねぇ……とにかく二位に入ればOKなので、期待するしかだね!」
隣で気合十分な有菜に対して、俺は小さくため息を吐いた。
同時にマイギャンブルの結果が出た。これに関してはルーレット内にある告白タイムという枠に入れば、それで権利をもらえるのだが予想外の結末が競技場のボードに表示されている。
『権利獲得 雪村真一 以上』
× × ×
「ありえない……こんなの」
結果を見た私はきっと歯軋りしてたと思う。
会長もサナさんも権利獲得してしまった。しかもマイギャンブルで一人しか出ないなんてありえない。設定上あれは必ず二人当たるようになってる。きちんとそれを準備の段階で説明された……そう、あの三人に。
運営本部でこのままじっとしているのは我慢出来ず、ひとまず一華の元へ向かった。三戦目ならば一番勝ち目があるはずだ。
「一華」
「……勝ったね、会長達」
「うん」
「私さ、運命の告白での不正の噂を生徒会か今年の実行委員のどっちかに相談するか悩んで、最終的に生徒会の方を選んだよね」
私は何も返せない。
その期待を裏切ったのだから。屋上であれほど口論して、説得しようとして、きっと不正なんてするはずがない。そんな風にどこかで思ってしまったからこの結果を生んでしまった。
もしここに雨宮がいれば、準備の段階から口出ししただろう。でも私はしなかった。疑いが無かった訳じゃない。疑うのが嫌だったのだ。
尊敬する人達が犯人であると思いたくなかった。
「でもよかったよ。侑奈さんいるからね」
「ありがと」
「ま、本当に偶然かもしれないしね」
「……そう思ってないくせに」
「まあそれはね。でも勝つよ。もういないしね」
そうだ。忍者大作戦にはいない。紀和場は参加しないし、知り合いもいない。
これは完全なフェアな勝負。
「あ、そろそろかな。じゃあね、侑奈」
「……やっと呼び捨てで呼んでくれた」
「前々から呼びたかったよ。えへへ」
笑みを浮かべた一華を見送り、私は本部に戻った。
特設ステージと言っても、大玉転がしの玉や跳び箱を最上段まで上げたりして物をいくつか設置しただけ。しかし視力が物を言う戦いだ。
『では一回目、お願いします!』
そのアナウンスが終わり、一瞬だけ飛び出した実行委員が再び隠れようとした時だった。
一番右端―――一華が書き終えており、近くの実行委員に確認を取っている。
『では続けて二回目』
もうここから先は心配はいらないだろう。
私は次の競技の準備をする事にした。そういえば雨宮も確か出るんだっけ。サポート役で。
肝心のメインの方は私も名前は知っている。雷木有菜。刹菜先輩の妹だ。意外なペアで既にそこそこの噂が広まっている。もちろんデマばっかだが。
「……参加するなら、初めから手伝いなさいよ」
そうぼやいた時、いつの間にか三回目が終わっていたようで右端の女の子がはしゃいでいるのが見えた。
これが正しい形なのだ。だから最後も……必ず。
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