第12話 ヒロインが二人以上の場合は危険信号 12




「あのツッコミ具合は中々腹に来ましたよ」

「うるさい」


 午前の競技を終えて、お昼休憩中の俺は神様と合流し、競技場の観客席の端にいた。午後からの競技はデスティニーボイスの手伝いのみなので、ここらでどこかバレなさそうな場所に隠れようと思ったのだが唯一立ち入れそうなポイントは既に先約がおり、やむなくここに来たのだった。


「そういえば神様の知り合いは誰か出ないのか? デスティニーボイスに」

「んー、今の所は……というか興味があんまり沸かないっていうか」

「そうなのか。逆に興味を持ちそうだなと思ったんだが」

「だって誰が誰に好意を持ってるなんて、見えちゃいますもん」

「……力を使って、か?」


 今更ながらだが神様の力ってのはまだまだ未解明だ。蒼が知っているのは過去をなかったことにしたり、相手の情報を全て読み取ったり。もちろんどちらとも対象が蒼なので本人曰くそれ以外に力を使った事はないという。


「まさか。わかるんですよ、神様の感覚っていうか。人間よりも鋭いせいか、見えてしまうといいますか。まあ限界はありますけどね」

「相変わらずステータスの振り方がチートだよな」

「そりゃあ神様ですからっ」


 自慢も適当にスルーし、携帯を取り出す。

 有菜にメッセを送ると、すぐに『これからそっち向かいます』と返ってきて、待つ事数分で有菜が向かってくるのが見えた。


「やっほー、蒼君。おつかー」

「お疲れさん。で、さっそくなんだが俺はどうすればいい? デスティニーボイスは午後一だろ?」

「はい! が!」

「が?」

「基本的に何をどうお手伝いすればいいのかは私にはまだ何も聞かされてないので……」


 本番直前まで何も知らされていないのか。

 対策とはいえ、情報漏洩がここまできちんとされていると不正の疑いなんてかける要素もないだろう。


「じゃあ俺はどうすればいいんだ?」

「んー、ひとまず正面玄関に集まって」


 と言いかけた所でアナウンスが入った。


『お昼休み中失礼します。実行委員からデスティニーボイスに参加される選手に連絡です。ただいまより競技説明を行いますので運営本部に集合してください』


 声が途切れると、競技場の至る所からざわつく声が聞こえてくる。いよいよ目玉イベントの登場だ。今日一番の盛り上がりにもなるだろう。


「とりあえず……行きますか」

「ああ……で」


 蒼は隣にいる神様を見た。こちらをじっと見ながら、特に何も言って来ないがこのまま放置というのも何だか後味が悪い。


「神様も……来る?」


 首を縦に振ってきた。まあこれでいいだろうと思い、向かおうとすると今度は有菜から視線が突き刺さってるのを感じる。


「何だ?」

「いや。まさか本当に神様ちゃんと知り合いとは」

「……ちなみに神様はこいつの事知ってるか?」

「いえ。あ! でも見覚えはありますよ」

「そう? ありがと。一応隣のクラスだからどこかですれ違ったかもね。雷木有菜、よろしく」

「花珂佳美です。あ、神様でいいですよ」

「そう? でも神様呼びじゃなきゃ駄目なんだ」

「そこはまあ……譲れないといいますか」


 自己紹介も無事に終わったようなので蒼達はそのまま運営本部へと向かって行く。近づくにつれ、どんどんと人が集まっているのが見え、そこそこの参加者のようだ。


「そういえばうちのクラスの飯沼が神様に告ったらしいんだけど」

「ああ、彼ですか。そういえば返事するの忘れてました」

「その反応ってことはまあそういう事だよね」

「そりゃあ一応……私にはいますからね」

「あー、なるほどなるほど。こりゃあお姉ちゃんも簡単にはいかないなぁ」


 楽しそうに会話してるのでどうやらコミュニケーションバッチリ。これで男女ペアじゃなければ、俺はお役御免なのだがそうもいかない現実。少しがっかりしながらも運営本部へとたどり着いた。


「雨宮」

「お疲れ。説明は五日市がやるのか?」

「いや。実行委員長が教えてくれるよ。私は手伝いの一人。んで」


 その先の言葉が何を言おうとしてるかはわかった。見た所、参加者はかなりいるがその中に会長とその彼女、サナさんの姿が見えた。注意すべきはこの二人。もし有利に進んでるようならば、心が痛むが疑いの目を向けなければならない。ついでに北条と瀬尾川もいたような気もしたが気のせいだろう。

 と、ほぼ集まったのか、揃った参加者の前に一人の生徒が出てきた。あれが実行委員長だろう。


「実行委員長の紀和場だ。さっそくだが新競技デスティニーボイスについての説明をする。まず事前に伝えた通り、今回は一人で参加する競技と二人一組の競技がある。なので俺から見て、一人で参加の競技は左側に。二人一組参加の競技は右側に。それぞれ自分が参加する方に分かれてくれ。また偏った場合は抽選になる可能性もある。そこは了承してくれ」


 言い終えると、さっそく参加者達が移動し始めた。

 俺も有菜に連れられ、右側へと移動する。ちなみに神様は参加しないので五日市の隣で様子を眺めている。二人っきりにさせるのは少々心配なところもあったが今は構っている訳にはいかない。


「よし。どうやら特に偏ってはいないようだな。ではさっそくだが説明する。まず一人参加の競技は全部で三種類。現在二十七名いるようなので九人ずつに分かれてもらう。尚、競技には運動能力の他に知識、そして運が必要となってくるので自信のない奴も安心して欲しい」


 その言葉にあちらこちらから笑い声が聞こえてくる。しかしまだまだこちらとしては落ち着く訳にはいかない。


「まずシューティングブレイク。これはそれぞれ設置されたパネルに張ってある紙にこの水鉄砲で撃ち抜く競技だ。水はそれぞれ特殊彩色しているので誰が濡らしたかはすぐに分かるようになっている。もちろんただ見つけて、撃てばいいというものではない。的から三メートル以内には近づいてはいけないし、紙の中にある円の中を撃ち抜かなければ、得点にはならないので注意してくれ。

 二つ目はマイギャンブル。これは競技場にあらかじめコインを複数枚隠してある。このコインを使って、ルーレットを回してもらう。一応保険として、コインが取れなくても、最低一回は出来るようになっている。しかしコインを見つけた方がチャンスはより多くなるので頑張って欲しい。

 三つ目は忍者大作戦。これに関しては運動能力は皆無だ。競技場に特設のステージを用意する。そこで実行委員がそれぞれ忍者のように一瞬だけ参加者の前に姿を現す。その際に彼等の胸のワッペンに書かれている漢字を手元のボードで記入する。これは三回以上書き、正解した時点でその参加者の勝利となる勝ち抜け方式だ。

 以上が個人競技についての説明だ」


 説明を聞いた参加者に目をやると、喜ぶ者もいれば、首を傾げる者、がっかりする者等様々だ。しかしこれなら公平になっている。考えたものだ。


「そして二人一組の競技についてだ。競技名はスイート&スパイス。これは二人三脚をイメージしてもらうと助かるのだが、走ってる最中にあるお題が出る。まあそれが甘かったり、辛辣なものだったりと色々あるので頑張って欲しい」


 あっさりと説明されたがこれ午前中にやった障害物競走とほぼ同じではないだろうか。

 要はあれよりも内容が濃くなったと考えればいいだけ。


「さて。それじゃあ勝ちましょうか、蒼君」

「せいぜい足を引っ張らないように気をつけますよ」


 午後一時。

 いよいよ本番の開幕である。




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