第10話 ヒロインが二人以上の場合は危険信号 10



 体育祭まであと二日


 学内掲示板のカウントダウンポスターも今日と明日でお役御免。

 既に学校では体育祭ムード一色で、クラスでも今年は勝ちたいだの打ち上げはどこにするだので盛り上がってるご様子。もちろんやっぱり俺には関係のない事だ。

 今日の授業も終わり、神様の護衛もなし。何でもクラスの体育祭実行委員の子が風邪で休んでおり、代わりに会場の設営準備に出ているのだとか。

 なのでそのまま真っ直ぐ帰る予定なのだが、結果としてクロスバイクの行き先はそこそこ見慣れてきた『RABAS』だった。


 無論、原因はまたもや女絡みである。


「顔合わせるなり、そんなげんなりした顔ってどういう事です?」

「昼休み後が辛かったんだよ。早く終わらせるぞ」

「せっかく可愛い可愛い女子高生と放課後デート出来るんですから、もうちょい喜んでもいいと思うんです」


 全くもって羨ましくない。今年度に入ってから、少なくとも女子高生だけに限定にするならば、結構な数とデートしているし。

 そして彼女達の共通点は問題を抱えているという事。つまり俺にとって、女子高生とは悩みの種でしかないのだ。

 という訳で雷木有菜を前にしても、そういう表情に自然となってしまう。


「で、具体的な打ち合わせって何すんだ?」

「はい。こないだ話した体育祭の件なんですけど」

「あー、何だっけ。デスティニードロー?」

「デスティニーボイスです。何を引くんですか?」


 ついデスティニーと聞くと、そんな単語が浮かんでしまう。よく小学校の頃はアニメの真似をして、叫びながらカードをドローしたものだ。もちろん全く使えない雑魚ばかり引いてたが。


「そうそう、それそれ。てか少しだけ小耳に挟んだんだが、当日まで競技の内容は不明なんじゃないのか?」

「らしいですね。だから蒼君にもどんな形で手伝ってもらおうか考えてたんだけど、実は今日になって、実行委員から通達がありました」

「ほう」

「何でも今回は四種類の競技に分けられ、それぞれの上位二名が権利を貰えるとの事です。ただその競技の内、一種類だけ二人一組での参加形式のものがあるらしいです。なので先輩には私のペアとして」

「今度そこそこの物を奢るので勘弁してくれないか」


 有菜とペアとか注目を浴びない訳がない。よって叩かれる未来も完成。最悪暴動が起きるという大袈裟な想像も出来てしまう。


「だーめっ! はい、という訳でよろしくお願いしますね。蒼君、そんなに競技には出ないだろうし」

「何で知ってんだよ……」

「図星だったんだ……」


 あてずっぽうでも何でもいいが駄目元は通じないか。

 しかしこれでは上位二組を目指す以上、目立たないなんて事はまずありえないだろう。こないだの北条との一件である程度は俺がどういう人物なのかは広まっているはずだ。それなのに調子に乗って、いけしゃあしゃあとするのは場違い過ぎる。


「……ちなみにクラスの女の子とか俺の知り合いの後輩とか」

「男女ペアが絶対条件だそうですよ」


 クレームを自ら引き寄せているのか……。

 思わず頭を抱えた。


「てか蒼君に頼める後輩なんているの?」

「一応な……」

「え、誰、誰? 有菜の知ってる人?」

「花珂ってやついるだろ」

「あー、神様ちゃんか」

「神様って呼ばれてるのか」

「だってなんか神々しいっていうか、崇めたくなるっていうか。とにかく普通の可愛い子とは違うオーラを放ってるというか」


 まさしくその通りだろう。そこまで気付ける有菜に感心した。これで本物の神様の一部までたどり着けば、探偵の素質がある。


「という訳で今日は決起集会といきますか。すいませーん、このパンケーキセットを二つで」

「おい、俺食べないぞ」

「え? 蒼君の奢りなのに?」

「は?」

「え?」


 もはやこの店で女の子に奢るのはお約束で、絶対にこの流れを作ってはいけないと心から誓った。



 × × ×



 本番までもう少し。

 会場となる競技場で、生徒会組は運営本部のテントの設立を終えて、各競技部の連絡待ちをしていた。最も生徒会長とサナさん、そして実行委員長の紀和場……さんは三人で打ち合わせ中だ。

 正直この紀和場さんには困惑している。事あるごとに呼び出したり、メッセが来たりして、体育祭についての相談という建前の上で食事に誘われたり、遊びにも誘われたりとちょっと迷惑だ。


 雨宮みたいにバッサリ言えたり、出来たりしたらなぁとこういう時だけは思えるんだよね。


「五日市さん。これ終わったから」

「あ、お疲れ様」


 声をかけてきたのは魔棟咲音まとうさきね君。同じ二年生で生徒会会計。サナさんから『魔王』というあだ名をつけられてから、学校ではそのあだ名が浸透して、本人曰くちょっと恥ずかしいらしい。

 まあ前髪でよく顔見えないし、あんまり人と接するの得意じゃなさそうだから、名前と相まって怖いというイメージがついてるのかもしれないけど。


「魔棟君はクラスの方は何出るの?」

「個人で五十メートル競走。団体で綱引きと騎馬戦……」

「そっか。てっきり本部から離れないのかと」

「一応団体は仮病言い訳に休みます。あとさっき会場を回って、隠れてゲーム出来そうなポイント見つけましたから」

「……まあほどほどに」


 意外としゃべる子なんだけどなぁ。

 そう話している内にインカムから続々と作業終了の報告が上がってくる。

 あとは二、三か所で終了だ。


「五日市、もう終わりそうか?」

「そうですね。会長達は打ち合わせ終わりですか?」

「ああ、これからサナと紀和場でデスティニーボイスの下準備をして、終わりだ」

「……それ、私も同行しても構わないですか?」

「いいとも」


 簡単にしっぽは出ない。分かってる。こないだの屋上だって、私が根気負けして、逃げ出したんだから。

 でも一華の為にもそういう事があるのは嫌だ。偽善とか正義感とかじゃない。


 と同じだから。


 不安が、空気が。そしてそれを企てる人の目が。そっくりなんだ。あの時と同じで。

 私は後から知った身だ。でも首謀者を知っている。

 だからこそ私は生徒会で会長達に出会い、そして二度とあんな事件を起こさないようにしようと思ったんだ。


 これも同じ。相手が尊敬する先輩だとしても、この場で不正を止められるのは私しかいない。


 そう思いながら、会長達の後についていった。




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