第2章 集団を団結させる方法
第1話 どちらかといえばクワガタ派
一か月、それは俺と彼女が初めて顔を合わせてからの日数である。
「……というのが今週の報告だ」
「いやそれって何もわからなかったって事ですよね?」
さっそく神様は反論してきた。流石に誤魔化すのはもう限界か。何せ先週も先々週も同じ話な訳だし。
俺はこの神様からある依頼を頼み込まれ、毎週月曜日にこうした報告会を開いている。
その依頼というのは彼女、花珂佳美の意識を取り戻す事。
現在、彼女の代わりに神様の一部が意識として入っているので何とか彼女は生存している状態らしい。最初は全く信憑性の欠片も感じない話だったが神様の一部だけあって、色々と特別な事が出来るようで実際にその力を体験させられた。
その結果、こうして彼女による依頼を引き受ける事になった。
「で、神様の方は?」
「全然です。強いて言うなら、文化祭の実行委員に選ばれました」
「……へえ」
「反対しないんですね」
「神様のやることに口を挟む権利ないし」
ちなみに神様というのは神様の一部だからという訳ではない。
彼女のSNSで使用しているハンドルネームが『神様@アニメ、ラノベ好き』なので神様らしい。本人はとても気に入っているようだし、俺自身彼女を花珂佳美として呼ぶのにも気が引けたので採用している。まあ俺も元々は神様呼びだったし、変わらないでいるならそれが一番。
「ところで雨さんはどうです?」
「どうって?」
「実行委員ですよ。先輩はやらないんですか?」
「俺の内情をほとんど知っていて、それ進める?」
「一人じゃ寂しいんで」
へらず口を叩けるもんだと思っていた。
最初は騙されがちな神様の小悪魔笑顔も今じゃ見慣れたもの。つまり慣れてきたという訳であり、その間依頼についての情報も何一つ掴めないままだった。先行きが暗く、落ち込みを隠せない。
その理由はこの依頼を達成できなければ俺の寿命が切れ、死んでしまうのだ。神の力を使える神様の言う事を冗談とは思えず、最初は焦っていた。
だがいつまでも危機感を持ち続ける事なんざ無理である。よって今の俺から微塵もこの依頼に対するやる気とやらが見当たらない。
「そういえば今日は真っ直ぐ帰るんですか?」
「ゲーセンにでも寄ろうかなと」
「私も! 私も!」
「はいはい」
食い気味に来るのですぐにOKを出すと、益々笑顔になる。ちょろい。
この神様、本当にハマってしまったんだよなぁ……。帰り道にアニ○イトで新刊を買いに出かけたり、ゲーセンで新商品でも入ってないかなーと寄ろうとすると必ずとことことついてくる。
むしろ神様だから人間の創作したものに興味があるのか? 謎は深まるばかりだ。
と、丁度話もいい感じに落ち着いたところでチャイムが鳴った。
「それじゃあまた帰りに」
「頼むから校門から少し離れたところで待っててくれ」
「何で教室に迎えに行っちゃ駄目なんです?」
「分かって言ってるよね」
そんな声が聞こえてるか分からないが神様は颯爽と自分のクラスへ戻ったので俺も教室へと足を進める。次の授業何だっけと考えながら、向かって行くとやけに騒がしい音が響いた。
「はぁ!? 悪いのは瀬尾川でしょ! 何で五月が責められなきゃいけないのよ!」
「透は責めてねえよ! 大体何でお前らがしゃしゃり出てくるんだよ!」
「あんたらだってそうでしょ!」
中に入ると随分と殺伐した空気だった。
教卓側には男子、後ろの窓側には女子が互いに睨み、今でも一触即発しそうな状況が見られた。いや先程の音はすでにした後だろうか。
「あ、戻ったんだ」
ドアの近くにいる俺を見つけた五日市さんが近づいてきた。
「これは何? 早くも文化祭の演劇の練習?」
「まだ何も決まってないわよ。その色々とね」
「色々ねぇ」
そう言うと、丁度次の教科の教員が入ってきたのでクラスメイト達はそれぞれの席へと戻って行く。しかし取り巻く空気は相変わらずのようだった。
席へ戻る時、ふと五日市さんが誰かと目を合わせているのに気付いた。視線を追うと、その先にいた男子、確か……誰だろうか。
「雨宮。今日暇?」
「今日? いやこの後神様と」
「はぁ?」
「……用件をお聞きしましょうか」
神様の話題を出すと相変わらず不機嫌になる。全くどうして相容れない仲なのか。
「今日の放課後に瀬尾川と話があるから、あんたも付き合って」
「いやそんな大事な相談に同席は」
「ふーん」
今の「ふーん」に込められた意味を理解出来ない俺ではない。遠回しだが「出なければ今後何が合っても手助けはせん」というところだろう。
未だにクラスで打ち解けた友人なるものがいない俺にとっては万が一試験範囲やグループ課題なんかで彼女の助けがなくなれば致命的である。
「喜んで」
「はい、よろしい」
満足げに口元を緩ませ、彼女は黒板へと目をやった。
教員にバレないように携帯を取り出し、『ごめん。行けなくなった』と神様にメッセを送った。もちろんこの後彼女から理由を問い詰められる文が何通も来たので電源を切った。
よっぽど楽しみだったんだろう、すまん。
× × ×
「え? 雨宮もいるの?」
「こんなんでも一応役には立つし、守秘義務は守る奴なので」
「ならいいけど……」
すでに不服そうなので早々に後にしたかったが五日市さんの視線によって留められてしまう。教室は帰りのHRも終えたので誰も残ってはいない。周囲に部活動で使用する人も見られない事から相談には丁度いい。
あ、それと思い出したのだ。先程まで五日市さんと目を合わせていた彼。
如何にも我こそはリア充、いやキョロ充のようなとりあえずクラスで大騒ぎしているところに必ずいるリア充の腰巾着、
「で、透に確認したいんだけど、本当に五月に告ったんだよね?」
「あ、ああ。振られちまったけどな」
「そっか。でも何で怒ってるの? 私あの日途中で帰ったから詳しくは分からないんだよね」
「それなんだが聞いてくれよ」
それから瀬尾川の話を一通り聞いた。
今から一週間程前のゴールデンウィークでクラス全員によるクラス会があった。もちろん俺はいない。忙しい五日市さんの為に皆が調整してくれたとの事で彼女は渋々参加したとの事。本来は前と同じく皆で楽しむだけのはずだが瀬尾川は違った。
彼は五日市さんの友人である北条五月の事が好きらしい。なので男子連中に口裏合わせて、上手く彼女と二人きりになり、その場で告白したらしい。
しかし他人の力を借りないと告白も一つ出来ない男は嫌いとばっさり切り捨てたらしい。すると聞いていた男子が文句を言い、それがクラスの女子の耳にも入る。
その結果ゴールデンウィーク明けから昼休みみたいな衝突が起きているらしい。もちろん時間帯は様々なので教室を空ける事が多い俺の耳には入って来なかった。
「いやあの子の性格考えたら分かるでしょ」
「そうだけどさぁ……ほら、チャンスだと思って」
「馬鹿でしょ。第一、同じクラスになるまで接点あったの?」
「いや、ないけど」
「二人で遊んだことは? メッセでやり取り、電話は?」
「な、ない。個人メッセ送ったこともないし、電話なんか怖くて出来ねえよ」
とんだチキン野郎だった。
女心を百%理解している訳ではないがここまでの話を聞いて、こいつに惚れる要素は何一つない。強いて言うなら【いい人】というところだろう。もちろんどうでもいい方の。
「頼む! ここは侑奈だけが頼りなんだ!」
彼は両手をパンと合わせ、頭を下げた。
「何ぼーっとしてるの? 雨宮も案出して」
……ここで振ってくるのかよ。
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