第12話 好きと嫌いは紙一重 12
「意識を取り戻す、か」
「意外でしたか?」
「いや。それが普通だろうな。で、上手く戻れたら報酬で過去を帳消。クラスメイトから歓迎され、五日市さんと恋人関係になれるハッピーエンド、か」
「ご不満ですか? 何ならこないだ読んだラノベを参考にして、ハーレムエンドにしてもいいんですよ?」
「いやそれは遠慮しておく」
一途で健気な青春ラブコメが好みだしな。
「彼女……花珂さんは君の中に今も存在するのか?」
「はい。意識の入れ替わりが成功しているならば彼女の意識は必ずどこかにあります」
「具体的な方法も手がかりもないのにその確信はあるのか。そもそも神様の力とやらで何とかならないのか」
「ならなかったからこうして頼んでるんです」
「……神様より下の存在である人間に?」
そう言うと、神様は反論せず俯いてしまった。
俺自身厳しい事を言うつもりはなかったが話を聞いている内にいくつかの予想はしていた。最も【神様の元に戻りたい】、【自分の意識を消す方法】と考えていたので正解はしてないが多少なりとも被ってはいるので当たってもいるだろう。
だからこそこの難題過ぎる依頼を受諾しかねる。砂漠でコンタクトを見つける方がまだ可能性は高い。何せ相手は非科学的現象。人間がいくら考えても理解出来ない事。不可能を可能にしろと告げられたものだ。ましてや俺は科学者でもない、ただの学生だ。
はっきり言って、やりようがない。
「一つ質問いいか?」
「どうぞ」
「どうして俺なんだ? 頼るなら生徒会長や教師の方が役に立つだろう」
「まあその通りですね」
わかってはいたが肯定されるとちょっと気にしてしまう。
神様はくすっと笑みを浮かべて答えた。
「私があなたを恋人って言った理由は覚えてますか?」
「だけど本音は違うんだろう。てか志閃に来たのも予め俺がいるのを知ってたからか」
「確かに違いますね。そして高校に関してもあなたがいたから選びました」
あっさりと神様は白状した。
「とはいえここで全てをお話するのは何だか損した気分ですね。なのでまずはYESかNOか。返事を聞いたら、次の情報をプレゼントします」
文句を言おうかとも考えたが相手はその辺の女子高生ではない。神様がいる。
自分の中で色んな思惑が葛藤していた。
―――受けるべきだ。あの世界が本当に俺が望んだものなのだから
―――嘘だ。これは何らかの幻覚で受諾してもデメリットしかない
―――じゃあこのままでいいのか? 裏切られたままで
―――それとこれとは話は別だ
―――大体解決出来る訳ないだろ! 意識を取り戻すなんて無茶だ!
―――じゃあ諦めきれるのか? あの世界を
いつの間にか脳内会議にまで発展している自分達の話し合いとなった。
さっきも考えたように無謀ともいえる挑戦だ。安易に答えられない。
それからしばらくして、ようやく結論までたどり着いた。
「……わかりました。引き受けますよ」
と、答えた途端だった。
ぐらっと視界が歪んだ。
が、一瞬ですぐに元に戻る。
「ごめんなさいね」
「……何かしたんですか?」
「ええ。少しだけ力を」
「力?」
「まあ平たく言って」
にやりと唇を歪めて、どこか勝ち誇った表情の神様は告げる。
「あなたの寿命にタイムリミットをつけたんですよ」
早くもデメリットが提示されたようだ。
× × ×
「それでさー、好美がその先輩に」
「ち、違うからっ! あれは先輩が無理矢理連れてくから、仕方なく行っただけだし!」
「そういえば昨日の試合見た?」
「あーあれな。駄目だと思ったけど、いけそうだよな」
「グループ二位かね?」
クラスメイトは今日も元気だ。
和気藹々と雑談を繰り広げる姿は昨日と何も変わらない。
「えー!? また生徒会!? マジでブラックでしょ!」
「違うって。今日はいきなり仕事来たから、皆仕方なく行くんだって」
「サボろうよー。せっかくいいパンケーキ屋見つけたのに」
北条さんも相変わらず忙しそうな五日市さんをしつこく誘っている。でも生徒会の人使いの荒さには同感だった。
やがて会話を終えた北条さんが友人達を追っかけて教室を飛び出していくと五日市さんがくるっとこちらを向いた。
「で?」
「ん?」
「何か相談でもあるんでしょ?」
「いやないけど」
「じゃあ何で一日中こっちを見てたの?」
流石に言えなかった。
朝一番で「うえぇ。また雨宮か」とため息吐かれた時はその場に崩れ落ちてからひょんな事でまた名前呼びされないかなと期待していたのだ。
こんなくだらない妄想、以前の雨宮蒼ならば脳内で欠片も浮かぶことはない。
全てはあの一日を経験させたことと、
「先輩ー、帰りましょうー」
教室の入口からわかりやすくぴょこっと顔を出した少女が一人。そう、これが原因なのだ。リボンの色が違うのですぐに周囲も一年生と把握する。
「まあその件はまた後日」
「うやむやにしたら、ただじゃおかないから」
そんな脅しも頭に残しつつ、俺は立ち上がった。
「え? 先輩って雨宮の事?」
誰かがぽつりとこぼしていたが知らん。これから帰るのだ。
昇降口へと向かっているとやはり廊下にいた生徒、いや教室に残っていた生徒も窓やドアから顔を出してこちらを見ている。
「人気者になった気分はいかがですか?」
「あいにく間に合ってる」
「それはそうですけど」
「大体どうして帰り道まで送らなきゃいけないんだ」
「生徒会長命令ですから」
と、得意気に話すが納得はしていない。
何が登下校ではなるべく一緒にいる事、だ。明らかに神様が告げ口したに違いない。
「それとも私と一緒に帰るのが嫌なんですか? この志閃美少女ランキング一年で一位に輝いた私と」
「何その頭悪そうなランキング」
「隣の席の男子の携帯に載っていたので。SNSで募集していたらしいですよ」
どうせ呟きアプリとかの投票機能で集めたんだろう。ちょっと二年生のランキング結果気になるので後で見てみよう。隣人も恐らくランクインされてるので煽ったら面白……いや今さっきあんな事を言われたんだ。命が惜しい。
そうして昇降口を出て、駐輪場からクロスバイクを取りに行くと校門前で待っている神様が誰かと話していた。
「あ、雨さん。遅いですよー」
「……帰っていい?」
「駄目です」
「だってお友達と仲良く話しているご様子じゃん」
「いや話していただけですよ、ねぇ?」
そう目の前に一年生に問うと、向こうも肯定した。つかもう友達がいるのか、こいつは。
「じゃあ今度行こうね。手芸部の見学」
「分かったー。日程はあとで送ってー」
と、先に校門から離れていく彼女達を見送り、こちらも再び歩き出した。
「さっき言われましたよ。雨さんの事、彼氏だって」
「まだ毒されてない子なんだろう」
「一年の間ではまだ一部の生徒しか知りませんから」
むしろ入学式からほとんど日は経っていないのにもうそこそこは広まっているのか。大方部活見学で先輩から聞いたんだろう。一か月後にはあの子達からも怯えた目で見られるかもしれない。
「でも私の恋人ってイメージつけば、そんな噂話なんて誰も信用しませんよ。あいにく一年生は聞くことは出来ても、見てはいませんから」
「神様の恋人とか恐れ多い。俺まで空高く連れてかれそうだ」
「心配しなくても、一年もしたらいけますよ」
神様は迷いもなくきっぱりと断言した。
今の俺の寿命は一年後。正確にいえば、三月の終わりまでに花珂佳美の意識をどうにかして、取り戻さなければそこで生涯を終える。
勿論、そんな話聞いてはいないので神様に追及したが答えてはくれなかった。
そうして翌日になった今日。登校しようと玄関を開けると神様が家の前に立っており、再度事情聴取したが回答は得られず。
結果、生徒会長命令による神様の護衛がこうしてスタートしたのだった。
「にしてもさっきの話し方なんだよ。オフ会と比べて成長し過ぎだろ」
「ああ、あれですか。色々と試してるんですよ。この人にはこの口調で。あの人にはこんな態度すればこういう印象を与えられるかな、とか」
「つまり演技だった、と?」
「じゃなきゃあんな連中相手じゃありません」
俺の一世一代の大演技は全くの無駄だと思うと、いたたまれない気持ちになっていた。そのせいでしばらくはリズ達からからかいのネタにされているというのに。
「そういう訳でしばらくは色々と演技しますのでしっかりと守ってくださいね。ガーディアンとして」
「その呼び方辞めろ」
「意味は変わりませんから。それに私の恋人なんですし」
今でも思い出す。
あの日彼女が教えた一つ目の情報を。
―――私と彼女の監視対象だったからですよ
大方、こいつの意識が変わる前から俺を見ていたのだろう。
しかし……本当にとんでもないもんを押し付けられたもんだ。
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