第2話 どちらかといえばクワガタ派 2
「そもそも北条さんはどう思ってんの?」
「んー、あんまり五月って男子の話しないからなー。人の恋バナには興味持つけど、自分の事はだんまりって感じ」
視線を上に挙げ、人差し指を顎に当てながら五日市さんは答えた。
セキリュティが固いという事だろうか。他人の情報を取り、自身はあくまで保守に徹す。いやちょっと違うか。
「もう一回デート誘うとかどう? やっぱクラス会だとみんないたから北条さんも警戒してたっつーか」
「いやどう考えても逆効果だし、大体デートまで成立するの? それ」
正論をずばすばと刺していく彼女だが全く気付いていない瀬尾川はもっとすげえ。お前の頭はどうなってるんだ? 某チェーン店のハッピーセットかよ。
「というか先にクラスの仲を戻さないとまずいでしょ。こんな冷戦状態で二人が付き合ったら、間違いなく矛先はあんた達に行くわよ」
「そ、そうか?」
「当たり前でしょ」
ちょっと頭を捻れば分かるものの、どうやら彼にとっては数Ⅱや数Ⅲレベルの問題だったようだ。
正直俺はもう飽きていた。先程から案を出せと言われても特に思い付く訳でもなく、二人だけで話を進めている。これならば離席しても問題ないだろう。つか帰らせて。今日は声優のラジオがあるし。
「雨宮」
「ん?」
「あんたからは?」
「特に何も。二人だけの問題だしなぁ」
と、適当に答えると瀬尾川がにやっと笑う。
「侑奈、こいつに聞いたところで無駄だろ。なんたって裏切り者だ。変な案しか出してこねえよ」
「……ずいぶん上からな言い方ね」
「事実だろ」
へらへらしている瀬尾川にどうしてか五日市さんは目に角を立てているようだった。いや本当に何で? 能天気なこいつは察してないようだけど凄い怖いんだけど。
するとこちらにゆっくりと視線を向けてくる。人が怒りを露わにしてる時って怒鳴ったりするよりも静かに表情で現しているのが一番怖い。
「で、案は?」
「え、えーと……一度話を整理すると、要するに瀬尾川と北条さんの仲はそれとなく戻せばいいんだろ。で、クラスの仲は前と同じようにする」
「そ」
「ちなみに瀬尾川から折れて、向こうに謝罪する気は」
「そんな事したらマイナスアピールだろ? 馬鹿かよ、お前」
そっくりそのまま言い返したい。
はっきり言えば、どこかで落としどころを見つけなければ泥沼化していく戦況を終戦させる事は出来ない。女子としては自身の力で告白もせず、その上男子全員の晒され者にさせた瀬尾川を許せない、だから謝れという主張。
一方、男子は北条さんの「他人の力も借りないと告白も出来ない」という言葉に怒りを感じ、北条さんこそ瀬尾川に謝罪すべきだという主張。
世間的にいえば、男子の方がやや言いがかりのように聞こえなくもないがそこは男のプライドってやつが邪魔してるのだろう。
「もう一回聞いてみるくらいしか思い浮かばねぇな」
「でもあの子は私達には話さないでしょ。色々探られるの嫌うだろうし……あ」
何かを思いついたのか、目を見開いた五日市さんと視線が合ってしまった。
「断る」
「何も言ってないんじゃん」
「俺から北条さんに聞けって言うんだろ。そんなの十万払っても断られるだろ」
クラス中からの嫌われ者である以上、好き好んで俺と話してくれそうな奴らなんざいるはずもない。もっと言うなら、クラスどころか全校生徒を対象にしても、生徒会長、その彼女のサナさん。一年の神様、そして五日市さん。
あとは……
「五月、案外雨宮の事気になってるみたいだから大丈夫でしょ」
「それはどういう意味で」
「さあ?」
もったいぶる五日市さんにため息を吐く。
「あんたクラスのグループに入ってないでしょ? あたしから五月にアカウント教えとくからさ」
「こっちからはしないからな」
「来たらしてくれるんだ」
上手い事話を進められるこの性格だからこそ五日市さんは俺と上手く付き合っていけるかもしれない。無論あくまでクラスメイトという枠でだが。
結局この日はこれ以上の案は浮かばず、ここでお開きとなった。
× × ×
「……かったるい」
ぽつりとひとり言を零していた。自室のベッドの上で既に二時間程こうしてメッセが来るのを待っているのだ。しかし今更素直に教えてくれるものだろうか。北条五月が今回の件を話そうとするなら既に五日市さんに話しているはず。となれば口にしようとしない時点で大事にしたくないのでは?
そうしてる内に手元の携帯が鳴った。見れば、SNSのメッセが届いており、差出人の所には『HOJOSATSUKI』と映っている。本当に来たのか。
『雨宮君やっほーい。侑奈から私とあっつい会話がしたいって聞いたのでメッセ送ったよー!』
メッセだろうと相変わらず騒がしい。適当に返信していく。
『いやこっちこそすまん。わざわざ連絡してもらって』
『そりゃあ雨宮君の他ならでもない頼みだから。いつもはなーんか近づくなオーラ出してるから触れないようにしてるけど、本当は話したかったし』
そんなの出してるつもりは全くないのだが今は放置していく。
『それでさっそくなんだけど、瀬尾川との件なんだが』
『ほいほい。何が聞きたいのかな?』
『いや今回の件は北条さんはどう思ってるのかなって』
『話に聞いてる通りだよ^^ いやいくら能天気で騒いでばっかの馬鹿な私でもそりゃあ自分で告白もしてこないようなやつはねw」
ご最もな意見なのだがそれよりも個人的にはヲタクが使うようなネットスラングを北条さんが使用している事に驚いていた。最近は『草生えるwww』といった用語を平気でリア充が使うらしいとネットニュースで見たが事実だったようで。
ヲタクも馬鹿にされない時代になってきたものかね……まぁ面白そうだから使ってるだけか。
『それにはまあ同感』
『でしょ? 雨宮君も侑奈に告る時は気を付けなよw あの子の事そういう所厳しいから』
『告る機会なんてないから安心してくれ』
『そう? 侑奈に彼氏出来るとしたら雨宮君かなーって思ったけど』
『何故だ?』
『だってあの子が素で話すの雨宮君だけだよ。聞こえてないと思ってるけど結構後ろの席の子達なんかは二人が仲良く話しているのよく見るし』
明日からは会話はメッセにしようと誓った。
ぶるっと鳴り、続けて北条さんからメッセが届く。
『で、雨宮君知りたいのは今のクラス状況をなんとかしたいのでとりあえず私がどう思っているのかを知りたい、ってところかな?』
『ご察しがよくて助かる』
『そ。んーまあ一番いいのは私から女子と男子グループに説明。で、瀬尾川にも一回くらいデートして、あとは片思い続かせれば大丈夫でしょ』
『それってキープにするって事か?』
『私に彼氏も好きな人もいないからキープにはならないよ』
いや片思いだと知った上でその気持ちに答えようとしないって十分キープだと思うんだが……まあいいや、瀬尾川だし。何なら俺は巻き込まれている身なので正直ここまで付き合う必要はない。あくまで五日市さんからの頼まれ事であるから手伝っているだけである。
『じゃあその方法で何とかしてくれないか?』
『んーでもそれだと私に得がないなぁ』
『は?』
『人は損得で動く生物って言うじゃん。だから私にも何かしらのメリットが欲しいなーって。そこんとこどう?』
『いや得って言ったってお金はちょっと』
『いやいやお金より大事なものがあるでしょ』
そうして続けて二つのメッセが連続で届いた。
『情報だよ、雨宮君。君の』
『刹菜先輩との件について、真相を知りたいな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます