第4話 好きと嫌いは紙一重 4
「雨さんだっ、雨さんだっ! えへへへっ」
どうみても幻ではない。
一週間程前に少々恥ずかしい想いを耐え、窮地を救った彼女が目の前で笑みを浮かべている。この学校の制服を身に纏って。
「……雨さん?」
怪訝そうに声を発したのは五日市である。どうやら俺を見て、女子がはしゃいでいるというこの状況がお気に召さないらしい。
「俺がSNSで使ってる名前」
「へえー……面白みがない」
「でも覚えやすいだろ?」
「他に思いつかなかっただけでしょ」
痛い所を突いてくる。
が、それよりもどうして神様がここにいるのか。振り返り、会長の方へ顔を向ける。
「えーと……生徒会長、ご説明をお願いします」
「説明も何も彼女の制服のリボンが答えだ」
言われるがままに神様の方に目をやると、リボンの色が赤色だった。
格段珍しい事でもないが男子のネクタイが一色に統一されているのに対し、女子はリボンが三色ある。赤が一年、黄色が二年、青が三年と分かりやすくする為との事だが女子側からは面倒だから統一してほしいという意見が多いらしい。
つまり赤のリボンをしているので、神様は一年生。二日後に入学する予定の新入生ということになる。
「神様、ここに入るんですか?」
「はいっ! 明日からよろしくお願いします! あ、学校では先輩って呼んだ方がいいですか? それとも今のままの方が」
「そこは言いやすい方でいいよ」
軽い気持ちでそう答えると、彼女はこほんと咳払いして、
「じゃあ……せーんぱいっ」
―――恋に落ちる音がした。
「おい」
「……はっ! ここはどこ……? 私……ダレ?」
「何でカタコトになってんのよ。たかが先輩って呼ばれただけで」
「ああ?」
ドスの効いた声が喉から自然と飛び出した。
たかが? 先輩って呼ばれる事をたかがだと? このアマ……。
ヲタク男子にとって、後輩の女子から至高とも言える『先輩呼び』だぞ? 普通の男子ならともかく後輩ってだけで興奮してしまう後輩系女子大好きヲタクにとっては呼ばれることはない無縁の言葉。それを初めて口にされたのだ。意識も概念も遠くへ行ってしまうところだった。
「とりあえず雨宮君の妄想はまた今度聞くとして。五日市、一旦席を外してもらえないか?」
「へ?」
急な会長の言葉に思わず間の抜けた声が出てしまう。即時に五日市が口を開いた。
「理由を聞いてもいいですか?」
「駄目だ」
「……私に聞かれたらまずいという事ですか?」
「ああ。ちなみに聞き耳を立てるのもなしだ。いくら彼の事が気になるからとはいえ、これは個人のプライバシーに関する事だからな」
「なっ!?」
余裕で涼しげな会長とは裏腹に耳まで顔を赤くした五日市はキッとこちらを睨み、づかづかと足音を大きく立てて近づいてくる。
「……何もないから」
「そりゃあ相手が五日市さんだと、いつ俺が東京湾に沈められるか」
と、続きをいいかけたところで腹部に激痛が走り、その場で蹲る。
「死ね! 死ね! 別にそういう意味で相談に付き合ったんじゃないんだからっ!」
そんなツンデレじみた台詞を残して、生徒会室から出て行ってしまった。
何だよ、そんな台詞を吐くなんて脈有だと思うだろ。
「さっきから立たせてすまない。二人共座ってくれ」
「はい」
近くにあったソファに腰を降ろすと、神様もその隣に座ってきた。
「で、
「ええ、一度……
聞きなれない名前に反応すると、隣の神様が口を挟んできた。
「あ、私の本名です。
「なるほど。ちなみに俺は雨宮蒼です」
「知ってます、生徒会長さんが教えてくれました」
許可なく情報漏洩されてることに会長を睨むも特に気にしていない様子だった。
しかし本名も神様なのか、この子。流石に名前までが『神』って文字を使用している事はないとは思うけれど、少々ネットリテラシーを理解しているのかと不安になる。
「それでは自己紹介も済んだところで本題に入ろう。今年度よりそちらの花珂さんが我が志閃高等学校の一員となる。我々生徒会はもちろん、そこにいる雨宮君も大歓迎だろう」
「はいっ! ありがとうございます! 先輩も」
何かついで扱いされているが今は話を続けよう。
「で、花珂さん」
「はい」
「単刀直入に聞きたいのだが……君は入学してからも神様を演じ続けるのかい?」
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