第3話 新しい原点 3


 栄は、人目の付かない所を探し歩いた。バス停があり、どうやら幹線道路に出たようである。道なりに歩き一キロほど歩いただろうか大きな公園に出た。栄は、遊具の中にある蛸型の滑り台に注目した。蛸の中に入ると、仄かに温かい。ここで一夜を明かそうと栄は考えた。

夜の九時を回ったとこだろうか、辺りが騒がしくなった。暴走族である。公園で爆音を上げながらコールを始める。栄は怖かった。でも逃げ場がない。何処に行っても見つかってしまう。レディースの少女が栄を見つけた。

「おい!誰かいるぜ!」

「連れてこい」

 栄は、髪の毛をつかまれ集団の中に転がされた。

「こいつ女か?」

「鉄!調べろ」

「よしきた」

 鉄と呼ばれた少年は、栄の短パンを覗きこみ。

「男ですぜ!しかもノーパン」

「ははは」

 笑い声と同時に栄は殴られた。今まで、誰にも殴られたことはなかった。心の中で思った。これが殴られる痛みなのかと。鉄は、栄のポケットに手を入れ一万円を取り。

「こいつ一万円も持っていやがった」

 同時に髪をつかまれ、腹這いにさせられた。レディースの少女は、カミソリを取出し、栄の髪を短く切った。髪は、ばっさりと地面に落ちた。その後も悲惨であった。殴られボコボコにされ。栄は、異世界召喚に憧れる者全員に警告を出したい程であった。この苦しみ一生忘れないと考えながら、死を感じていた。

 そこに一台のロードパルに乗った少女が、暴走族の集まりの中に割って入った。

「お前ら何をしている!」

 視野に飛び込んで来たのは、栄の無残な姿であった。このままでは、命がないと理解した。

 ロードパルに乗った少女は、素早く鉄を殴ると栄を自分の方に引き寄せた。すると少女の髪は、真鋳色になり輝き出した。

『サンダーストーム』

 幾つもの雷が落ちてきた。暴走族達は、悲鳴を上げる間もなく気を失った。

 ロードパルの少女は、更に栄に、手をかざし何かを唱えた。すると、栄の血みどろの姿が癒され元のように整った姿になった。

 栄は、軽い揺れと温かい感触の中目が覚めた。

「あなたは誰?」栄は聞いた。

「気が付いたか、わたしは通りすがりにお前を助けただけだ」

「あなたは命の恩人です。名前だけでも教えてください」

「じゃ、ここでお別れだ。でも、これも何かの縁だな。名前は、高遠美鈴だ。あとこれお前のだろ鞄ほら」

 そう言うと、ロードパルにノーヘルで闇に消えて行った。栄は、ポケットを探った。二十円が出てきた。これから、どう生きたらこの異世界生活を終われるのだろうかと思考していた。ふと視野に入った。四角い四面をガラスに覆われた箱、中には分厚い書物があり、受話器と思える機械があった。中に入ってみた。温かいと感じ、大好きな、あんまんを食べることを想像していた。意識を失いかけていた時、猫の鳴き声が聞こえた。しかしあの黒猫はいなかった。そう言えばとメモ帳を取出し猫が書いた数字を見た。

「解った!これは、電話番号」

十円を電話機に入れプッシュフォンを押す。呼び出し音が長く続いた。

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Went、栄の未来! 星雲八号 @seiunhachigou

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