565 精神魔法で思い出す友人たち、悪い知らせ
研究棟に問題はなかった。
ここは一階の教室以外は完全に塞いでいる。念のため《全方位探索》で生命反応がないか確認するも、研究に使用されている小動物以外は見当たらない。
シウは次に講堂へ向かった。その後はドーム体育館だ。そこでレイナルドと合流した。
彼の情報を共有すべく、通信魔法を使う。
「(シウより、公開情報です。レイナルド先生が魅了魔法を受けた一般の観覧者を発見。すぐに解除し、複数の生徒で医務室に連れて行ったとのこと。その方は男性で『荷物を持ってほしい』と、見目の良い『シーカー魔法学院の女子生徒』に頼まれたと証言。ただ、先生によると『精神魔法のレベルが高ければ年齢だけでなく性別も誤魔化せる』そうです)」
ウゴリーノからは絶句の後に大きな溜め息が返ってきた。
「(ベニグド=ニーバリは精神魔法持ちだったよねぇ)」
確かにそうだ。しかし、シウは彼ではないと思っている。
まず、ベニグドはシウの《全方位探索》に引っかかっていない。少なくとも学校にはいないだろう。もちろん何事も抜け道はあるし、シウも完璧ではない。当然、最大限の警戒は続けているが、なによりベニグドの性格上「自分自身で動く」とは思えないのだ。
ベニグドはいつもそうだった。誰かを使う。決して自分の手を汚さない。
周りが惑わされ、動き回る。その様子を楽しく眺めるのが彼だ。
シウの脳裏にヒルデガルド、今はガーディニアと名を変えて生きる女性を思い出す。ベニグドに振り回された一人だ。精神的に参っていたところを付け込まれたのだろう。彼女はシウが思う以上にキリクとアマリアの結婚にショックを受けていた。もしかしたら精神魔法に掛かっていた可能性はある。
不思議なのはその痕跡が見当たらなかったこと。
ヒルデガルドに完全鑑定を掛けたが何も異常は出なかった。
「精神魔法にもいろいろあるし、もしかして一度掛けて解除、また掛けて解除を繰り返しているのかも……?」
「(なるほど、そうした使い方もあるのだね)」
シウの独り言に応じたのはウゴリーノだった。
シウも彼の返事を聞いて、ハッとした。
「そうかもしれません。『先入観』として植え付けられた可能性はあります。人は最初に聞いた噂話を『正しい』と思い込む場合がある。特に不安や悪い話の方が信じられやすいとも言います。と、何かの本に書いてありました」
もちろん端から疑ってかかれる人もいるだろう。しかし、自分と同じ立場の者の話は耳に入りやすいものだ。
たとえば共通の敵がいる場合、あるいは貴族という立場。そのグループの中で知らされた情報は、全く知らないグループから聞かされるよりも「信憑性が高い」と思い込んでしまう。
「(そうなると、もっと多いかもしれないね)」
シウは頷いた。
「……鑑定魔法を掛けましょう」
「(大勢いるが、どうやって)」
「ヴァルネリ先生です。彼は教室の入り口に独自の鑑定魔法を仕込んでいました。特定の部分を抜粋して調べられる鑑定魔法です」
「(それは――)」
絶句したのは「教授が教室に仕掛けていた」事実にだろう。しかし、さすがはヴィンセントの次席秘書官だ。彼はすぐに気持ちを立て直した。
「(ヴァルネリ殿を至急呼び出しましょう)」
「先生ならすぐに術式を改造できます。付与は他の先生に頼んだ方がいいかもしれませんが」
「(承知した)」
「他にも手伝える生徒がいます。そちらに向かうよう指示します」
思い付いたのはクラリーサだった。彼女は精神魔法を持っている。戦術戦士の授業でもスキルを活用していた。
シウは急いでクラリーサの下へと向かった。
クラリーサは上位貴族として接待係を担っていたが、一も二もなく請け負ってくれた。
「精神魔法に掛かった方の解除も手伝いますわ」
「ありがとう」
実は上位貴族の中でも公爵や侯爵家の生徒の中には休んでいる者もいる。事前に情報が流れ、参加は危険だと判断したようだ。
カルロッテやスヴェルダも魔法競技大会には出てきていない。今頃は王城で守られているだろう。
クラリーサは上位といっても伯爵家だ。また、レイナルドが受け持つクラスのリーダーの中でも一番優秀だとされている。その自分が出ないでどうするのだと、家族を説得したようだ。
彼女の頼もしい姿には安心しかない。
「ウゴリーノ次席秘書官が上手く差配してくださいます。ヴァルネリ先生は独特の感性を持っているけど、たぶん大丈夫」
「たぶん、なの?」
クラリーサは笑って、しかしすぐキリリと表情を改めた。従者たちを振り返る。
「では、後は任せましたよ?」
大勢を連れてはいけないので、彼女の傍には騎士一人だけだ。ジェンマやイゾッタは迷うような、不満なような表情ではあったけれど、素直に頷いた。
ふと、精神魔法ならキアヒも使えたのだと思い出す。ちょうどシウが失敗して昏倒したのが彼の所属するパーティーの依頼を受けてのことだった。
懐かしさもあって相談しようかと考えたが、ウゴリーノが聞いている。彼に個人的な知り合いとの会話を知られるのは心地が悪い。
それに彼等とはたまに連絡を取り合っていた。冒険を楽しんでいる様子はともかく、毎回グラディウスが「レーネとまた手合わせをしたい」と頼んでくるので常套句と化している。
伝言はするものの、アントレーネは「また同じ話かい? あたしに直接言えばいいのに」と首を傾げていた。鈍いシウもさすがに「もしかして好意があるのでは」と気付いたが、ククールスが面白がって「黙っていようぜ」と唆すし、ロトスも「爆発したら可哀想じゃん?」と止めにくるので傍観だ。
キアヒと話しているとグラディウスが必ず魔道具を奪ってアントレーネの話題を出す。やはり止めておこう。
シウは地道に不審者を捜す作業に戻った。
そして、ヴァルネリの改造した術式を誰もが通る場所に付与したところ、あっという間に幾人もの被害者が発見された。
シウが捜して見付けた二人よりも断然多い。
一度、戻ってほしいとウゴリーノに言われて会議室に入ると、そこは戦場だった。
ウゴリーノは使える人間は生徒だろうと使う。プルウィアはもちろん、多くの生徒会役員らが走り回っている。
手招きされたシウは彼等に同情しながら、ウゴリーノの前に立った。
「魅了だけではないようです。洗脳された生徒もいる」
「それは……」
「幸い、クラリーサ嬢が他の生徒を纏めて対処してくれています。証拠も必要なので神官を急遽派遣しようと決めたのも彼女です。確かに誓言魔法持ちは何人いてもいい。生徒会も複写魔法に自動書記魔法などを駆使して進めてくれています。本当にシーカーの生徒は質が良い。このまま全員、王城に連れて行きたいぐらいだよ」
そこで大きな溜息を吐く。
「さて、本題に入りましょうか」
「はい」
「王城の奥にある聖獣や騎獣たちの管理所から報告がありました。『王城裏が騒がしい』と」
「王城裏ですか」
「ええ。先ほど、先遣隊をやったそうです。ただ、王城内でも混乱が始まっているとか。不必要に登城する貴族もいる。噂を知って、ただ単に王城へ避難しようとしたのか。それならまだしも――」
ウゴリーノが言い淀む。シウが首を傾げていると、彼は苦笑して小声になった。
「王城にはラトリシア国で一番大きな転移門があるのです。この地に、かつて『サタフェスの悲劇』があった話はご存じですよね?」
「はい」
「それ以来、国はあらゆる対策を講じてきました。中には逃げるための手段もあります」
「ああ、なるほど」
大勢を一度に移動させるだけの、大型転移門が王城の奥深くにあるのだろう。貴族はそれを知っているから登城した。自分たちが助かりたいために。
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応援してくださる皆様のおかげで、「魔法使いで引きこもり?」の14巻が発売となりました
本当にありがとうございます!感謝です💕
魔法使いで引きこもり?14 ~モフモフと回る魔法学院文化祭~
発売日 : 2023/3/30
ISBN-13 : 978-4047374249
イラストは戸部淑先生
書き下ろしはリュカのお話になります
イラストが今回も最高なのでぜひご覧になってみてください
(作者の性癖に突き刺さる)激おこヒルデガルドのみならず、プルウィアの胸に抱き込まれるシウが可愛いry
他にもモフモフいっぱい、懐かしい友リグドールとレオンも出てきます!
照れ照れプルウィアも良きです꒰ ∩´∇ `∩꒱
(全部いいんすよ)
それと、発売を記念してSSを書きました。
PCからならアドレスはこちら
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883212446/episodes/16817330655048588479
(貼り忘れてた!!すみません)
アプリだとリンク辿れないようなので作者の作品リストから
「魔法使いシリーズ番外編」の「王様がやってきた!」で探してみてください🙇
希少獣たちのシーンになります!
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