564 ウゴリーノとの話、捜索、念話ドキッ
ウゴリーノはシウに不審者の捜索を依頼した。見付けた場合、シウの独断で動いてもいいらしい。更に、プルウィアから「シウとの通信が繋がった途端に音質が格段に良くなった」という情報を得て、高性能版の魔道具があるのだろうと詰め寄られた。暗に要求されていると気付いて、シウは苦笑で魔法袋からという体で空間庫から取り出す。
「傍受される心配は少ないですけど、魔核は消費しますよ?」
「構いません。緊急事態です。それともう一つ確認ですが、通信を繋がったままにはできませんか?」
「可能です。ただ、開放状態を維持したままとなると魔核の消費は倍では済みません」
「結構。ちょうど魔法競技大会のために集めた魔核が金庫にあるんです」
「……それ、防衛のために必要なのでは?」
「防衛のためですよ? あなたという遊撃手を効率よく使えば被害を最小限に敵を捕らえられる」
ニヤリと笑った顔がヴィンセントにそっくりだ。
シウはずっと「次席秘書官という立場は扱き使われて大変そうだ」とウゴリーノに同情していた。しかし、どうやら彼もヴィンセントと同じ側の人間らしい。
シウは肩を竦め、少しだけ術式を変更してから《超高性能通信改》を貸し出した。
「僕のとっておきなので、ご内密に」
「ええ。ところで、元々使っていた《盗聴防止用通信》でも受けるのは可能なんですよね?」
「はい。それでも充分だと思います。ただまあ、ウゴリーノさんが指揮されるので一番最強の魔道具をと思いまして」
「有り難い」
ウゴリーノは笑顔のままシウに顔を寄せた。
「通信を開放しているのですから、思い付いたことや少しでも気になったことは必ず口にしてください」
「あ、はい」
そのための要求だったようだ。
「あなたの『気付き』は役に立つ。逆にわたしのところへ集まった情報も聞こえるようにしましょう。どこに糸口があるか分かりませんしね」
「そうですね。あ、それと、ヴィンセント殿下は――」
「ジュスト殿に引き留めていただいております」
すぱっと返される。シウはまた肩を竦めた。
「頑張ってほしいですね」
「頑張っていただきますとも」
「こうなると、シュヴィの自由さは主である殿下に似たとも考えられますね」
「まさか! そうなりますとポエニクス様の以前の主でいらした陛下まで同じという話になってしまいます」
「あ、そっか。そうですよね」
「……確かに陛下もお若い頃はやんちゃでいらしたと伺った覚えがございますが、さすがにポエニクス様ほどではないでしょう」
「あはは」
シュヴィークザームの話題で和んだところで、シウはプルウィアから書類を受け取った。今までに分かっている情報を走り書きでまとめてくれていたのだ。
通信だけでは分からなかった、たとえば妨害魔道具がどこに設置されていたのかを地図に描いてあるので、動きが想像できる。
「助かるよ。じゃ、出てくる。クロには学院全体の見張りとして高度上空で待機させるから。防御の魔道具を持たせているけれど間違って攻撃しないようにね」
「ええ、分かったわ」
シウは司令室となった生徒会室横にある会議室から出ると窓を開けてクロを放った。
「気を付けてね。エルは上空でも大丈夫かな?」
(だいじょうぶ)
「そう。クロ、頼むね」
「きゅぃ!」
任せてと、返事の仕方がフェレスにそっくりだ。やはり一緒に育つとどこか似るものらしい。
廊下を進むと、バタバタ走る教授やその従者を見かける。彼等が捜査に協力してくれるグループだろう。人数が減った分を別の教授らがバックアップするのだが「事件が発生するかもしれない」と聞かされていたにしろ大変だ。同時に、この時期に仕掛けてくるベニグドやウルティムス国に苛立ちを覚える。
シウは大きく息を吸って吐いた。気持ちを落ち着かせると、次は《全方位探索》を強化する。
更に王都内で警備を担っているククールスとレーナに念話を送った。通信の方が驚かれずに済むが、現在は開放状態だ。聞かれたくない会話が飛び出てくることを懸念して念話にした。
(ククールス、今いいかな)
(うわっ!)
(ごめん。顔が見えない時の念話って驚くよね)
突然、脳内に声が響くのだ。それに慣れないと言葉として伝わりづらい。シウとロトスは念話に慣れているが、ククールスとアントレーネは苦手だという理由から余り使ってこなかった。特にアントレーネの方は言葉として成立しない時が多い。だから今回もククールスだけに送った。また、少し離れていると届きづらいというのもある。ククールスの方が魔力は高いから届きやすい。
(いやー、大丈夫。何かあったのか?)
(例の、予想していた騒乱が起きたんだ)
(マジかよ。で、どのパターンだった?)
シウが焦っていないせいか、軽い調子で返ってくる。
(ニルソンが大図書館の地下にある禁書庫に忍び込もうとした。あ、ニルソンって教授ね。その彼が、ウルティムス国の兵士と魔法使いを引き込んだんだ)
(……マジかよ。ヤベぇな。ロトスは、早朝に出ていたから今頃は戻ってるか)
(人の多い昼の間は外に出ないって言ってたからね。早めに帰ってきて屋敷に籠もってくれてる)
ただ、ウルティムスの関係者に転移した姿を見られたかもしれない。その話も伝えた。
(だからね、王都内で事件を起こされるという前提で動いてほしいんだ)
(分かった。あっと、おい、ヤメロって。レーネがうるさい。俺、念話しながらつい喋ってしまうんだけど、聞こえたみたいだ。えっ、なんだって?)
感覚転移を使って見てみたい気もするが、シウは耐えた。どうしても視なければならない時までは我慢する。
今はまだ、何もない。彼等も一流の冒険者である。子供を心配する過保護な親になってはいけない。
(……レーネに『興奮しないで落ち着いて行動するように』と、伝言をお願い)
(直に言ってくれよ。ていうか、なんで念話なんだ?)
と言うから、その説明も済ませた。
(はー、なるほど。そりゃ、まずいわな。俺もポロッと零すかもしれないけど、レーネの方がヤバそうだもん。痛っ、ヤメロって、おい! とにかく、俺たちは希少獣関係を中心に見て回るよ。騎獣屋はもちろん、養育院にも声を掛ける)
(助かるよ。時々、屋敷の方にも連絡を入れてあげて)
(そうだな)
二人同時にロトスを思い浮かべた。映像まで伝わるのだから念話というのは面白い。
(そろそろ、集中がきつい。切ってくれよ)
(分かった。急ぎの時は通信使っていいから)
(そうする)
事前に事情を話せたので、次は通信魔法を使っても問題ない。言葉を選びさえすればいいのだから。
シウは念話を続けながら、六角形の校舎から足を踏み出した。
次に向かうのは研究棟だ。
不審者といっても、捜すのは難しい。
ニルソンやベニグドのように最初から怪しい人間をマークしていたのならともかく、そうでなければ分かるはずもない。
それに表面上の鑑定だけでは分からない場合もある。かといって現在のシーカーには大勢の人が集まっていた。この全員を完全鑑定に掛けるのは大変だ。膨大な魔力を要するからではない。鑑定の結果をシウが一人で確認しなければならないからだ。
シウが魔法を使い始めた頃、ちょうどシュタイバーンの王都ロワルで暮らし始めた時に辺り一帯の人間に対して鑑定を掛けたことがある。
その際、魔力庫に制限を掛けていたせいでシウは昏倒した。当時を思い出して苦笑する。魔力の使いすぎもさることながら、集まった情報量も多くて頭痛に悩まされたものだ。たまたま目当ての人物の情報が目立つ内容だったからピックアップも早かったけれど、完全鑑定が使えるようになった今は「一人の人間の全情報」が集まるので恐ろしい。
取捨選択するのに慣れたとはいえ、表面にない情報を探し当てるのは大変だ。
だから、鑑定で捜す方法も取りづらい。地道に足で稼ぐしかなかった。
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いつも本当にありがとうございます💕
魔法使いで引きこもり?14 ~モフモフと回る魔法学院文化祭~
発売日 : 2023/3/30
ISBN-13 : 978-4047374249
イラストは戸部淑先生
書き下ろしはリュカのお話になります
(特典SSについては近況ノートに)
また、発売記念としてSSを短編の方に上げる予定です
次回更新時にアドレス貼りますね
よろしくお願いします
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