王様がやってきた!

魔法使いで引きこもり?14巻の発売記念SSです

(14巻の範囲にあります文化祭編から)



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 文化祭で、魔獣魔物生態研究のクラスは食事を出すことになった。教室を借りて食堂にする。その教室の端が希少獣たちの待機場所だ。待機というが遊び場所と呼んでいいだろう。ネットを五十センチメートルの高さに張って区切りとしている。人間なら簡単に乗り越えられるが、心理的な柵としては有効だ。事実、食堂に来た客らは誰も内側に入ろうとはしなかった。

 ここにいる希少獣のほとんどが小型希少獣である。動き回るためのスペースはそれほど要らない。何より、昼食後はまったりと過ごすのが常だ。

 そこに、聖獣の王がやってきた。彼は人間の決めた心理的柵をものともせず、気軽に入り込んだ。それで構わない。何故なら、当の希少獣たちがそわそわして彼が来るのを待っていたからだ。

「かわゆいものだ。どれ、こちらへ来るがいい」

「きゅ!」

「きーきー」

「くえ!」

 誰も彼もが好きといった気持ちを隠すことなく、聖獣の王に駆け寄る。近付かないのはフェレスぐらいではないだろうか。「あ、しゅびーだ」と言いつつ、特に用事はないとばかりに大きな欠伸で横になる。

 見ていた護衛の一人が「あいつが大物すぎて怖い」と零した。


 しばらくして食事が出来上がると、聖獣の王がいそいそテーブルに戻った。楽しみにしていたのか「おお!」と声を上げている。柵の内側から見ていた希少獣たちは、その気持ちが分かると同意した。

 ――だって美味しいんだもん!

 ――シウのくれる内臓スペシャル好き!

 ――おーさまもきっと好き!

 皆が口々に話し出す。そのうち、おやつは何がいいのか、どれだけ溜め込めるかの話題に移る。その間もフェレスは寝転び、ブランカはお腹の山を登っている。クロは窓側で石並べの真っ最中だ。小さなお友達が時々見に行って様子を見ている。

 希少獣たちはシウに頼まれていた。

「調理の間、この子たちを見ていてくれる?」

 と。

 幼獣の間は皆で大事に守る。この魔獣魔物生態研究のクラスにいる希少獣たちはもう成獣だ。だから大人として二頭を見守っていた。

 その見守り隊の筆頭であるフェレスがぐーすか寝ているのは、仲間を信頼してのこと。まだ眠くない仲間たちが交代で見守っていた。


 食事を終えた聖獣の王がまた柵の中に来る。シウも一緒だ。彼は何故か聖獣の王に体を寄せてクンクンと匂いを嗅いでいる。聖獣の王が薄目になって見返す。変な奴だなという気持ちが伝わってくる。希少獣たちは「わかる」と同意した。

 ――シウって変だよね!

 ――シウは美味しいものをくれるけど、フェレスの主だもんね!

 ――フェレスが泥んこ好きなのはシウのせいだって僕の主が言ってたよ!

 それを聞いた聖獣の王が目を細める。

「はてさて、そうかもしれぬな。お主ら、周りをよく見ているものだ」

 そう言って頭を撫でていく。希少獣たちは喜んだ。

 ――あのね、あのね、なんだか好きなの!

 ――おーさまのまりょく、気持ちいい!

 ――シウのご飯の次に美味しい感じ!

 最後のタマラの言葉に皆がずっこける。

「お主、さては食いしん坊であるな?」

「キッ」

 ――食べるの大好き!

「さようか。我も好きだ。シウの菓子は特に美味なのだ。お主の言わんとすることは分かるぞ」

「キッ」

「ふふん。だがな、我も作れるようになったのだ。先日、シウに指南を受けてな。なんと、パンが焼けるのだ。すごいと思わぬか? キュウリを薄く切るのはなかなかに難しいのだぞ。だが、我の手にかかればあっという間よ」

「きゅー?」

「くえ?」

「きー?」

「信じておらぬな。我を誰と思うておる。聖獣の王ぞ」

 希少獣たちは「知ってるよ~」と笑った。そして、聖獣の王が身近に感じられて何やら嬉しくなった。

 彼からは強さを感じる。それは頼もしいという気持ちになれた。

 魔力の心地良さ、包み込むような温かさも得られた。

 父親のような母親のような、主とはまた違った安心感だ。

 希少獣たちはそこでハッとした。

 シウが先ほどクンクンと匂いを嗅いでいたのは、自分たちが感じるものを共に味わおうとしたのではないか。

 ――わかる!

 ――気持ち良いのを人間も知りたかったんだよ!

 ――美味しい匂いを嗅ぐと幸せ!

 最後の台詞を口にしたタマラに「それはどうかな」と皆が視線を集める。

「やれ、シウの話はどうでもよい。我の作ったパンがいかに美味であったかを、だな」

「キッ」

「……持参はしておらん。全く、お主はかなりの食いしん坊だ。待て待て、頬に詰め込みすぎではないか。止めなさい。腐ってしまうであろう。ちゃんと食べるように」

「キッ……」

「可哀想な声を出してもダメだ。主が食事を吟味して用意しているはずであろう? ならば毎度毎度きちんと食事をいただくべきよ。おやつも出るな?」

「キッ」

「うむ。良い返事だ。お主らも、おやつを楽しみに頑張るのだぞ」

 何故かお菓子の話で締め括られてしまったが、希少獣たちは賢く返事した。

 聖獣の王は満足そうに頷き、名残惜しい様子で柵を出ていく。

 希少獣たちはネットの際で彼を見送った。

 フェレスとその子分らを除いて。







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