新入りがやってきた!
魔法使いで引きこもり?10巻発売記念
魔獣魔物生態研究クラスに新入りがやってきた!
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フェレスがお友達と仲良く遊んでいたら、新入りの希少獣がやってきた。皆でそわそわしているとシウが紹介してくれる。
「クラスメイトが増えたんだよ。それぞれに相棒がいるから、一気にお友達が増えるね」
「にゃ!」
新しい子は梟と亀と小鳥だ。小鳥はルスキニアと言うらしいが、フェレスたちは「鳥だねー」と声を掛けた。きゃっきゃと遊んでいると、後からもうひとり増える。
「にゃー」
レウィスだ。前にフェレスを格好良いと褒めてくれたので覚えている。
「ホゥー!」
主が寂しそうだったので一緒にいたらしいのだが、希少獣たちでワイワイ楽しんでいるのを見て送り出してくれたらしい。仲間に入れてほしいと飛んできた。
「にゃにゃ」
「きーきー!」
「くぇ!」
「きゅー」
皆で挨拶しあっていると、ルスキニアのケリが甲高い声で鳴いた。
「ピチピチピーゥ!」
「にゃ!」
すごい。格好良いね、綺麗だねと皆で褒めると、ケリは尾羽根を嬉しそうにフリフリ振った。
それから新入りたちが自己紹介を始めた。
人間も同じように話し合っている。
人間は大変そうだ。フェレスたちのように遊ぶことはなくて、立ったまま授業の進みがどうこうと話している。フェレスには全く分からない。
人間の様子はもういいとお友達を見れば、レウィスが同じ梟型希少獣と仲良く話し合っているのが聞こえた。
「ホゥーホゥー」
レウィスが「フェレスの背に乗せてもらった」と自慢している。フェレスが「ハリーやヒナたちも乗ったんだよ」と答えたら、新入りの子たちがしょんぼりした。
いいなー、ふわふわで気持ち良さそう、だって!
フェレスはだったら乗せてあげると、その場に屈んだ。
皆、いいの? と喜んで乗ってくる。乗れない子は他の子が手伝う。ハリーも、ゲリンゼルやルルに押し上げられて背中に乗った。亀型希少獣のテスも同じく皆に運んでもらっていた。
「にゃう?」
ちゃんと乗ったか確認すると、ゲリンゼルが「ヴェェ」と答えた。そしてフェレスの右側に立った。ルルは左側だ。一緒に歩くつもりらしい。でもフェレスは歩くつもりはなかった。
「にゃっ」
走るよ!
だって走った方が楽しいもの。それに飛んだ方が絶対に楽しい。
フェレスの提案に、皆はそれもそうかと頷いた。この場には飛行できない希少獣もいるけれど、彼等は新入り以外全員がフェレスに乗って飛んでいる。
それにフェレスはこれまでもいろんな人間を乗せて飛んだ経験がある。リュカもそうだ。皆、必ず興奮して喜んだ。喜ばなかった人間については忘れていい、とフェレスは無意識に思っている。
さあ、新入りにも楽しさを教えてあげよう。
フェレスはふわりと浮き上がった。滞空は実は一番難しい。けれどフェレスは誰にも負けたくなくて必死に覚えた。だから大丈夫。安定して飛べる自信があった。
「くぇー」
「きーきー」
「ホゥー」
「ホゥホゥ」
「きっ」
「ピチピチ!」
それぞれに「わーい」と喜ぶ声が上がった。隣り合うゲリンゼルとルルも鳴く。
「ヴェェェ」
「きゅー!」
「にゃにゃ。にゃにゃにゃ!」
一緒に飛んでるみたいな気持ちになると言って、嬉しそう。そう言われるとフェレスも嬉しい。
ゲリンゼルとルルは最近「特訓」をしているのだとか。ふたりは飛べないけれど荷物は運べる。もしかしたら主だって乗せられるかもしれないと頑張っているのだ。
そういうの、すごくいい。
「にゃっ」
フェレスは、もっと飛ばすよと鳴いた。
最初は教室内を歩くより、そう、少し速めに飛ぶぐらいだった。
でも段々と興に乗ってしまった。教室が狭いと感じたのだ。フェレスは楽しげに追いかけてくるゲリンゼルとルルを連れ、外に出ようと考えた。
廊下と反対側の窓は大きな引き戸になっている。最近は暖かくなってきたから全開になっていた。この日はほとんど閉められていたけれど風通しのために一部が開いていて、そこから出ようとしたら――。
「いけません」
「ダメですよ、今日は」
「にゃぅ」
「雨が降ってます」
「にゃ!?」
雨!? 雨は楽しいよ。フェレスは目を輝かせて護衛や従者たちを見た。主が授業中は彼等と一緒に遊ぶこともある。フェレスは人間も遊びたいんだなと思って誘ってあげた。
「にゃにゃにゃ」
「なんて言ってるのか分からないな」
「いや、分かるだろ。これ確実に、遊びに行こうって誘ってるぞ」
「雨だぞ」
「雨だな」
「雨の中で遊ぶのかい、フェレス」
「にゃっ!!」
すっごく楽しいよ! と尻尾をフリフリ答えたら、皆に変な顔をされる。フェレスは首を傾げた。分からない時はこうすればいいと知っている。
ところが、人間は苦笑いで退いてくれない。
「雨なので出てはいけないよ」
「にゃぁぁ?」
「濡れてしまうよ? なぁ、猫って濡れるの嫌だよな?」
「猫と騎獣は別じゃないのか。ああ、でも、ゲリンゼルは濡れるのを嫌がっていたな」
「タマラも嫌がるらしい」
「鼠だからか」
「鼠型の希少獣だろ……」
人間たちの話し合いが始まってしまい、唯一の出口の前で立たれてしまうと出られない。無理すれば頭の上を通り抜けられるだろうが、今は背中に小さな子たちを乗せているので無理だ。それはフェレスでもダメだと分かる。
振り返ると、ゲリンゼルとルルが少しだけ及び腰になっていた。
「にゃ」
「ヴェェ」
「きゅきゅー」
濡れるのが苦手だと言うけれど、泥んこ遊びと同じぐらい楽しいのに。フェレスはまた首を傾げた。
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ」
冷たい雨じゃないから大丈夫。草の上が滑りやすくなってるよ。土も掘りやすくなってるんだ。と、どれだけ楽しいのかを説明した。
段々とふたりの目が輝きだした。背中に乗せた小さな子たちもワイワイ騒いでいる。
「にゃっ」
皆によく掴まってるよう告げる。彼等が掴んでさえいたら、問題ない。あとはスッと窓の上部をすり抜ければいいだけ。
ほんの少し身を屈める。こうすることで皆への振動を軽減するのだ。理屈ではない。フェレスの本能が告げる。大丈夫、行けると。
ぐぐっと力を入れたところで、声がかかった。
「フェレス、何してるの……」
呆れたシウの声。途端に尻尾がしおしおと垂れた。
「今、無理矢理出ようとしたでしょ」
「……」
「フェレー、フェレス。もう少し静かに遊ぼうね。新しい仲間が増えたのが嬉しいんだろうけど」
「に」
こう言われるともうダメだ。遊びに行くのはナシになってしまった。
しょんぼり項垂れていると護衛や従者の人たちがやってきて慰めてくれた。
「また今度遊べばいいさ。な?」
「ほら、教室の後ろの席を空けたから。広いだろ。ここで楽しもう」
「ヴェェ」
「きゅ」
フェレスの横にぴっとり張り付いてくるゲリンゼルとルルにも慰められ、のっそりと教室の後ろに歩いていった。
その間、フェレスの背中からも応援が飛ぶ。
「きーきー」
「くぇ」
「きっ」
「ピチピチ」
「ホゥホゥ」
「ホゥーホゥー」
「……にゃ」
フェレスが顔を上げると、シウがクラスメイトたちと何か話していた。皆が笑っていて、シウは首を傾げて照れたような笑顔。なんとなく寂しくなったフェレスは進行方向を変えた。
「ヴェェ?」
「にゃにゃにゃ」
だって授業中じゃないみたいだもん! 皆が話しているのだから今は授業中じゃない。そう思って突進した。
シウはびっくりしたけど、優しくフェレスを受け止めてくれた。
背中に乗っていたお友達も最初は速すぎて掴まるのに必死だったみたいだけれど、後で大興奮だ。また次も飛ばしてねと言われ、フェレスは自信満々に「にゃ!」と答えたのだった。
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本日、魔法使いで引きこもり?の10巻が発売です
その記念にSSを投稿しました
ありがとうございます!!
素敵なイラストが付いてる書籍版も、どうぞよろしくお願い申し上げます
「魔法使いで引きこもり?10 ~モフモフと見守る家族の誕生~」
ISBN-13 : 978-4047367395
イラスト : 戸部淑(先生)
プルウィア視点の書き下ろしあり
(いよいよブランカ誕生です)
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