607 長命の占術師と予言、神様再び
アエテルヌス達3人の使者は、リングアの班が送っていくことになった。
情報を共有してから、山狩りについての相談を詰めるそうだ。討伐は先になるので、その頃にはシウ達はいない。
だから、いる間に訓練をしようと、毎日午前中は竜戦士や自警団との訓練になった。
フェレスは楽しんでいるし、シウにも良い訓練になるので快く応じた。
午後は料理や、複合魔法を教えたりして過ごした。
アウレアも料理に興味を覚えたのでやらせてみたが、ガルエラドよりもずっと上手にできていた。
この頃、里の占術師という職に就いた女性と出会えた。
大がかりな占いの後だったので、臥せっていたそうだ。
「プルクラと申す。よく、この里へおいでになった」
威厳ある口調だが、見た目は若い。彼女には鑑定を掛けるとばれそうなので、遠慮していたが、本人が教えてくれた。
「わたしは255歳だが、人年齢は30歳なのだよ。強い個体で生まれると寿命も延びるのだ」
「そうなんですね」
「この里ではキルクルス、ソノールスがそうだ。ガルエラドもまた、長命種となろうな」
「……そうですか」
自分自身も長命になりそうな気配はあるが、彼等よりはずっと短いだろう。
少し同情してしまう。自分とて、長い時を生きるのは辛かろうと、考えたことがあるからだ。
「大丈夫だとも。そなたならな」
「プルクラさん」
「気になっての。そなたを視ていたのだ。よう、生まれてくれた。幼い頃は大変であったろうが、ここまでくればもう問題なかろう。未来は長い。そなたはそなたの成したいように、されるがよろしい。神の愛し子よ」
「え?」
「これはわたしとそなただけの話。誰にも言いはせぬ」
「もしかして、僕が、神様と――」
「しっ。言わずともよい。そなたが神に愛されているのはよう分かっておる。面白い存在じゃ。勇者や神子とも違う、自由気儘で、ふわふわと、まるで精霊のようだ。精霊はやりたいようにやるものだ。そなたも生きたいように生きれば良い」
「はあ」
精霊のようとは、変な喩えである。
が、神様に大仰な役目を与えられたわけでもないし、気楽に生きていいと言われるのは有り難い。
特に神様からではなくて、別の人から言われたのが身に沁みる。
決して神様を信用していないわけではないのだが、あの受け答えを見るとどうしてもなあと、内心で笑った。
そんなシウにプルクラは笑み零した。
「ガルエラドがそなたと出会えたことは僥倖であったな。長い時を生きる者同士、仲良くしてやってくれ」
「あ、はい」
「ふむ。その返事からして、大体のことは分かっておるのだな。そうかそうか。では、ひとつ、予言を授けよう」
予言と言われて、背筋を伸ばした。なんとなく、だ。
プルクラはふふっと幼女のような笑みを零して、告げた。
「そなたには、長命の友人がこれからも増えるであろう。中には面白い存在もいる。こちらも神の愛し子だ。楽しみにしておくがいい。近々、会えるはずだ」
「……えっ、それって、まさか」
同じ転生組だろうか?
だが、プルクラはどこまで知っているのか知らないのか、詳しいことは口にしなかった。彼女はただ占った内容だけを、話してくれるそうだ。
推測はしない。
だから、シウに詳しいことを聞いたりもしなかった。
プルクラに会った夜、シウはぼんやりと寝具の上で考えた。
長命の友人に出会えるということや、自分と同じ存在のことについてだ。
近々っていつだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
そして、久しぶりに神様が夢に出てきた。
「先を越されちゃったわ!」
あ、いつもの神様だ、と思わず笑ってしまった。随分懐かしい気もするが、そもそも生まれてから10年近く、出て来てくれなかったのだからこれぐらいなんてことはない。
「まあ、なんだか馴染んできているわね、この世界に」
「はい。楽しいです」
「うんうん。以前と違って、あちこち旅をしているようだし、良いことだわ」
慕わしい少女の姿のままで腕を組んで、少々偉そうな雰囲気で話すものだから、なんとなく面白い。本来の彼女なら決してこんな格好はしなかっただろう。
「相変わらず恋愛の方はてんで進んでないようだけど。まあ、いいわ。ところで、占術師とやらに先を越されたけれど、実はもう1人の転生者に会ってみないか持ちかけようと思っていたの」
「僕に?」
「そう。実はねえ、転生した子が妙なことに巻き込まれそうなのよね。折角生まれ変わったのだから、すぐに死んじゃうのは可哀想でしょう? でも、干渉は出来ないの。神様って案外面倒なのよ。でも、あなたに夢でお願いする分にはギリギリセーフかしらと思って」
「命が危険なんですか?」
心配顔になったら、神様は微笑んだ。
「もう少し先の未来では、ね。どう転ぶか五分五分なのよ。それなのに、占星術とやらで未来を見通すのだもの。嫌になるわー」
「もしかして、本当に神様って万能でもないんですね」
「ぐさっとくること言うわね。でも、そうね、そういう言い方もできるわね。だけど別の言い方もできるのよ。世界は不干渉システムで成り立っている。この世界に手を出したら、それはもはや自由な存在ではなくなる。手を出すということは、すわなち、わたしの持ち物になってしまうということ。分かる?」
「あ、はい。なんとなく、分かります」
「自分の体の事だから生かすも殺すも勝手よ。自由にはさせないわ。だけど、それではただの肥大した自分でしかない。面白くないでしょう? 大体、自分を見て喜ぶバカはナルシストだけよ。わたしは、わたしでないものを見て、楽しんでいたいの」
神様の深淵を覗いた気になって、ちょっと慄いた。
「あなただって、取り込んだ野菜のことなんて気にしないでしょう? でも、美しく咲く花には心を留めるわよね? あんな感じかしら。あ、あなたは一際大事にしている花よ。そうしたものを愛でていたいの」
「分かりました」
「というわけで、年明け頃に予定しておいて。事が起こる前に会わせるわけにもいかないし、もう少し様子を見てみるから」
「転移できるところですか?」
「ええ。でなければ、あなたを指名しないわよ。他にも気になる花はいて、中には神子もいるのだから」
「あ、託宣ですか」
「そうよ。可愛い子なので、話をするのが好きなの。そうそう、彼女を行かせると余計に面倒なことになるのよね。勇者の卵君も、絶対にやらかしそうだし。被害が拡大するのは目に見えているわ。だったら一番マシなあなたが良いかと思って」
マシ扱いされてしまった。これは褒められていない。
「褒めてはいないけれど、貶してもいないわよ。安心してね」
「はあ」
「神子ちゃんも勇者の卵君も、良い子達なんだけど、この世界で生まれた魂だから基本的に思考が浅いのよね。澄んでいるから見ている分には気持ち良いのだけど」
「そういうものですか」
「ええ。思考が浅いから、素直すぎて周りが振り回されるのよ。見ていて面白いけれど、どういう風に転ぶか分からないところもあるわね。今回の件では任せられないタイプよ。本当に、あなたが転生していて良かったわ」
「はあ」
「こんな風に、システムの穴をすり抜けるのはわたしも大変だから、お願いは今回限りと約束するわ。あなたは自由だから、断ってくれても良いし」
「そこまで聞いて、断れないです」
笑うと、神様もぺろっと舌を出して笑った。
「あなたなら、そう言うと思ってた。せっかくの転生者だから、思考が面白くて死ぬのが惜しかったの。よろしくね」
そう言うと、じゃあね、の一言で一方的に話が終わってしまった。
相変わらずなのは神様も同じである。
目が覚めて、全く寝た気にならないのが、この夢の悪いところだ。
それにしても、神様のお気に入りに入っていたのは驚いた。他にも転生者などで遊んでいるとは聞いていたが、てっきり玩具扱いされていると思っていた。
ただ、自由にさせてくれる、というのは有り難い。
神の僕となって働けと言われるとちょっと嫌だが、不干渉システムがあると言っていたのでそうしたことはなさそうだ。ホッとした。
それにしても転生者か。
どんな子だろうか。
あと、神子と勇者の卵とやらは、この世界の魂だと言っていた。いろいろ情報が出てきて、興味深い。
彼等と出会う機会はないだろうが、神様の観察対象となっていることから、噂が耳に入れば笑ってしまいそうだ。
一頻り思い起こし、まだいつもの目覚める時間には30分ほどあるなと思って目を瞑った。
翌朝、シウにしては大変珍しく、大寝坊したのだった。
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