595 コカトリス捕獲とハーレム形成、山菜
転移して、道中でコカトリスと出会った岩場へ行くと、あっさりと群れに遭遇した。
魔獣として当然のように戦闘的なので、シウを見付けるなり挑んでくる。が、空間壁で取り囲んで動きを封じた。
念のため地面に大きな穴を開け、そこに空間壁ごと移動させて放り込んだ。
息が出来るように穴を開けた空間壁を取り付け、固定魔法で貼り付けたら一時場を離れる。
気になるものはとことん気になるので、岩塩山とやらがあった場所に行ってみたのだ。
今度は西へ数百キロ。
森の風景が一変して、生えている木々の種類も違っていた。鬱蒼と生い茂り、誰の手も入っていないようだった。冒険者さえ来ないようだ。
全方位探索を強化していたら、火山方面に大きな存在を感じた。もしかしたら古代竜かもしれないなと思って、気配を消して移動する。
時折、地面に触れてその土地の鑑定を続けてみたが、岩塩山らしき名残はどこにもなかった。
「まさか、地形ごと変わったのかな」
有り得るなあと、以前見た遺跡を思い出して溜息を漏らした。
古代竜ぐらいなら、ああしたこともできそうで怖い。
その遺跡では、街がまるごとひっくり返っていたのだ。まるで玉子焼きを作るかのごとくに逆さとなって。
「……これ以上、近付くの止めようかな」
ガルエラドがいるならともかく、シウ単体だと見つかったらまずいかもしれない。
慌てて転移して、捕えたコカトリスのところまで戻った。
しかし、となると暇である。
戻っちゃうにしても時間が早すぎる。ふと、不毛の大地に視線が向かった。
「でもなー。こっちも行っちゃダメって言われてるし」
感覚転移だけだと、上手く鑑定できないのだ。実際に行ってみたいが、ガルエラドの口ぶりでは許してもらえそうにない。
仕方ないので、周辺の探索でもして良い獲物がないか時間潰しをしようと決めた。
思い切り狩りをした後は、久しぶりにシウとフェレスだけでの泊まり準備だ。
土属性魔法を使って四阿を作り、内側にテントを張る。
「あ、ガルがいないんだから小屋を出しても良かったんだ!」
あまりとんでもないことをするとガルエラドに呆れられるので、ほどほどの所にしているシウだ。それに、シウは小屋だと言っているが、彼にとっては十分に住居となりうる大きさらしい。旅の間は控えていたが、今はいないのだから出せば良かった。
「ま、いっか」
どのみち居心地は悪くない。テントの中には布団を敷いているし、四阿自体は頑丈で結界も張られている。
「にゃにゃー」
いつもより、フェレスが甘えてくるのも2人だけだと分かっているからだ。
思う存分可愛がってその夜は早くに寝た。
風の日になり、午前中は周辺の見回りで得た情報から薬草など取れるだけ取った。
昼には帰り支度を始め、ご飯を食べてからコカトリスを1匹ずつ縄で縛る。嘴には、同じコカトリスの嘴から作った石化解消の薬を使ってカバーを作り、嵌めてみた。
「鑑定してみると、っと、よし」
ちゃんと効果が出ていた。ずっと付けているとストレスが溜まるだろうから、飼っている間は外すべきだろうが、移動はこれで可能だ。万が一触れても石化される心配もない。
そのまま重力魔法で重さを軽減して、フェレスの騎乗帯に両側4匹ずつ取り付けた。
飛んでもみても大丈夫なようだったから、そのまま少し飛んでもらってから、里の近くの森まで転移して戻った。
不自然さがないよう、森の中は普通に飛んで移動だ。
途中、竜戦士にも出会って驚かれたが、それはコカトリスを8匹も捕まえて来たからだろう。
そうして、夕方にはほくほく顔で竜人族の里へ戻った。
早速、畑の近くに柵を作ってコカトリスを放し飼いにした。
彼等の為に寝心地の良さそうな小屋も岩を使って作る。狭い場所が好きな彼等なので、住処に近い格好で、かつ、居心地良く寝られるよう下草も敷いてあげた。
人が近付くと戦闘的になって暴れるものの、離れて様子を見ていたらちゃんと岩小屋に入っていた。
ハーレムを作るらしいので今いるのも雄1匹と雌7匹だ。
となれば、卵も期待できる。
様子を見ていた竜戦士達も楽しみだと、わくわく顔で見守っていた。
夜には女達に混じって、シウも晩ご飯を作った。
「昨日はいなかったでしょ? だからいつもの肉料理と、見よう見まねで作った山菜炒めしかなくてさ。男どもときたらぶーぶー、煩いんだよ」
「あんまり煩いんで、肉以外も持って帰りな! って返してやったら、落ち込んでたよ」
ははは! と豪快に笑っている。
「で、あんたが戻ったら習おうと思ってさ。ふーん、そこで塩を振るんだ?」
「山菜は灰汁が強いからね」
今回、ガルエラドはアクリダの街でお土産として買えるだけのものを持って帰ってきていたが、追っ手を攪乱する意味もあって食糧関係はシウが別個に買い出しを済ませている。
保存が利くものとして、蕎麦や小麦にジャガイモなどを用意していたが、提供できる新鮮な葉物野菜は一昨日ので終わりということにしていた。
どのみち、シウがいなくなれば食べられないのだし、あれは畑をする上でのパフォーマンス用だ。
これから冬を迎える竜人族の里では、野菜をどうやって得るかを覚えてほしかった。
「野菜の保存も可能だけど、新鮮なものには栄養も豊富だからね。冬でも山菜を見付けて食べてね。畑が上手くいけば野菜も得られるんだけどね」
「分かったよ。あ、そうだ、熊の肝臓も良いんだね?」
「うん。ただし、変なぶつぶつがあったら食べちゃダメだよ。病気だから」
「分かった。明日、一緒に森へ入ってくれるんだろ? 楽しみだよ」
ついでに狩りの様子も見せてもらうことになっていた。
この里ではヒュブリーデケングルという魔獣を良く狩るそうなのだが、これはカンガルー型魔獣で、なんとその腹袋が簡易魔法袋となるのだ。外貨を稼ぐのにも役立っていて、毛皮も売れるから里では重宝しているそうだ。
が、その恩恵を一切与ってない。
折角の簡易魔法袋なのだから利用しない手はなく、生産魔法持ちなら加工ができるので、これを保存袋として使ってもらうことにしていた。
その為、狩りには生産魔法持ちの人にも付いて行ってもらうことになっている。
「へえ、そうやって混ぜご飯にするのか。けど、なんだかツンとするね」
「腐ってないか?」
「これは酢って言うんだよ。体にも良いんだけど、何より殺菌効果があってね、食中毒を防ぐのに向いているんだ」
「しょくちゅうどく、ってなんだい?」
「夏場に間違って腐りかけものを食べたりしてお腹壊したことない?」
「ある!」
「あるね、あるある」
皆が頷いたのだが、腐りかけのものを食べたことに対してなのか、ちょっぴり不安になった。
「この里ではベリーを使ってお酒を造るんだってね。そしたら酢も作れるから、料理に使うと良いよ。ベリー酢だと甘くて、香り高いものができるから、水と割って冷たくして夏場に飲んでも美味しいよ」
「へえ! そうか」
山菜寿司を作り、薄揚げを甘辛く煮て詰めた。お稲荷さんだ。
豆腐の作り方も教えるつもりだったが、豆の加工までは程遠い。今はこういうものがあることだけ教えておく。
ジャガイモ料理も人気があった。
秋になると山芋を食べることもあるそうなので、同じようなものだと説明したら納得していた。
油は獣のものを使っていたが、森に油の木があり、これを使うよう勧めた。
油の木とはそのままで、樹液が油そのものなのだ。ただし、山火事の際には広げてしまうので、森にすむ者には嫌われている。
竜人族も、これを見付けたら倒してしまって、遠くへ運んでいたそうだ。
「勿体ない。オリーブオイルよりは劣るけど、充分良い油になるんだよ!」
扱いが面倒だが、搾れば良いだけなので木属性魔法が使えたら問題ない。
劣化もし辛いので、万能な油なのだ。
まあ、確かに作業中はべたべたして気持ち悪いけれど。
「ガラス瓶に入れておくと良いよ。ガラスの素になる砂がなさそうだから、あとで地中から抽出して多めに作っておくね」
「そんなこと、できるの?」
「土属性と生産魔法持ちだから。こういうの、得意なんだ」
「あんた、本当に便利な子だね。うちの子になんない?」
「ウェールさん、結婚してるの?」
「ううん。だからほら、氏族の子に。あ、でも、うち、マルティス家だからなー。ガルエラドが怒るかあ」
「ガルエラドは違うんだ?」
「そうだよ。あれ、聞いてない? ガルエラドはサートゥルニー家さ。他にソーリス、ルーナエ、メルクリイ、ヨウィス、ウェネリスってあるんだ。それぞれの家で、肌の色や髪の色も違うんだよ」
「へえ、そうなんだ」
実際この里に来て、見た目は同じ角の生えた竜人族なのに、肌の色が違うと思っていたが、各家によって違うのだとは知らなかった。
「子供はどっちかになるんだよ。ハーフっていうのにはならないのが、特徴だね」
「ハイエルフの場合はハーフになるのにね」
「なあ、不思議だよ。あれかな、やっぱり、種族が違うからかな? ハイエルフと人族、竜人族ってのは、完全に違う種族なのかもよ」
「でも、子供はできるんだよねえ」
「そりゃそうだ。神様は面白いことをやりなさる。はっはっは!」
そこ、笑うところだろうか、と思ったがシウは黙ってウェールの楽しげな様子を見ていた。
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