第十五章 竜人族の秘密の里

587 経過説明と秘密の里への道行準備




 草枯れの月の最後の週末にはお菓子の大会が開かれた。

 全国菓子博覧会と銘打ってはいたが、宣伝時間が短かったため、ほぼルシエラ王都内だけの参加者となった。観客も王都と周辺の街からだったが、大会は大いに盛り上がった。

 内容も、各種部門に分けての一般客の投票形式であったので、観客参加型として気を引いたのだろう。

 ちなみに、装飾部門ではブラード家のリランが「お菓子の家」で優勝を飾った。堂々の一位で、横取りの特許登録をしようとした有名店のパティシエは上位にも入っていなかった。

 初回だったので大会には失敗も多々あり、今後の開催に向けての課題が残った。盛り上がったことは確かなので、次回に生かす為にも各部署が協力し合って企画を立てようと、終わったと同時に懇親会を開いていた。何故シウが知っているのかと言うと、シェイラに無理矢理連れて行かれたからだ。


 あとは、シウが地味に14歳の誕生日を迎えたことなどもあったが、取り立てて特別なことはなかった。成人するでもないし、そんなものだ。シウも忘れていたぐらいだった。

 それよりも、早めに休暇届を出していたのだが、ヴァルネリやレイナルドから引きとめられて、大変な1ヶ月だった。

 ヴァルネリからは、冬休みの長い1ヶ月も話が出来ないのに更に2週間も前倒しにするなんて、という抗議の声。

 レイナルドは、文化祭で一般客に受けた例のアスレチック競技が忘れられないらしく、シウを巻き込んで大がかりな施設設置を目論んでのことだった。

 レイナルドの方は、ロワルの魔法学院での轍を踏みたくなかったので、やりたいならまず自分で企画書を立てて学校側に通してくださいと伝え、後は相手にしなかった。

 ヴァルネリのことは無視だ。優秀な秘書がついているのでシウが無視さえできたら、後はどこかへ連れて行ってくれるのだった。


 他には、リュカが師事する相手を見つけた。

 実際に学ぶのは年明けからだが、何度か面会を繰り返し、結局リュカが「怖い顔の人」と言った男性に決まった。

 弟子の子供も10人ほどいるらしく、半数が孤児院から来ているようだ。

 その子供達ともリュカを含めて会ってみたが、差別を受けることはなかった。というのも、過去に孤児院にハーフの子がいたようだ。とても優しい子で年下の子達の面倒をよく見てくれたらしく、そのイメージがあるからか特に思うところはないようだ。

 残り半分の子供達も、師匠が平等に教育するせいかハーフということに対しては気にしていないようだった。

 リュカも早く行きたいと言えるほどだったので、ロランド他、ブラード家では喜んだものだった。


 そんな日々を過ごし、この年最後の月となった。





 山眠るの月の最初の週、火の日に、シウはルシエラ王都を出発した。

 目的地はガルエラドの里である。

 その前に彼等と合流すべく、転移した。

 向かったのはオスカリウス領のアクリダだった。里に近いという理由と、迷宮があるため多種多様な種族がいるので見つかり難い場所だからだそうだ。

 転移はしたが、直接街の中へ入るわけにはいかないので、エメ街道沿いの森の中へまず飛んだ。

 そこからフェレスに乗ってアクリダへ向かう。

 何度かここへ来たが、飛竜でばかりだったので街道から入るのは初めてだ。


 アクリダは出入りするだけなら税金は取られなかった。馬車などは止められており、商人だといくらかの手数料が要るようだった。

 元々、迷宮で儲けを出している街だから、出入りに税を掛けていない。

 それよりも迷宮に潜る冒険者を管理している方が楽なのだろう。

 街へ入ると、賑やかな声があちこちから聞こえてくる。

 門前なので冒険者目当ての客引きだったりするようだ。

 フェレスから降りて歩いていると、何度か声を掛けられたものの特別しつこいというほどもなかった。

 以前泊まったことのある迷宮入口前の宿を通り過ぎ、少し細い路地を抜け、連絡をもらっていた場所まで進んだ。

 幾人かの視線を感じるが、治安は悪くないアクリダだ。単純に騎獣を連れた子供の珍しさだろう。格好もルシエラ王都で過ごすような高級生地の服など着ていないので、パッと見は冒険者の子にしか見えないはずだった。

「ここかな?」

 蜥蜴亭という名の小さな宿に到着した。

 中を覗くと、薄暗く、狭い。

「……客かい?」

「待ち合わせです。ここに来るよう言われていたので」

「ふん。お前さんか。こっちへ来な」

 カウンター内にいた40代の男性がぐるっと回って近くに来た。蜥蜴人と人族のハーフらしく、耳の先に独特の形が出ている。尻尾は退化しているのか見えなかった。

「この階段を下りて、右側の部屋へ入るんだ。床を二度、それから一度、最後に三度鳴らすと、合図が来る。そうしたら床の下に階段が繋がるから、床を持ちあげて降りな」

「はい。ありがとう。ええと、チップは?」

「要らん。子供から取るかよ」

 そう言って、チラッとシウの抱えるブランカと、肩の上でおとなしくしているクロを見た。

 どうやら、幼獣を連れている子供が気になるらしい。顔色は変わっていなかったが、どこか柔らかくなった。ついでにフェレスへも目を向けて、今度こそ目の色を柔らかく変えていた。


 言われた通りに合図すると、床下からガコンという音がしたので床を引っぺがした。

 階段があって降りていくと少し広めの踊り場があって、扉が出てきた。1階分下のようだ。階段はまだ続いているようだが全方位探索の結果では部屋と言うよりも逃げ道のようだった。何かあった時に使うのだろう。

 扉を叩こうとしたら、先に開いた。

「来たか、シウ」

「久しぶりだね、ガル。アウルは?」

「奥で寝ている。ここまで長旅だったのでな」

 中に入ると、こぢんまりとしているが綺麗に片付けられた部屋があり、続き部屋もあった。自炊できるように台所や居間もある。奥に、逃げ道用の穴が続いているのが分かった。

「上の、カウンター内にいた人、協力者?」

「そうだ。無愛想だが、竜人族に恩を感じて力を貸してくれる」

「そうなんだ」

 竜人族はあちこちに恩を売っているようだ。それを律儀に覚えて返そうとする人もいて、情けは人のためならずを地で行っている。

「こうした仕掛けも、ヤンドが作ってくれてな」

 ヤンドというのがマスターの名前らしい。仕掛けと言って見せてくれたのは紐で、引っ張ると先程の部屋の床下に階段が現れるという仕組みらしい。床を叩いた音は、集音管によって伝わったようだ。

 今のところ魔法による仕掛けは見当たらないが、むしろ追われている彼等が魔法を使わないことに意義があるのかもしれない。

 はたして、ガルエラドに質問して返ってきた答えは。

「そうだ。ハイエルフの魔法探索に引っかからないようにしている。我やアウルの魔力を覚えられていたら困るのでな。案外こうした原始的な手法が役に立つ」

「ヤンドさんもハイエルフから逃げた経験があるの?」

「ハイエルフに家族を殺されたらしい。彼等を見たかもしれないという可能性のためだけに、な。ヤンド自身も狙われたが、隠れ忍んで助かったのだ。その際にどうやら魔術式を探知する魔法を、ハイエルフ達が使っていたようだ。当時は子供で分からなかったが大人になって調べるうちに理解したらしい」

「……ひどい話だね」

 逃げ回り死にかけていた子供のヤンドを、通りがかった竜人族の戦士が見つけて助け、そのまま連れて帰ったそうだ。

 今のガルエラドと同じだ。

 竜人族は心優しい一族なのである。

「でも、そうか。魔術式を探知するんだね」

 難しそうな魔法だ。もちろん、あらゆるものの魔術式を追えるはずはない。追いたい相手、主に同族だろう相手の使用した魔術式を探知する。どうするのかは分からない。だとしても膨大な力を必要とするに違いない。

 どれほどのスキルなんだろうと思案していたら、ガルエラドからふっと気の抜けた空気が流れてきた。顔を上げると、穏やかな目でシウを見ている。

 子供を見るような優しい目だ。彼にとっては自分も子供なのだろうかと思うと、少し恥ずかしい気がしてしまうシウだった。



 それからも2人で話をしていたら、奥の部屋からごそごそと物音がした。ピクッとフェレスが耳を動かし、遊んでいたクロとブランカもサッと奥の部屋を見る。

 アウレアが起きたようだ。ごそごそ着替える音がして、とてとてと覚束ない足取りでやってくる。

「あ! シウ! フェレもー!!」

 扉を開けてシウ達を見付けると、満面の笑みで走り寄ってきた。その足元にはちゃんと、シウが作った≪鑑定追跡解除≫付きの靴がある。言いつけを守って、起きたらすぐ履いているようだ。

「おはよう、アウル」

「おはよう、シウ。フェレも、ブランカも、クロも、おはよー」

「にゃ」

 尻尾を犬のように振りながら、フェレスはアウレアに纏わりついた。クロやブランカもトトトと近付いて匂いを嗅いだりしている。

 久しぶりに会うので、誰だったっけ、といった様子だ。

 でもすぐに、アウレアの柔らかいオーラに引きつけられて、好き! となっている。

 希少獣はこうした素直で柔らかいオーラを持つ者――子供に多いが――、そうしたものに惹かれる。同じように澄んだ心を持っているからかもしれない。


 部屋はたちまち、子供達の騒がしさでいっぱいとなった。






**********

説明臭くなると思ってかなり端折ってましたが、元に戻しました。

でもまだ意味が伝わっていない気がします。

再度、大幅な修正をかける予定です。下手くそで申し訳ないです。


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