502 取引成立、フェレスの訓練、友人と再会




 カンザと取引が成立した。

 今回の分は、食べられる食材を教えてくれたと言うことでタダにしてもらい、次回からシウにだけ安く売ってくれるとまで約束してくれた。

 シウが、これは高級品だと言ったことも、良かったようだ。

「成長するのにこのへんだと1年から2年かかると思う。養殖も視野に入れて考えないと、いずれは乱獲されて全滅する可能性があるので、今のうちから漁業権の強化も含めて規則作りをした方が良いです」

「そこまで?」

 案内人の男が大袈裟な、という顔をしたけれど、カンザは何度も頷いていた。

「これは、売れる。タロー殿の言うとおりじゃ。わしら素潜り漁の組合でこの財産を守らんとならん。早速今晩、寄り合いで話すつもりじゃ。スリザ、おぬし早めに皆へ声掛けをしておいてくれ」

「分かった、爺様。あ、タロー様、ごちそうさまでした! 美味しかったー」

 最後に小声で、疑ってごめんな! と言って、彼は馬車に乗って集落へ帰っていった。

「まだまだ沢山育っていたけど、それに甘んじていたらあっという間に種が消える可能性もあるから、気を付けてください」

「分かった」

 価格を高め設定にすることで希少な商品であることをアピールできるし、そうして数を守らないといけないということだ。

 最初は味見などで示していくしかないが、すでに周辺の店では騒ぎになっているので大丈夫だろう。

 あとは鮮度の問題だ。うにの加工方法について教え、生で食べない場合は茹でて保存し、パスタに和えたりすると良いと教えた。

 とにかく、これからじっくり吟味して行けば良い。

「くれぐれも毒のあるものと間違えないようにしてくださいね」

「うむ。何から何までありがとう」

 最後に、食べられなかった男が可哀想だったのでひとつ取り出して生で渡した。海の塩味だけだったけれど、彼は感動のあまり震えていた。



 午後は大量に買った食材をまた処理したり調理したりと忙しく過ごした。

 夕方にはスタン爺さんとドミトルにうにの刺身を、エミナには万が一を恐れて生ものは禁止だと言ってあるので和風パスタにしてうに料理を作ってあげた。

「わーい」

 刺身を食べられなかったエミナだが、さほど生ものへの執着心はないらしく、シウの作るパスタを嬉しそうに頬張っていた。



 翌日、風の日はコルディス湖へと転移した。

 午前中は森の中へ入り、採取をしたり狩りをして過ごす。

 昼ご飯の後はフェレスとの訓練だ。自然と使っているらしい魔法を、考えて使えるように指導していく。それが節約につながり、彼を強化するポイントにもなるからだ。

 フェレスは目の前に「早く飛べる、強くなる」という人参をぶら下げているからか、張り切ってシウの講義を聞いていた。

 飽きてきた頃には実地訓練を挟み、暑くなってきた昼過ぎ頃にはコルディス湖で泳ぎもした。

 クロは桶に入らずとも泳げるようになり、ブランカはまだ溺れてるようにしか見えないが、1人で水に入ろうと試みていた。

 心配性なのはシウよりフェレスで、ハラハラしながら2頭の周りで犬掻きしていた。その波によってクロがひっくり返り、ブランカは自重で沈んで行ったので余計パニックになりかけていた。

「下から掬い上げるように浮上したら良いんだよ」

「にゃ!」

 あ、そうか、と言わんばかりに慌てて潜水して2頭を助けていた。


 夕方にはクロもブランカも遊び疲れて眠ってしまったので小屋の中に入れて結界を張り、感覚転移で監視しつつ、シウ達は外で訓練を続けた。

 フェレスは最初こそ節約の意味が分からずに戸惑っていたものの、コツを掴み始めるとそこは希少獣と呼ばれる種族だけあってものすごい吸収力で覚え始めた。

 スピードアップに繋がる風属性魔法の使い方も上手になってきた。

 更には身体強化の方法も、夜には使えるようになった。

「あと2日か3日ぐらいで全体的に仕上げられるかもね。その後は毎日が訓練あるのみ、だよ」

「にゃ!」

 勉強した結果が出ているので本人も嬉しいらしく、張り切っていた。

「にゃにゃにゃにゃ!」

 早く明日にならないかなーと可愛いことを言っていた。



 翌日、光の日はガルエラドと約束していたので彼等と会うことにした。

 訓練できないの? とフェレスは落ち込んでいたけれど、会いに行く場所が森の中なので大丈夫だよと慰めてあげた。

 転移したのはウィリディスマリス山脈で、フェデラル国となる。その山脈のシュタイバーン側に近い場所で待ち合わせていた。

 3ヶ月半ぶりに会うが、とても懐かしい気がした。

「シウー!」

 しかし、アウレアはちゃんと覚えていてくれたようだ。

 ガルエラドの腕に抱かれたまま手を伸ばしてきた。フェレスから降りて、すぐアウレアと向き合う。

「アウル、久しぶりだね」

「うん!」

 きゃっきゃと嬉しそうに笑ってシウに抱き着くと、そのまま抱っこをせがまれたのでガルエラドから受け取った。代わりにガルエラドには背中の子達を預かってもらった。

「卵石が孵ったのか」

「うん。こっちがクロで、そっちがブランカだよ」

「きゅぃっ」

「みゃっ」

 一丁前に挨拶しているらしく、甲高く鳴いていた。それを聞いてアウレアが、はたと動きを止めた。おそるおそる振り返って、ガルエラドの抱える袋の中を覗き、ぱあっと顔を輝かせた。

「とりたん! ねこたん!」

「そうだよ。仲良くしてあげてね」

「うん!」

 興味津々なのでフェレスの横に立たせ、後は子供達で(フェレスは違うけれど)遊ばせることにした。

 それらを眺めながら、シウはガルエラドと話をした。

「通信では分からないことだな」

「通信魔法って用件しか言わないものね」

 電話と違って長々話すものでもないので、ついつい用件のみになってしまうのだ。

 たとえば、今回会うまでの間に通信した内容は、ハイエルフ対策の魔道具ができたから今度説明する、というような重要内容だったりする。となると、卵石が孵ったんだー、という軽い話は挟めなくなる。

「使い方を実際に目で見てもらうまでは心配でしようがなかったよ」

「ふむ、だが、使い方ぐらいは分かるぞ」

 説明書も書いてあったが、魔法袋に移動させただけだったのでそこはやはり気になったのだ。

「試用すべきというので、竜の大繁殖期対策で幾つか使ってみたが、特に問題などはなかった。むしろ素晴らしい出来栄えに驚いた」

「そう? だったら良いんだけど」

 砂漠竜相手にも≪魔力吸収≫≪指定虫≫を使ったそうだが上手くいったらしい。竜相手に使えるならハイエルフにも可能だろう。

「≪魔素吸収≫は使っておらぬが、≪超強力結界ゲル≫はアウルにちょうど良いな」

「隠れさせておくには良いだろうね」

「普段は簡易結界でも可能であろうが、竜を相手にしているときはな」

「あ、ついでにこの間作ったのがあるから渡しておくよ」

 ずっと夢に見てハイエルフの血視魔法から逃れる術について考えていたのだ。

「これ、アウルに履かせて。靴の底に仕込んでいるから」

 ≪鑑定追跡解除≫という名にしたが、地脈を使って血族を探し当てる壮大な魔法を、ようは錯覚させるものだ。そこに存在したことを隠すとでもいうのか、見えなくさせる。

「幾つか作ってみた。大きさもある程度伸縮するようにしてあるけど、大きくなったらまた作り直すね。こっちは替えの靴。ブーツとサンダルと、三種類用意したから」

「……相変わらず、シウはマメなことだ」

 若干呆れているような声音だったが、その中には感謝の気持ちも含まれていた。


 ガルエラドはウィリディスマリスの地でギータ、首長竜の大繁殖期をコントロールしている最中だった。

 それでなくとも深い山々なので誰も入らないが、麓の村でさえほんの少しの距離も踏み出せないほど、山が騒いでいると分かるらしい。

 あまり騒がしいと領などから調査隊、あるいは討伐隊も出てくるので、森を荒らされたくない種族のため、対応に来たそうだ。

「ギータは見たことないなあ」

「では、また共に手伝ってくれるか? 間引きも必要なので、討伐した竜はシウのものとすれば良い」

「いいの?」

「我にあっても、使い道がない」

 1人で解体はできないと、興味なさげだった。使える部位も、街に降りて換金しなくてはならず、あまり街に出たくないガルエラドとしては避けたいところらしい。

 しかも今はシウが食事を用意しているので、アウレアの食糧事情さえなんとかなれば、ガルエラド自身はずっと森の中でも平気なのだ。

「じゃあ、有り難く。代わりに欲しいものがあったら言ってね」

「ふむ。ではまたアウルのために何か」

「分かった。食糧は大量にまた移動してあるから、あとで食べてみてね。さっきの靴に合わせて服も作ったし。あ、ガルの分も服とか消耗品用意してるから」

 ということで、話も終わり、子供達はフェレスに任せて首長竜の調整に行くことにした。

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