500 友達と森へ、ロワルをぶらり散策
木の日はリグドールに誘われて森へ行くことにした。
王都の中央門にはすでに騎獣を借りて待っているリグドールとレオンがいた。
「レオン、久しぶりだねー。背が伸びた?」
「ああ。最近、毎晩体がみしみし言ってるんだ」
「いいなー」
「……ええと、悪いな」
レオンらしくもなく同情の目で見られてしまった。自分から切り出した手前、何とも言えない変な空気が流れたけれど、リグドールが間を取り持ってくれた。
「まあま、誰にだって成長期はあるって。さあ、行こうぜ」
気楽な様子に、レオンともども笑い合って王都を出た。
門を出るとすぐさま騎獣に乗って森へ向かう。フェレスはウキウキしているらしくて尻尾がずっと揺れていた。
クロはシウの肩の上、ブランカはシウに背負われて景色を眺めているようだった。
「それにしても、希少獣3頭ってすごいな」
「うん。育てるの大変だよー。今は特にね。動き回るから」
「そうか。まだ調教もできないだろうしな」
「そうなんだ。フェレスがいる分、助かっているかな。ね、フェレス」
「にゃ!」
兄として子守りをよく頑張ってくれている。本人は兄というより、第一の子分として頑張っているそうだが。
「フェレスも立派になったよな。成獣になりたての頃よりずっと大人らしくなってきたし、風格がある」
「そう? 良かったね、フェレス。レオンが褒めてくれたよ」
「にゃ、にゃにゃにゃ!」
嬉しいらしくて自慢げにツンとおすまし顔なのだが、尻尾は盛大に揺れている。それを見てリグドールが笑っていた。
森の中では危なげなく移動し、奥深くに入ると騎獣から降りて進んだ。
彼等が選んだ騎獣はブーバルスで中型のため、奥深くとも連れて歩ける。
以前はドラコエクウスなどの大型種だったから途中で置いていくことにしたが、鹿型のブーバルスは森の中でも移動が可能だ。こうしたことも考えているようだった。
時折出てくる小型魔獣を躱したり、倒したりしながら、森の奥地へ進むと薬草の群生地が出てきた。
以前シウが教えた穴場とは違っており、レオンが独自に探したところだと言った。
「1人だとここまでは来ないんだ。何かあった時に困るからさ」
「うん。さすがだね、レオン」
森歩きも上達しており、冒険者ランクが上がっているのも頷けた。
彼は成人しているし、もうランクはシウより上だ。
「リグも時々助っ人に来てくれるからな」
「何言ってんだか。俺が助けてもらってるのに。森の事もいろいろ教わってるんだ。足手まといにならないよう、頑張ってるんだけど、やっぱりまだまだだよ」
「リグも歩き方が様になってたけどな」
「そりゃあ、レオンや、それこそシウの真似してるもん。教えてもらったこともちゃんと復習してるぞ」
おー、と2人して感動していたら照れたのかそっぽを向かれた。
それからは採取をしたり、魔獣でも金になりそうなものは倒して素材を剥ぎ取るなど、素早く作業を行っていた。
そして昼を過ぎてから少しして、早めに帰り支度を始めた。
このへんも上級者の冒険者から教わっているようで、素早い。
「シウが合宿してくれた時も思ったけど、冒険者ってのは行動が理に適っているよな。やることすべてに意味があるし、無駄なことはない。荷物持ちとして上級者のパーティーに入れてもらうことがあるんだけど、目で見て盗んでるんだ」
「うん。良い上級者と出会ったんだね」
「まあな」
それをリグドールや、孤児院の仲間たちにも教えているそうだ。
見習いの子達には付き添って、森の端で勉強させているとか。
「俺達の時にはシウがいたけどさ。面倒見切れる自信がないから、いつでも逃げられる場所で訓練してるんだ。中には逸る奴もいるんだけど、懇々と言い聞かせてる。俺もこんな感じだったのかなーって思いながら」
「それ、年寄りの発言だろ」
リグドールに突っ込まれてレオンは笑っていた。
変われば変わるもので、レオンの笑顔を見ていたらシウも突っ込みたくなった。
「昔はレオン、突っ張ってたのにね」
「言うなっての」
「いーや、言うぞ、俺は」
リグドールに火が付いて、からかい始めた。その間も2人とも索敵はしていた。このへんが成長した証なのだろうと思う。
気づかぬうちに、少年達は大人になっていくようだ。
金の日は朝からカッサの騎獣屋へ顔を出し、騎獣達のお世話をしたり遊んだりして過ごした。
昼前にはドランの店へ行き、ご飯を頂いた。新しいメニューも増えており、そのどれもを味見させてもらったがご飯に良く合うおかずだった。工夫もあって、男性のみならず女性の客も多いようだ。
店の拡張も考えていると言っていた。
「このチーズがかかったハンバーグも美味しいよね」
「ええ、女性に人気があるんです」
女の子はどの世界でもチーズが好きらしい。ふと、思い出してドランに声を掛けた。
「これさ、ハンバーグの中に入れてみたらどうかな」
「え?」
「割った時にとろーり流れ出てくると、美味しさが見た目にも表現されてて良さそう、って思ったんだ」
テレビCMにあったそれを美味しそうだなあと思って眺めていたことがある。
「……中から、とろーりと、か」
ドランは、ふむと思案して、よし作ってみると張り切り始めた。
他にもアッサリ系のレシピとして魚の干物の話をし、混み始める昼時に店を後にした。
公園を歩いているとまだ平日なので子供は少なかったが、昼過ぎから徐々に制服姿の子やローブを着た子が歩いているのを見た。
買い食いしたりして中央区を歩いているのは庶民だろう。
シウも屋台で飲み物を買って、休んだ。
フェレスにほとんどをあげて、次にステルラへ顔を出した。
ウェイトレスの中にはシウを知らない者もいたようだが、すぐに店長がやってきて良い席を確保してくれた。
「テラス席を拡大したんだ、素敵だね」
「ありがとうございます」
たまーにレシピを送ったりしているが、今では店自体も独自のレシピを作っている。
定番のものは初期のシウが作ったものもあるが、季節の商品というのは毎回アレンジしないと客に飽きられるのだと笑っていた。
パティシエのお勧めをいただいて、少しだけ話をして店を出た。
王都も小さなところでは変わっているようだった。
夕方早めに帰宅すると、今度は市場で仕入れたものを調理したり下拵えするなどに時間を費やした。
晩ご飯はやはりシウが作り、さっぱりしたものをと思って和風パスタなどを出してみた。これにはエミナが飛びついて喜んでいた。
肉食系の彼女だが、妊娠してから少し舌が変化したようだ。ご飯を好んだのもそうした理由かもしれなかった。
夜は研究などの時間にした。
記録庫にある本を読んだりして、気になっていた事柄などの裏付けをしたり、課題として書類を作ったりした。
すっかり学校の課題を忘れていたので、こちらもさっさと片付けてしまう。
もちろん、フェレスのブラッシングは忘れていないし、クロとブランカを遊ばせることも欠かさない。
ただ、フェレスの時と違って、今はフェレス自身が遊び相手になってくれることもあり、てんてこ舞いとなるような忙しさはなかった。予想よりもずっとフェレスがお兄ちゃんとして頑張ってくれているのだ。
彼等が夕食後に騒がしくした後、スイッチが切れたように眠ってしまうので、その後がシウのプライベートな時間となる。
「やっぱり魔狂石の取り扱いは秘密にしておこう。でも、体内魔素を自ら循環させたり練れるなら、同じように効かない人もいるってことだよなあ」
昨日今日と、ひそかに練習していたので体内魔素を自在に動かせることが分かった。とはいえ、シウにとっては魔力量20だ。あまり頻繁に移動させても問題がある。魔力庫に蓋をしていないからおかしくならないが、蓋をしているとそれこそ魔力切れを起こして体の一部がどうかなる可能性もあった。
ただ、体内魔素を練ることが出来るようになり、試しに魔力庫に蓋をした上で結界を張ってから魔狂石を取り出してみたら、違和感なく、それこそフェレスのように魔法を自然と使えることがわかった。多少、コントロールは必要だけれど、人間でも可能だというわけだ。
「となると、魔狂石が効かない人対策も必要なのか」
狩人の里の成り立ちや仕組みを考えると、あそこはやはり突破されてはいけない。
無茶を言い出す可能性のあるアポストルスのハイエルフ一族のことも心配だ。
前に、ククールスがアポストルスの仕事絡みから逃げてきたと言っていたことがあり、気になっていたのだ。また狩人の里へ行くかもしれない、というような内容だったらしい。
狩人の里には知らせており、またのらりくらりと躱すつもりだそうだが、気になる。
いざという時、ハイエルフのみならず、排除したい相手を最初から入れないようにする仕組みがあればと思う。
今のところ、案内人がいないと森の中は自由に歩けないようだったが、対策は考えておくに越したことはない。
週末頃にはガルエラド達と合流する予定で、彼とも話し合ってみようと思った。
他にも脳内で夏休みの間の計画を立てていたら、自然と眠くなってきた。
隣りを見るとベッドの横にフェレスがお気に入りの毛布に包まって寝ている。シウの頭の横には籠があって、そこにクロとブランカもすやすや寝ていた。
3頭を眺めていると暖かい気持ちになる。
シウは面倒な考え事を放棄して、暖かい世界へ飛び込んだ。
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