476 予定消化、計画書込、生徒の引率




 光の日になると、シウはやることがいっぱいで次々と用事を片付けた。

 オスカリウス家のシリルに連絡を取って、結果を伝え、戒厳令をしいてもらったり。

 シリルには一緒に遊びに行くロワルの友人についても話をした。

 ブラード家とも打ち合わせだ。

 いろいろ、工作しないといけないので、屋敷の使用人の一部はすでに地竜便でシュタイバーンへ出発している。来週末には飛竜便を使って向かう者もいた。

 手薄になるので、シウも屋敷の事を手伝ったりしたが、皆それぞれプロなのでほとんどやることもなかったが。


 午後はギルドへの挨拶回り、打ち合わせなどで忙しく過ごした。

 夕方にはおやつの作り置きのために市場で頼んでいたものを引き取りに行ったり、戻ってからは魔法を使って大量に作ったりと、充実した一日となった。



 週が明けて風薫る月も最終週となった。古代遺跡研究の面々は長い夏休みをどうするのか、そのことで話題が持ちきりだった。

 フロランはリオラルたちと共にソランダリ領にあるベルクヴェルクという遺跡へ潜るそうだ。避暑とか社交界という言葉は彼にはないようだった。

 アラバとトルカも行きたかったようだが、女性が長く行くわけにはいかないとご両親から許しを得られなかったため、ルシエラ王都で冒険者ギルドの仕事を受けたりして過ごすそうだ。

「魔獣魔物生態研究科のクラスメイトもそんなこと言ってたから、後で会ってみる? 一緒に行動したら楽だと思うけど」

「ほんと? 紹介して!」

「シウ、ありがとう。あと、ギルドへも付き添ってくれると嬉しいんだけど」

「あー、じゃ、今日の夕方でいい? 週末はもう移動してるから」

「分かったわ」

 約束して、脳内計画書に書き込んだが、この週の濃密なスケジュールに頭が痛くなってきた。


 午後の魔獣魔物生態研究クラスでも、夏休みのことでわいわいと騒いでいた。

 昼休みにアラバとトルカも連れていったので、一緒に昼ご飯も誘って食べた。

「うわー、こんなことしてたの? 教えてくれたら良いのに」

「ほんとよ。シウのご飯、美味しいんだもん」

「え、あなたたちも食べたことあるの?」

「ええ。以前合宿でね。カレー、美味しかったわー」

「今、食堂のメニューになってるわよね。わたしも好きなの」

 女性陣は意気投合したようで、まるで前からの友人のように楽しげだった。

 プルウィアも、遺跡と聞いて話に交ざっていた。

「アイスベルクなら行ったことがあるわよ。エルフの里に近いの」

「えー、すごいわね!」

「わたしたちもいつか行ってみたいの。そのためにも、資金と体力造りにね」

 ルフィナたちもギルドでの仕事はやってみたいからと、お互いに協力し合うことを約束していた。


 授業が終わると、シウが引率して女性陣、およびルイスやキヌアと共にギルドへやってきた。

 ルイスたちはペットの希少獣の餌代を稼ぐのと同時に、魔獣の勉強にもなると言われて興味を持ったようだ。

 がやがやとギルドへ入ると、タウロスとスキュイがいたのでクラスメイトの事を説明してお願いした。

「おう、いいぞ。シウの友達なら便宜を図ってやろう。解体の勉強もしたいなら、俺が引き受けてやる。上手にやれたら、賃金も出るしな」

「あの、内臓はいただけますか?」

「ああ。好きなだけ持っていけ。ありゃあ使い道がないんで、捨てるのがほとんどだ」

 それを聞いて、希少獣持ちはやったと声を上げた。

 シウはスキュイにちょうど良いと呼ばれて席を外した。

 飛行板のちょっとした傷やへこみなどの修正は、ギルドお抱えの職員が担当しているのだが、その人から相談を受けたようだった。

 職人数人を抱えて、ギルド内で武器などの補修や管理も行う彼等と生産魔法の使い方を教えたりし、万が一のことを想定して幾つかの予備も渡した。

 そこで話し込んでしまったせいで、広間に戻った時にはプルウィアたちの登録はもう終わっていた。

「あ、ごめん」

「いいのよ。シウの話もたくさん聞けたし、面白かったわ」

「ほんとほんと」

「シウって、冒険者としては有名なんだなあ。あの解体を見たら、分かるけどさ」

「講習も受けられるみたいだから、頑張るわね」

「うん。でも、くれぐれも気を付けてね」

「大丈夫よ。さっきもガスパロさんって人が、最初は引率についていってくれるって言ってくれたし」

「ああ、ガスパロか」

「遺跡合宿の時に会っているから、わたしたちは良い人だって分かってるしね」

 早速、そうした人脈が役に立ったようだ。

 ギルド内にぞくぞく帰ってくる冒険者たちも、シーカーの生徒が登録したと聞いて喜んでいるようだった。

 魔法を使える者がいると、助かる場面も多いのだ。

 初心者の生徒を連れ歩く大変さはあるが、教えてあげて、逆に魔法を使ってもらい、共存できるように手配しようとガスパロが率先して話をしてくれた。



 水の日はいつも通りの時間に生産の教室へ行き、黙々と物を作り続けた。

 レグロが来てから一度手を止めて、彼にはアマリアの事を少し話した。

「一緒にシュタイバーンへ遊びに行こうと誘ってみました。なんとかなるよう、周りで頑張ってみますね」

「おう、そうか。じゃあ、課題は、目の前の問題をぶち壊せるようなゴーレムを作れ、だ。そう言っておいてくれ」

「はい」

 具体的でないレグロの言葉は、彼なりの応援なのだろう。

 そのまままた、いつもの授業が始まった。

 シウも黙々と作業に戻った。


 午後は、転移して仕入れを強化した。

 夏休みの予定が忙しいだろうと思って、念のためにだ。

 自重しなかったので、ウンエントリヒでもヴァルムの港街でも、また来たと言われてしまったが、夏の食材が大量に手に入ったので構わない。

 以前買ったものもまだたくさん残っているが、夏は夏で、目新しい食材があるのでしようがない。

 きっといつか消費するだろうと信じて、不良在庫、もとい優良在庫を増やすシウだった。



 木の日は厨房で朝から料理に励み、並行してデザートの作り置きも大量に用意した。魔法って便利だなあと思う。

 とにかく自動でまとめて作れるし、なにより時短になる。しかも美味しい時間で止めておけるのだ。これは大変助かる。

 ところで、最近あまり隠していないせいで、魔法袋の中が相当大きいということだけは認識されているようだったが、誰もそのことには触れてこなかった。

 空気の読めるブラード家の使用人たちだった。


 午後になれば、作ったものを持って――魔法袋という名の空間庫に入れて――王城へ向かった。

 もう顔を覚えられているような気がしないでもないが、門兵が気さくに中へ入れてくれた。招待状もなく名乗るだけなのに、どうぞと当たり前のように通されるので逆に大丈夫かしら、とも思う。

 騎士に案内されていつものようにシュヴィークザームの部屋へ着くと、中から声がした。

 躊躇していたものの、立ち番の近衛兵がノックしてしまってドアを開ける。

「シウか!」

 ソファに寝転がっていたシュヴィークザームが、シウが来たと知ってパッと立ちあがった。顔は無表情だけれど、どこか嬉しそうだった。それがシウ本人なのか、お菓子目当てなのか分からないのがミソだ。

「あの、お客様じゃないの」

「よいよい。おぬしが来たら、最優先で通せと言ってあるのでな」

 道理で顔パスなわけだ。苦笑しつつ、室内の人に頭を下げる。誰かは分かっているが、直接会うのは初めてだ。

「ヴィダルとヴァリオだ。オリヴェルだけ会って、自分たちは会えないのかと駄々をこねたらしくてな。ヴィンちゃんに泣きついたのだ。すっかり大人になったくせに、心は子供のままよ」

「ちょ、シュヴィークザーム様!」

「ひどいです、その言い方は」

「幼い頃に遊んでやった恩も忘れて、我の尻尾に火をつけようとした悪がきどもだ。あれ以来、子供とは遊んでやらんことにしたのだ。そのせいで四番目から会っておらぬというのに、オリヴェルに拗ねるとは何事だと、叱っておったところよ」

 段々とこの王族のことが分かってきた。

 調子の良さそうな二番目の王子と、天真爛漫らしい三番目の王子がきゃっきゃと騒いで笑っている。すでに妻も子もいるような大人の男性だが、楽しそうだ。

「おっと、忘れるところだった。わたしはヴィダルと申す。ヴィンセント兄上のすぐ下で、現在は王宮にて政務を担っている」

「わたしはヴァリオだ。よろしくな」

 シウも適度に礼儀正しく、挨拶した。

 王城に来るとあちこちで挨拶するので、自己紹介を自動化しようと思うほどだ。

「シウと言うのか。兄上に菓子を献上したと聞いて驚いたのだが」

「そうそう。シュヴィークザーム様にも献上しておるのだろう? ここで会ったのも良い偶然だ。ぜひ、我等も――」

「ならん! ならんぞ、おぬしら。さては、狙っておったな? これはシウが我のためにと手ずから作り持参したもの。やらぬからな!」

 どちらが子供か分からない発言を堂々として、シュヴィークザームは王子二人を部屋から追い出した。

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