469 実験の手伝い、威圧対策、栽培案
ククールスには、シウの作った結界魔道具に干渉できるかどうか試してもらったり、結界の中で、更に魔素を奪った状態で魔法袋から物を出し入れするという実験も行ってもらった。
結果、干渉はできず、魔素はないが本人の魔力がある状態での出し入れは可能だった。
魔力を全部奪うことまではできないのでそこまでやらなかったが、概ね、作った魔道具は使えそうだ。
できる範囲での精査にも付き合ってもらった。
本人は、
「魔力を奪うやつ、やってもいいぞ」
と言っていたが、そこはやっちゃいけない最低ラインだと思っているので断った。
「でも安全のための対策、作ってるんだろ?」
「マージンは取ってるけどね。危険だから、ダメ」
魔獣相手にやってみたら、今のところ成功しているのでこれで良しとする。
実験が終わると、ククールスが覚えたての新技を披露してくれた。
「わ、使いこなしているね」
魔獣狩りをしながら糸と錘を使って器用に仕留めていくので、手を叩いて喜んだ。
「これ、便利だわー。ほんと、ありがとな」
ぶんぶん振り回して、木の枝に引っ掛けて飛んでいく。重力魔法を併用しているので軽々飛んでいた。まるで背中に羽が生えているようだ。
「あとな、これ、見てろよ」
枝の上から話しかけてきて、気配を消した。近くに岩猪が来たので倒すのだろう。
見ていたら、錘を振り回しながら投げた。すると、錘の重さ以上の速さで飛んで行った。寸分違わずに岩猪の首へ突き刺さり、その威力で一撃必殺となっていた。
「わあ」
「どうよ、これ。重力魔法で加速してみたんだ。前にお前が言ってたろ」
「すごい! もう実践してるんだ」
ふふんと、ククールスは自慢げに胸を張った。
それから枝を下りて、岩猪の解体に取り掛かる。
魔法袋に入れて持って帰ってもいいが、自分で解体するということは換金せずに食材とするのだろう。
「ククールスも解体が上手だね」
「おうよ。何年やってると思ってんだ」
「そういやそうだったね。それに、森で暮らす種族ならできて当然か」
「いやー、エルフでもできない奴はできないぞ。ハイエルフなんてやったことねえんじゃねえのかな」
「深窓の令嬢だね」
「そうそう」
軽口を言い合って、お互いに成果を見せて終わった。
帰り際には、ククールスにも対ハイエルフ用の魔道具を渡した。
「魔法袋に入れておくだけでもいいから。僕が安心するから持っててね」
「つってもなあ、こんなすごいの、俺が持ってていいのか? 第一俺はただのエルフだぞ」
「里を出たことで不興を買っていたらどうするの。万が一だよ、念のため」
「……まあ、そこまで言うなら」
渋々受け取ってもらえた。
ただし、ククールスのことだ、中身の取り扱いを忘れそうで怖かった。
メモに書いて、それを持たせた。
「魔法袋の中身はククールス以外誰にも取られないし、魔道具自体もククールスしか使えないからね?」
「お、そうなのか」
「奪われたら困るから、使用者権限付けたんだ」
「だったら安心だな。いやあ、それが怖くてさ」
ということは、奪われる可能性があることを認めていると言うことだ。
エルフはハイエルフの血操魔法は効かないけれど、何か、縛れるものがあるのかもしれない。あの夢でもハイエルフを畏れていたから、威圧のような力も備わっているのだろう。
「……ククールス、これ、あげる」
鑑定魔法で練り上げた力をつぎ込み、魔術式も更新した防御用の小さな腕輪を渡した。
「え、なに、これ。俺、女じゃないぞ」
おどけるククールスに、笑って首を横に振った。
「威圧を無効化するんだ。フェレス達にも付けてる」
「……まじかよ」
「僕には何故か威圧が効かないんだけど、それって鑑定魔法を持ってるからかもしれなくて。だから応用して、他にも思いつく限りの術式を干渉させずに同時発動するよう作ってみたんだ。威圧以外にも防御に効くから使ってみて。壊れないようにしてるし浄化もしてるからできれば常に付けておいてほしいんだけど。あ、プロポーズじゃないからね」
「ぷろぽ? なんだそれ、っていうか、そんなすごいもの、俺、もらいすぎじゃねえか」
「そうかな。友達を心配して、自分のできることを精一杯するのって、普通じゃない? 他にも竜人族の友人にもあげるつもりだし。そっちは本気で狙われているから、問答無用で渡すつもりだけどさ」
「……それ、もしかして」
思い当たることがあったのか、言葉を濁していたが、ククールスは腕輪を受け取って付けてくれた。
「その友人のこともさ、俺もしかしたら知ってるかもしれん」
「あ、無理に調べないでね。ククールスが危険に巻き込まれたらそっちの方が嫌だから」
「……ああ、分かった。でも、今後耳に入ることは、きちっと覚えておくようにする」
「ありがと」
こっちこそな、と頭を撫でられた。
最後に、
「でもお前、男にでも腕輪を突然贈ったりするなよな! これ、エルフの世界だと求婚だぞ。やっべー、俺、子供に求婚されたとか思っちまったぜ」
などと言っておちゃらけていた。
夕方、意外と早くに帰り着いたのでククールスと分かれてから、商人ギルドに顔を出した。
シェイラも相変わらず忙しそうなのに、シウが来ると手を止めてくれる。
「さあー、今日は何かしら!」
手をごますりしている幻想が見えて、笑った。
取り出したのは、≪温度計≫≪湿度計≫≪気圧計≫だ。
「ちょっと高価になると思いますが、ニッチ、ええと、隙間産業と申しますか、必要な人には便利だと思います」
「……何これ、すごい発想ね」
「というのもですね、シェイラさん、話聞いてください」
「あ、そうね。はい。どうぞ」
姿勢を正してシウに向いてくれた。
「バオムヴォレの生息地は見つけました。でも、高地でのことで冒険者に取りに行ってもらうのも相当な時間とお金がかかります」
「……そうか、あなたは騎獣で行ったのね」
「はい。こういう、僕だからできた、というのは産業としては良くないです」
「分かるわ」
「だから、こう考えてみました。普通の綿花のように栽培できないか、と」
シェイラの目が丸くなった。
唾を飲み込んで、暫く何度か口の中をもごもごさせてから、シウに視線を戻した時には目がぎらついていた。
「……栽培できると思って?」
「可能性はあるかと。株や種は持って帰りました。土もです。あとは環境を整えてやればいい。高地でしか育たないのなら、高地と同じ条件にすればいいんです」
「……設備投資が必要ね」
「昨日、小さい実験をしてみました。促進魔法を使ってはみましたが、芽が出るところまでは成功しています」
「え!」
「設備投資しても、大丈夫な気がするんです。ただし、繊細な環境を整える必要がある。それでも、試算してみたら、安定的にバオムヴォレが採れるのは魅力的じゃないかと」
がしっと肩を掴まれた。
「やるわ。やりましょう。絶対にやるべきよ」
シェイラもあの生地のファンになったようだ。元々バオムヴォレは高級品として知られたものだ。しなやかで気持ちの良い生地で、下着などにもとても良い。
「これ、栽培の案は僕の我儘でもあるので、どちらでも良いと思って群生地の地図は書いて来てます。冒険者ギルドにも話を通しておいてもらえますか? 指名依頼になってたけど、取り下げてもらっても良いし」
「いえ、あなたは仕事をきちんと受けて結果を出してくれたのだから、取り下げはしないわ。むしろもっと良い話を持ち込んでくれた」
ありがとうと無理やり握手してきて振り回された。
「あ、あのっ」
「なあに!」
「設備投資の件、僕も資金を出します」
「あら、いいの?」
「他に使い道のないお金で。ダメ元で良いかなーと思ってます」
「すごいこと言うのね。でも、そうねえ。たぶん、他の方々が名乗りを上げるだろうから、シウ君は入れないんじゃないのかしら。発案者としての権利料だけで我慢してほしいって、会員の人達が言いそう」
「あ、そこまで見込みありそう?」
「だって、この資料もそうだし、さっきの魔道具の意味も理解してよ? これに賭けなきゃ商人じゃないわー」
上手くいけば一大産業になるというので、シェイラは本部長を呼びに行った。
その後は、高級レストランで接待されてしまう事態となり、屋敷へ戻ったのはリュカが眠る寸前の頃となってしまった。
なかなか、ハードな1日となったが、懸案事項が少しずつ片付いていくとホッとする。
安堵して眠りに就くことが出来た。
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