467 新武器、検証、夢で見た世界




 あれこれ考えて複合技も編み出したが、よく考えたら、魔法を使えなくされたのなら、魔道具の武器を作って対処すれば良いのではと思いついた。

 血を操ることへの対策も必要だけれど、無害化魔法でなんとかなりそうな気もしてきたのだ。

 物理的に来ても、ハイエルフの身体能力はさほど高くないというし、逆に相手の魔力を排除する方向で考えても良いわけだ。

 そして、それらは魔道具で行うのがやりやすい。

 なんといっても、シウがいなくともできる上に、魔素のない場所でも使えるからだ。

 起動に魔力を使わなければ良いわけだ。この考え方はあまり知られていないので、内緒にしておけるのも良かった。

 魔道具は帝国時代よりも前から続いており、自らの魔力を流すことで使える。それが当たり前で、魔力の少ない人は魔道具を使えないのが当然のようになっていた。

 これを完全に、起動は手動のみで行えるようにする。そして、周囲の魔素を利用しない、内蔵された魔核ないし魔石だけで完了させるというわけだ。

 ただし、これだと誤作動する可能性もあるので危険だ。

 安全対策はこれまで以上に真剣にやらねばならない。気を引き締めて取りかかった。


 魔道具作りは楽しみながらできるので、集中しながらもどこかウキウキと作業した。

 武器については以前から考えていた≪電撃銃≫と≪加圧水銃≫を作ることにした。

 起動は、専用の魔石とした。対にして、はめ込んだら使えると言う形だ。

 魔道具であるから魔力がないといけないが、燃料として魔核と魔石、どちらも使えるようにする。適当なものを入れられるように燃料部分には余裕を持たせつつ、からころと揺れないように固定網も作った。

 術式自体は出来上がっていたので、組み込むのは簡単だった。安全対策も何通りにもかけて行う。


 更には結界を張って、そこから魔素を吸い取る実験も行った。

 以前にも魔獣を倒す際にやったので、さほど難しいものではない。

 魔素のない空間に転移してみても、特段どうなることもなかった。シウには魔力庫が備わっているので自前の魔法も使えた。

 ここで、≪電撃銃≫と≪加圧水銃≫を試射したが、概ね上手く使えた。

 細かいところや気になる個所を修正して完成させた。

 魔素の吸収も術式は簡単だ。以前にも魔法を使い始めた頃に≪魔力奪取≫という技を使用したことがある。

 今回は奪取ではなく吸収にした。魔石に集めようと考えたのだ。再利用もできるし、余計な場所へ流れないで済む分、周辺への影響が少なくて済むだろう。

 起動は箱から出して6秒、それだけだ。手榴弾のシステムを真似してみた。自爆する可能性もあるので、セットで≪吸収除外≫魔道具を持っていれば良い。

 同じく魔力の吸収も魔石へ流れ込む形とした。

 小さな四角い金属箱にして、中に魔石を入れる。これは吸収する相手を指定しないといけないので、芋虫幻獣をモデルにしてゴム素材で作ってみた。飛びやすくするために中に魔核ではなく魔石を入れた。これを投げて、相手にくっつけて指定し≪魔力吸収≫の石に流れるようにする。

 接近戦で使うだろうと想定して、投げる形にしたが、転移でも可能だろうとは思う。

 ただ、転移というのは空間魔法を使うだけあって「指定」が難しい。

 空間認識の苦手な人にはまず指定イメージを持てないので無理があると判断した。

 相手を認識するのに「目」もあるが、これも曖昧なのだ。指定するには確実でなければならない。


 ついでに、結界魔道具も強力なものに改変して作った。

 以前作って商品化している≪四隅結界≫を大幅改良した。同じくゲル材を使用するが、今回は四隅で囲わず中心点のみとした。追われている場合や時間のない時に四隅にセットなどしてられないだろう。

 これは中心点から半径数m以内を囲む形とした。土中までの完全な強化版だ。

 ゲルは真空パックに包み、外すと起動する仕組みにした。1日稼働して役目を終えるか、本人が外へ出たら解除となる使い捨てタイプだ。移動したければこれを何個も使えば良い。

 役目を終えたゲルはそのまま消えるようにした。

 これらは市場に出さないので、力の限りを尽くして作った。

 夕方までの間に、何度も何度も実験を繰り返し、安全対策と、思いつく限りの想定を繰り返して完成品となった。

 やり遂げた感いっぱいで、夜、フェレス達とブラード家の屋敷へと転移で戻った。



 夜には、フェレス達が寝た後に絵本的な古書を読みつつ考えた。

 実験では魔素を排除した結界内で、魔力も使わずに空間庫から物を出し入れすることができた。

 空間庫は空間魔法とはまた違うのだろうかと思って、魔法を使ってみようにも、シウには魔力庫がある。

 実は魔力吸収を――制限を設けてだが――使ってみたのだ。すると元々持つシウの魔力量が19吸収されて、魔道具は止まった。

 魔力庫は計算外だったのだ。

 先ほどの制限というのは、実験に際するもので、シウに対して無尽蔵に――魔力庫から――奪われたらどんなことになるか分からなかったので、200で止まるようセットしていた。

 実際の魔道具では、対象物の魔力を残り1にして吸い取る、という制限をかけている。全部吸い取ってしまうと死んでしまうため、安全対策だ。

「魔力庫と空間庫、同じような存在かもなあ」

 神様からのプレゼントとして、魔法の範疇外にあるのかもしれない。

 そういえば魔法袋では試していなかったなと思いだし、目の前で小さな結界を張ってやってみた。

 思い立つとすぐ行動に出てしまうのが悪い癖だ。

「えーと、魔法袋を転移して、っと」

 結界内に手だけ入れてやってみたら、取れてしまった。

「……おっかしいなあ。これ、もしかして僕だから、かな」

 というよりも手だけ入れているのもおかしい、ということに気付いた。慌てて結界を解く。

「考えたら、僕の作る結界に僕が干渉できるのは当たり前か。あー、もうちょっと実験が必要だな」

 完成したーと思ったがまだまだのようだ。

 何事も、完成した後が大変というが本当だな、と溜息を吐いて脳内の絵本を閉じた。




 寝ている間に、夢を見た。

 神様は出てこない、普通の夢だ。また魔法少女が出て来るのかと思ったが、違った。

 山中を走る若い男女の様子で、ああ、これは両親かと何故か納得する。

 2人は魔獣に追われていた。父親は魔力を使い過ぎて、枯渇寸前だった。母親は、あれはもう、ほとんど死んでるに等しい。気力だけで歩いていた。

 深い森の中、自力で子供を産んだのだ。

 子供は、早産のようだった。村で見た赤ん坊よりもずっと小さい。まだへその緒が付いていた。

 可哀想に。

 この後、彼等は死んでしまう。

 すると視点が変わった。山中を走る人々、身軽に岩場を乗り越えている。時折、木に登って周囲を見渡す者もいた。

 そして、金色の美しい人々。

 誰かが、地面に手を触れている。金色の魔法陣が地面に浮かび上がり、聖水なのか、清らかな水が周囲に何度も振りかけられていた。地面を浄化しているのだ。

 長い長い呪文、古代語に近い、変遷されたハイエルフの言葉だと分かった。

「だめだ、途絶えてしまった」

 どういうことだと、リーダーの男が問うた。

 魔法陣の中の青年が、頭を静かに振った。

「消えた。死んだのだろう」

 誰かが舌打ちした。それは本当なのかと問う者もいた。だが、リーダーの男は冷徹に指示した。

「それならば構わん。先祖返りが手に入れられなかったのは痛いが、汚い血を混ぜることなく済んだのは僥倖だ。帰るぞ」

 それぞれが、振り返ることなく、山を戻っていく。遠く、離れた場所に、困った顔のククールスが見えた。リーダー達ハイエルフが通ると、ククールス達エルフは縮こまってその場に膝をつく。否応もなく、従っていた。

 最後に呪文を唱えていた青年が力なく立ちあがり、ふと山を振り返った。足元の魔法陣が徐々に消えていく中、彼は小さく呟いた。

「細い細い糸を辿るか如きに混じった同胞の子よ、生き延びればいいな」

 歩き出した青年は、ふらつきながら仲間の後を追った。誰も待ってはいなかった。

 かなり離れた場所で膝をついていたエルフ達に抱えられ、森の中へと消えていく。

 夢なのに鮮明で、不思議な感覚だった。

 でもこれで分かったことがある。

 ハイエルフの能力だ。彼等は地面を通して居場所を特定しているのだった。

 まるでシウの全方位探索のように、細い糸のようにして探索を繰り返して追っているのだ。あれだけの大がかりな魔法陣と、ふらつくほどの膨大な魔力量を必要とするならば、相当な大技だろう。

 楽観視はできないが、そう簡単に使える魔法ではないと分かった。

 血を操るという血操魔法も、精神魔法のように使うのだろうが相当な魔力を要するに違いない。

 となれば、対策も見えてくる。

 自分を撒く方法もだ。

 パチッと目が覚めて、いつもの時間ではないと気付いたが、シウは起き出して魔法陣をメモに取った。

 視たもの全てを描いて、呪文も横に書いておく。

 改めて眺めてみるとすごいものだ。分からない文字もあれば、術式も複雑だ。

 青年は指を怪我していたから、自らの血を使ったのかもしれない。ならば、この魔法陣は正しく種族固有のものだ。シウには扱えないだろう。

 それでも記憶しておくべきものだと思った。


 どうやって血を辿るのか。

 ようやく分かった。

 あんな気の遠くなるような探索方法で、見付けるのかと思うと、ゾッとする。

 自らの血を流してまで使う魔法は、どこか異様だった。

 まるで禁術のように見えて、空恐ろしい。

 完全に目が覚めてしまったシウは、隣りで寝るフェレスを見てホッとした。その尻尾の中には寝相の悪いブランカと、おとなしく寝ているクロがいた。

 それを見てようやく、現実に戻った気がした。


 この夢を見せてくれた神様にも、感謝した。

 どこにも出てきてはくれなかったが、こんなこと神様ぐらいしかできないことだから。

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