464 サロンで交流会、ゴブリン討伐依頼
自己紹介の後はランベルトが書記魔法を他の生徒にも教えて良いかと聞くので、どうぞと勧めた。
どういうわけか、オリヴェルの従者はそれを聞いてシウに対する敵意を引っ込めてくれた。彼が楽になるからだろうか。とにかく、こそっと近付いてきてお礼を言われてしまったほどだ。
ファビアンが立ったまま話すのもなんだからと、サロンでお茶でもしないかいと誘ってきたのでついていくことにした。
彼が言うからには行った方が良いということだろう。
しかし、二度目だが、別棟にある貴族専用サロンはハードルが高い。
ヒルデガルドはいないようなので安心だが、人目はあるので結界を張って歩きたい気分だった。
カフェには、ファビアンにお願いしてフェレスも連れて入った。
先の騒ぎを知っていたらしい使用人も無下に断ることはなかったのでホッとした。
ちなみに、席に座った途端にクロとブランカが起きてしまい、授乳することになった。周囲に迷惑かと思って店を出て中央のソファが置いてあるスペースでやろうとしたのだが、ファビアンに止められた。
「希少獣の子の養育中はほぼ例外なく『罪を犯さない限りは自由』なんだよ。この国でも許可されているのだから、堂々としているべきだ」
いいのかなとオリヴェルたちを見たら、皆、頷いていた。
「では、失礼して」
鳴きだすと止まらないブランカの方から授乳させ、その間はクロを頭の上に置いて気を逸らせ我慢してもらった。
「みぁー」
けぷ、と小さなげっぷをして、満足そうに顔を洗い出したブランカをそのままフェレスに渡し、次にクロを手に取って離乳食を与える。
ファビアンたちクラスメイトの面々はそれをジーッと眺めていた。
希少獣の子育てはそう見ることがないようで、興味津々といったところだ。
「あの、とりあえず、メニューを頼んでください。すみません」
「後でも良いよ。それより、グラークルスかい? 可愛いね」
「ジーウェンの家でも希少獣を飼っていただろう?」
「兄のだよ。滅多に屋敷にはいないんだ。君の所も兄上が所持していたね」
「ドラコエクウスね。大人になって来たから、僕も子供時代を見たかったよ」
知ってる、それクアフって名前ですよねと心の中で相槌を打った。
「シウ、君はシュタイバーン出身だったよね。あちらでは拾った者のものになると聞いたけれど、やっぱりそうなの?」
「そうです。ただ騎獣の場合は庶民だと育てるのにお金がかかりすぎるので、結局は騎獣屋に売ることが多いみたいですね」
「で、そこから買えるというわけか」
「羨ましい話だね」
クロは食べ終わっても寝る気配がないので肩に載せて、メニュー表を広げた。
皆が口々に注文を済ませると、視線が肩に向かう。
「えーと、テーブルの上に乗せても?」
「もちろんだとも。ぜひ、乗せてくれ」
やはりそれを待っていたのかと、苦笑してクロをテーブルに載せた。
クロはちょんちょん飛んでよたよたと歩いては角砂糖の入った高価な壺を嘴で突いたり、それぞれの顔を見上げて首を傾げていた。
「きゅぃ」
「……か、可愛いね…っ」
そうでしょうとも。
うちの子可愛いでしょうと言いたいが、自慢になるので黙っておく。
それからも授業の話や、書記魔法の使い方などを話したが、皆の視線はほぼクロが集めていた。
ファビアンだけはブランカが騎獣の子だと知っていたようだが、他の面々は気付いていなかった。
大きい猫だねとジーウェンに言われた時はどうしようかと思ってしまった。
事実こんな猫もいるのだ。貴族の家では大型種の猫も飼われているため、あまり違和感を覚えなかったようだ。
嘘をつくのもなんなので曖昧に笑ってしまったが、夏休み明けは告白しないといけないだろうと思うと、少し気が重くなった。
とにかくも、新しい科目のクラスメイトとは表面上とはいえ仲良くなれたので良かった。できれば上手くやりたいので、ファビアンには感謝だ。
それにラトリシアの貴族の子弟と知り合っておくと、アマリアのことでも役立つ可能性がある。サロンに行くことまでは想定外だったけれども有意義ではあった。
今後もクロで釣って、仲良くしておきたいところだ。
土の日は冒険者ギルドで仕事を受けた。
シアーナ街道沿いの森でゴブリンが数匹発見されたとのことで、調査依頼と同時に少数なら討伐するという内容だった。
ちょうどククールスもいて、パーティーで受ける内容だったことから臨時で組んで受けることにした。
「久しぶりだね。遊びにきてくれないんだもんなー」
「悪い悪い。ガスパロとインセクトゥムの地下迷宮に潜ってたんだ」
「へー、ドレヴェス領に行ったんだ」
「お供でな。貴族の若君が潜るのに護衛として雇われたってわけさ」
お互いの近況報告を話しながら王都を出ると、すぐにフェレスへ跨った。
ククールスは重力魔法を使うのでフェレスは重さを感じず、いつも通り遠慮なく飛ばしていた。
飛んでいる間にも話をした。
「ハイエルフ対策の魔法、編み出したか?」
「それが、まだ」
「えー。シウらしくねえな」
「学校の友達の事で心配事があって、ついそっちにかまけていたんだ。明日明後日で考えてみるつもり」
「ふうん。学校の友達って、何よ。お前の頭を悩ませるようなことって、思いつかねえなあ」
不思議そうにシウの後ろから顔を覗き込んできたので、名前は出さずに大雑把に説明した。
最後まで聞くと、ククールスはうへえと嫌そうな声を上げた。
「俺、貴族の暮らしなんて絶対向かねえわ」
僕もーと同意して、ちょうど目的地に到着した。
「あっちだな」
到着した途端にククールスが指差した。シウも同意見だ。
そこからは気配を消しながら進んでいく。
「それにしてもさ、好きでもねえやつと、しかも罠にはめられて結婚するってのは嫌だな。シウが心配するのも分かるわ」
「そうなんだよね。特に、彼女は性格の良い子だから可哀想で」
「……子って、シウより年上じゃないのか? 結婚対象年齢ってことはさ」
「あ、そだね」
「親気分かよ!」
小声で話していたのに、突然大声を出すからゴブリンに気付かれてしまった。
「あ、やべ」
気付かれてもむしろ向かってくるから良いのではないだろうかと思ったが、ゴブリンはククールスを見ると逆に逃げて行った。
え、なんで、とククールスを見たら、
「あいつらエルフを恐れてるから逃げ隠れするんだよなー」
ということだった。
ゴブリンは本能的に、エルフや竜人族などを恐れるそうだ。
「エルフって、魔獣に畏れられるほど怖い存在なんだ……」
「いや、やめろよ、その目。違うって、あいつらも森の住民の中では下位だからさ。エルフってのは魔獣じゃないが、森の民としては上位種だろ? それでだよ」
分かったような分からないようなことを言って、逃げたゴブリンの後を追った。
お互いの探索結果を照らし合わせながらゴブリンを追い込み、やがて住処のある洞窟に辿り着いた。
「やっべー、巣ができてるじゃねえか」
「早期に見付かって良かったね」
でないと、近くの村がやられていたところだ。
今回ゴブリンを発見したのも、村の猟師の一人だった。
「調査って言ってたけど、討伐してしまうか。大丈夫だろう?」
「うん」
ということで、フェレスを含めて皆でゴブリンを討伐した。
体が鈍っている気がしたので体を鍛えるためにもシウは魔法を使わずに旋棍警棒だけで倒した。
ククールスも短剣と弓だけで応対している。彼曰く、雑魚相手に重力魔法は使わない、ということらしい。
討伐が終わると、部位を切り取っていく。残りは使い道がないのでひとつに集めて焼却した。
「ククールスの武器って弓と短剣だけなんだ?」
「剣を振り回すほど、ごつい筋肉はねえからな。体力温存のためもあるんだ」
「それだけ筋肉があれば使えると思うけど、ああ、持久力で考えてるの?」
「そ。エルフは森で暮らすだろ? 個人行動も多いし、狩人に似てるかもな。一人で何日も過ごせるよう、考えてんだよ。剣ってのは人族向きだぜ。群れて戦うな」
「そっか」
それぞれの種族で最適化をしてきたのか。
「でも、それだと中距離用の武器がないよね。弓は長距離だし、短剣は超接近戦用で。隠密が上手いって行っても、無理が出ない?」
「そうなんだよなー。特に単独行動を好むエルフはそのへん工夫しないといけないんだ」
「……ちょっと面白いのがあるんだけど、実験台になってみない?」
「おっ、いいな。やるやる」
ウキウキし出して、早速やる気になったククールスはゴブリンの耳を入れた袋を地面に放り投げていた。
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