428 3頭目の希少獣と研究科バーベキュー
いつも通りに早起きして、山羊乳を今度はクロにも飲ませた。雑食性の希少獣なので問題なく飲んでくれた。
抱っこひもは内部を改造して2つ入るようにしてみた。
希少獣に関するハウツー本によると、グラークルスに限らず鳥類関係は育つのが早いのでそのうち肩や頭に乗っていられるだろうから、取り外しが可能な形にしている。
「仲良くしていてね」
声を掛けると同時に2頭が欠伸した。可愛いものだ。
朝食時にはリュカもメイド達も、揃って大興奮だった。
「鳥型の希少獣も可愛いですねえ」
「ちっちゃくてかわいいの」
リュカなどは自分だって小さいのに、そんなことを言って皆を和ませていた。
学校へはいつも通りに出かけた。
休もうかとも思ったのだが、先週解体していた魔獣の肉をシウが持ったままになっていることを思い出して諦めた。
バーベキューをするのだと楽しみにしていたクラスメイトのことを考え、どうせ行くなら午前の授業も受けようと出かけたのだった。
授業の前にミルト達が抱っこひもの中に興味を持って、釣られて周囲の生徒も卵石から孵ったことを知って喜んでいた。
猫の子扱いだったブランカも、クロの鑑定ついでに見たらしくてようやく騎獣の子だと気付き、驚いていた。
鐘の音が鳴ってやってきたアルベリクも一緒になって驚いていて、暫くは鑑定祭りが続いた。
「分かってると思うけど、暫くは内緒にしていてね」
「あー、そうか」
「君、つくづく貴族に絡まれる運命にあるよね」
フロランに嫌なことを言われてしまった。
「言わないで」
肩を落とすと、フロランが笑った。
「ま、これも勉強だと思えば良いさ。遺跡発掘にもいろいろしがらみがあるんだよ。学校でこうした災いを避ける勉強をしていると思えば、安いものさ」
「フロランって、前向きだね」
「そうだろうとも」
「そうだよなー。フロランは傷つかない男だからな」
ミルトが溜息を吐いていた。腐れ縁らしく、彼の後始末をすることが多いようだ。
「全く意に介してないから、相手も喧嘩にならないんだよな。得な性分だぜ」
「じゃあ、僕もフロランを見習おう」
「そうかい?」
「やめとけよ!」
じゃれていたら、ようやく授業が始まった。
「はーい。じゃあ、鑑定魔法の練習もしたことだし、授業を始めます。合宿で発見したものと、ビルゴット先生が発見した一覧の資料を見比べましょう」
現在、行方知れずという、ふらふら出歩いている教授が一方的に送ってきている資料を基に、遺跡の内容物を調べていくという内容だ。
鑑定魔法を使えると遺跡研究には引っ張りだこなので、こうして「練習」も必要となる。ほとんど遊んでいるに等しいが、研究科はどこも同じらしい。
資料を読みつつ、皆で和気藹々と意見を言い合った。
午前の授業が終わると同じ棟の研究科へ急いで向かった。教室へ入ると生徒達がすでに揃っていた。
今日はプルウィアもちゃんと来ていたが、バルトロメから「バーベキューをやるから早めにおいで」のメモが入っていたとかで、怪訝な面持ちで待っていた。シウが教室に入るとホッとしたような顔になったので、まだこのクラスに馴染めていないのかもしれない。
「先生は?」
「火器使用許可を取るの忘れていたからって、走っていったわ」
「ああ。……外でもダメなの?」
「外でも必要なんだ」
アロンソが言って、ウスターシュがお腹をさすった。
聞けば、最初から火を使うような研究科なら問題はないそうだが、研究科とはいえここは座学が主だ。そうした許可は最初から下りていないらしい。
「楽しみにしていたから余計にお腹が空いて困るよ」
「そうよね。先に持ち寄ってきたもので食べてましょうよ」
「肉が食べたいのに」
皆、口々に愚痴を零す。
それに苦笑しつつ、シウは準備だけしておこうと皆を宥めた。
「庭に竈を作ってしまおう。どうせ教室内だと無理だよね」
「うん、そうだけど、竈を作れるの?」
「もちろん。魔道具も持ってきたよ」
設置して起動させると、大きな竈が出上がった。ついでに窯も作った。
鉄板や網などは魔法袋から取り出し、綺麗な板の上に肉も取り出して乗せていく。
「下味につけておくよ。勝手にやっていい?」
「もちろんもちろん!」
ルフィナとセレーネが両手を合わせてごますりよろしくお願いしてきたので、シウも遠慮なく用意を始めた。
念のため、抱っこひもを取り外してフェレスに付ける。
「面倒見ててね。何かあったらすぐ来てくれる? 呼んでも良いから」
「にゃ!」
任せてと自信たっぷりに答えて、希少獣達が集まっている教室の後方へと歩いて行った。子分を見せてやるつもりらしい。
庭では生徒達のほとんどが出ていて、それぞれに机を運んだりして用意を始めた。
それを見てどうしていいのか分からなかったらしいプルウィアがシウに近付いてきた。
「わたしも、手伝えることある?」
「じゃあ、浄化してから、パンを成形するの手伝ってくれる」
「成形? パンを、どうするの」
「焼くんだよ。種は作ってあるんだ。好きなように形を作って天板に乗せて。そしたら窯で焼くから」
「……分かったわ」
頷いて、覚束ない手でこねくり始めた。どうも料理は苦手らしい。
それを見ていたルフィナやセレーネも、パンを作りたい! と騒ぎ出した。どうぞと種を分けると、プルウィアとどんぐりの背比べであった。
男性陣も何かやりたいと言い出したので、ピザの用意をしてもらうことにした。
フェデラル国では多いが、ラトリシア国にはほとんどないメニューなので皆面白がって作り始める。
生地は予め用意していた、ふっくらもちもちタイプと、薄めのカリカリタイプにしてみた。各自、好きなようにソースや具材を入れて、チーズも各種好きなように掛けている。
そうしてわいわいしていたら、バルトロメが戻ってきた。
疲れた顔をしてぜーぜー言っているので本当に走ってきたようだ。
「許可、出ました……」
「やったー!!」
そこからは急ピッチで火を起こし、焼く焼く焼く、の連続だった。
あまりに騒がしくて良い匂いを出すので、他の研究室からも飛び入り参加してくるほどだった。
結果、大量の岩猪の肉は全部、消費されてしまった。
1頭まるまるだ。
若い人の胃袋というのはどれだけすごいのか、よく分かるバーベキュー大会となった。
4時限目全部使ってのバーベキューのあとはぐだぐだになりながらの授業となった。
後片付けは料理をしないで食べてばかりの他の科の生徒に任せ、シウ達は教室内で授業を受けた。
形ばかりの授業が終わると、プルウィアが話しかけてきた。
「解剖したと言っていたけれど、すごい数をこなしていたのね」
「うん。岩猪もあったから食べようって話になって。まさか全部なくなるとは思わなかったけど」
「圧巻だったわね」
「研究科棟の人達、全員来てなかったか?」
「普段は研究室に籠っている院生らしき人もいたね」
新人3人も来て、5人で話しながら帰ることになった。
「研究科に来るの、緊張していたけど意外と楽しくて良かったよ」
「わたしも。同じ希少獣持ちの子も多くて嬉しいわ」
「僕もだ。でも、シウは――」
ルイスがシウを見て笑った。
「まさか3頭もの希少獣持ちがいるとは思わなかったけど」
ウェンディやキヌアも頷く。
「シウは、見た目はおとなしそうなのに、やることが派手よね」
「プルウィア……」
「魔道具開発もそうだし、バーベキューしちゃうし」
「あれはバルトロメ先生が言い出したんだよ」
「あと、本校舎の食堂の新メニューもシウ絡みだって聞いたわよ」
「あ、それは僕も聞いた」
「わたしも。食堂へ行くのが楽しみになったもの。2階のサロンの人が怖くてなかなか行こうと思わなかったけれど、今度友達と行くつもりよ」
「そんな理由で食堂に行ってなかったのかい?」
騎士家のキヌアが質問すると、ウェンディは肩を竦めた。
「なまじ子爵家の娘だから、呼ばれちゃうのよ。でも、うちはそんなにお金持ちでもないし、堅苦しいのは苦手なの。今回、研究科を選んだからたぶん変人扱いして呼ばれなくなると思うし、丁度良いわ」
「……いろいろあるんだねえ」
シウが言うと、3人に揃って返された。
「シウに言われたくない」
と。
プルウィアもシウを見て黙って頷いていた。
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