427 隊商襲撃救助後の後始末
薬草も供出すると、隊商の女頭は感謝の言葉を何度も繰り返していた。
降りて現場を見回りたいというので、土属性魔法を使って足場を作ってあげると目を丸くし、そして被害の大きさを知って溜息を吐いていた。
「でも、命があっただけ、ましよね」
ふうと頬に手をやって、悩ましげだ。
馬車のひとつは完全に壊れていたし、彼女達が乗って籠城していた馬車も無残な爪痕で今にも崩れ落ちそうだった。
シウは何とも言えず、とりあえずルプスを片付けてくると言った。
「血の匂いで他の魔獣が来るかもしれないし、後でこちらの手伝いもしますね」
「あ、いえ。ですが助かります。うちの若い衆からも移動を手伝わせ――」
「いいですよ。魔法があるので」
手を振って断ると、フェレスに上空から網を投げてもらった。
投網の方法で落とされた網の端には錘を付けていて、それを風属性魔法で引っ張るように動かす。
ところどころ引っかかるような所では土属性で上下に地面を動かして、ルプスが網の中に入っていくのを眺めながら、一箇所に集めて行った。
それから街道の端に穴をあけて、放り込むと油をまいて燃やす。
空間魔法を人前で使えないのはやはり面倒だが、こうした地道な作業も大事だなと思って振り返ると、怪我の治った冒険者達が唖然とした顔で立っていた。
「すごい魔法の使い方をするんだな……」
これはこれで、まずかったようだ。
シウは誤魔化しつつ、街道に残った汚れや窪みを直していった。
前方からも隊商の人と護衛をしていた冒険者達がやってきた。
あらかた片付いたので後方の様子を見に来たのだろう。
女頭と治癒師の話を聞いて、冒険者の男達は驚いてシウを何度も見ていた。
「リカルドと申します。この度はお助けいただきありがとうございました」
移動商人でこの大きな隊商の頭でもあるリカルドは、相手が子供のシウでも丁寧に頭を下げて感謝の意を示した。
「こちらは今回の護衛をお任せしたスピーリトのガンダルフォさんです」
「リーダーのガンダルフォだ」
「冒険者で魔法使いのシウ=アクィラ、13歳です。ルシエラではシーカーに通っています。依頼の途中で気付いたので来てみました」
「あの学校の生徒で、しかも冒険者か! いやあ、不運が重なってこのままだとやばかったんだ。本当に助かった。おかげで、隊商の人の命だけは救えた。荷は失っちまったが」
「いえ、わたしどものせいなのです。本当はもっと早くにシアンを出発しなくてはならなかったのに……。そのせいで本来の護衛の数を集めることができませんでした。スピーリトの皆さんには無理を言ってお願いしたのです」
お互いに信頼関係があるのか、どちらも相手を責めないところが良いなと思って見ていると、2人が揃ってシウに視線を移し頭を下げた。
「本当に助かりました」
「見付けてくれてありがとうな」
「いえ、困っていたらお互い様ですから」
そう言うと、リカルドは困ったような顔をしてから、申し訳なさそうにシウにまた頭を下げた。
「お願いがございます。拝見しましたところ騎獣をお持ちのようです。できましたら、商人ギルドに手紙を届けてくださいませんでしょうか」
「あ、はい。分かりました。僕も採取したものを届けないとダメですし、一度王都へ戻りますね」
リカルドはホッとして、胸をなでおろしていた。
「お礼はまた後ほど」
「あ、いえ。さっき治癒師の方にお渡ししたポーションの分だけ、いただけたらそれで結構です。伝言はついでですから」
「えっ、ですが、うちの者達にも薬草を分けていただいたようですから」
「薬草はそのへんのを取ってきて調合したので実費はかかってません。それに、討伐した魔獣から魔核も取れました。気にしないでください。では、時間もないので早速行ってきますね!」
フェレスに乗ると、そのまま颯爽と街道を飛び立った。
あのままあそこにいたら、まだ応酬が続きそうだったので会話をぶった切りにしてしまった。礼儀作法としてはよろしくないだろうが、緊急事態ということで許してもらおう。
まずは商人ギルドで声を掛け、リカルドの名と街道での状況を説明した。
すぐさま冒険者ギルドへの依頼書が出来上がったらしく、商人ギルドの職員と共に冒険者ギルドへ向かった。
職員同士の話し合いには参加せず、採取してきた薬草を提出すると喜んでもらえた。
「今、数が少なくて困っていたようなの。薬師達も喜ぶわ」
多めに摂ってきたので、色を付けてもらった。
そうして精算していたら、ルランドとカナリアがシウを呼んだ。
「すまん、帰ってきたところ悪いんだが、依頼を受けてくれないか?」
「もしかして、街道の隊商の件かな」
「ああ。荷運び用の馬車を出しても良いんだが、お前さんの報告からすれば荷物だけ運べたら良さそうだろ?」
「怪我人はほとんど治癒されていたし、急いでるというわけではないね」
「だったら、荷運びをやってもらえたら、隊商にとっても出費を抑えられると思うんだ」
「というか、ぶっちゃけ馬車の用意が間に合わないのよね」
「そうなの? あ、別に荷運び仕事は受けるけど」
軽く引き受けると、商人ギルドの職員がホッとしていた。
「実は別件で馬車が出払っていてね。しかも、この時期は移動が多くて。貴族達の避寒が終わりを告げると同時にあらゆるものが動き出すんだよ」
移動が増えるので、差配がおかしくなっているそうだ。
「ふうん。じゃあ、とにかく荷運びと、あとは補強用の材料を持っていけば良いかな?」
「おっと、そうか。頼む。手配は」
「馬車セットなら倉庫にあります。クラル!」
「はい! シウ、案内するから来てくれる?」
連携が素晴らしく、皆、突発的な事態にも慣れているので流れるように動いていた。
商人ギルドの職員も感心したように頷いていた。
「それでは、シウ様、それと皆さんも、よろしくお願いします」
彼は頭を下げ、速足で戻って行った。受け入れる側の準備も変更しておかないといけないのだろう。
緊急事態扱いとして、またギルド前からフェレスに乗って飛んだ。
フェレスは飛ばしていいと言われて機嫌が良く、また最速レコードを叩きだしたようだった。
2時間とかからずに戻ってきたシウ達を見て、隊商の面々は驚いていた。
「あのー、荷運びの仕事を受けてきました。すみません、最初からそうすれば良かったですね」
頭を掻いて謝ると、リカルドはぽかんとしていたものの、やがて苦笑しながら手を振った。
「いえ。わたしが伝言を頼むと言ったのですから、緊急だと思われたのですよね。それに、宿の事や荷物のことでもギルドを通しますので、伝言に行ってくださったのは有り難かったのです。こちらこそ、二度手間になって申し訳ありません」
お互いに謝り、顔を見合わせて笑った。
ということで、すでにまとめてあった荷物を魔法袋に放り込んでいく。
さらに補強材などを渡して、一緒に馬車の補修を行った。
「……鍛冶のご経験もおありなのですか」
曲がった軸を直していたらそんなことを言われたので、学校の授業でと誤魔化した。
その間に、遅い昼ご飯をご馳走してもらった。
壊れた馬車も勿体ないのでなるべく再生できるようにとバラバラにしてから、補強した馬車に乗せてみた。
「大丈夫でしょうか」
御者が不安そうなので、シウは笑って答えた。
「魔道具を使って軽くしているのでバランスだけ気を付けてください。なるべく左右対称に設置しましたけど、あとは御者さんの腕にかかってますからお願いします」
「分かりました」
軽いのなら問題はない、とばかりに御者が満面に笑みを浮かべた。
馬車に乗りきれない人は歩くことになるが、なんとか冒険者や隊商の一員である護衛だけで済み、他は馬車に乗ることが出来た。
夕方まではシウも一緒に街道を進み、道中の安全に一役買った。
その頃には迎えの冒険者が王都を出ており、途中の村で落ち合うこともできたようだ。念のため、上空から見て魔獣がいたら教えると約束していたので、リカルドには通信魔法で伝えた。
先に戻るのは申し訳ないが、彼等も子供を遅い時間まで拘束しておくことも、また依頼の内容が荷運びだけであることからも、先に戻るよう促してきたので遠慮なくそうさせてもらった。
商人ギルドで荷物を下ろすと、その足でまた冒険者ギルドに行って完了届を出し、それから屋敷へ戻った。
こんなに騒がしい1日だったのに、ブランカは最後までおとなしくしていた。
もちろん、お腹が空いた時の催促だけは可愛く煩かったのだけれど。
そして、その夜。
2つ目の卵石が孵化した。
いきなりだったので驚いたが、慌ててフェレスを起こして一緒に見てみると、今回もまた孵ってきた子は人間のシウの方に顔を向けた。
「グラークルスか」
九官鳥型希少獣のことで、声真似が上手い鳥だ。ただ、鑑定でもちゃんとグラークルスだと出たのだが、全身真っ黒で鴉にも見える。
「変異種かな? コルみたいだね」
友人のコルニクスのことを思い出しながら、話しかけた。
鳥系の希少獣の場合は卵石から生まれた時点で、ある程度の形になっており、よろめきつつもシウに向かって歩いてくる。雀の子のような状態でなくて良かったなと思いつつ、
「黒いし、クロにしよう。お前はクロだよ」
と、またしても安易に名付けてしまったのだった。
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