408 合宿2日目、遺跡内部へ
遅くなるといけないので、担当の護衛2人が戻ってきて女子2人を連れて馬車でラウト街まで戻って行った。
残りの馬車は万が一のことを考えて残している。
「ここまで馬車が入れて良かったね」
「ビルゴット教授が道を通したみたいだよ。発掘品を乗せたかったみたい」
「豪快な人だね……」
「そうなんだよねえ」
呆れつつ、早速遺跡内部へ入ろうとするアルベリクとフロランを連れて戻った護衛達に、2人のことについて確認した。
「勝手に動き回らないよう、縄を付けておきます?」
「え、え?」
「言うことを聞かないのなら、せめて夜の間だけでも動きを止めておこうかと」
言いかけたら、アルベリクとフロランがびっくりするぐらいの速さでシウを振り返って、同時に口を利いた。
「勝手なことはもうしないから!」
「悪かった、抜け駆けはしない!」
半眼になりつつ、シウは2人をジッと見つめながら返した。
「もう2人には印をつけているから、どこへ逃げてもすぐに捕まえに行けるよ。でもそれとこれとは別だからね。団体行動を乱すのなら容赦はしない」
「ううー」
「分かった分かった」
あまり分かってなさそうな返事だったけれど、ガスパロが索敵から戻ってきて、一喝してくれた。
「勝手な行動はするな。お前1人の、いや2人か、その勝手な行動で隊が全滅するってことも有り得るんだ。ここが小さな遺跡かどうかなんてのは関係ない。いつどこで何が起こっても良いように俺達は警戒をしている。それを後ろから邪魔するなら、たとえ雇い主と言えども容赦はせんぞ。護衛の者もよく聞け。金をくれる相手だからと、何もかも聞いてちゃいかん。命あってのことだ。危険ってのは、こっちのレベルに応じて来てくれるわけじゃないんだからな!」
その横ではククールスが緊張感なくうんうん頷いて笑っていたので、深刻な雰囲気にはならなかったものの、冒険者から怒られてさすがの2人もしゅんとしていた。
晩ご飯は宿で用意してもらっていたもので済ませ、スープだけ竈で温め直した。
テントにそれぞれ入ると、明日に備えて休む。
「お前、やっぱり本物の冒険者やってるんだなあ」
同じテントのミルトに言われて、首を傾げた。
「あのガスパロっておっさんと同じことを言っていただろ。テントの設置も素早かったし、さすがだよな」
「ミルト達だって、森で暮らしていたんだから、同じものでしょ?」
「そりゃそうだけど、冒険者ともまた違うんだよなあ。まあ、あの2人には良いお灸になっただろ」
「反省してるといいけどな」
クラフトが呆れた口調で返していた。
このテントには他にリオラルもいたが、彼は疲れていたのかもう先に寝ていた。
2人にも早く寝なよと勧め、シウはフェレスをクッション代わりに暫く本を読んでから眠りについたのだった。
夜が明けて、シウが朝ご飯の用意をしていると匂いにつられて護衛達、そして生徒が起き出してきた。ガスパロとククールスは夜番を交替でしていたため、今は休んでもらっている。
これから3日間はこうした細切れの休憩となるため、できるだけこまめに休ませなくてはならない。
護衛達は聞けば本当に「貴人の護衛」しかしたことがなく、山中での野営経験も乏しかったので期待できないのだ。
比較的安全な森とはいえ、それこそ万が一が起こるといけない。
その為、シウが提案してこうした形になった。その代わり、護衛達は昼間、地下遺跡に潜る際に頑張ってもらう。
「うっわ、美味そう……」
「食材勝手に使ったからね。はい、どうぞ。護衛の人達は交替で摂ってください」
「あ、は、はい」
今回、馬車には食材を詰め込んできてもらった。ラウト街では新鮮なものを手に入れたので、冒険者特有の堅くて美味しくない食事からは解放される。
「シウが来てくれて良かったなあ。前回の合宿なんて、堅焼パンと塩漬け肉のスープだけだったんだ。あれはひどかったなあ」
リオラルが懐かしそうな眼をして遠くを見た。
「遺跡に潜るともっと悲惨だよねえ。火も焚けないから、硬いパンと硬い肉だけ。あ、チーズがもそもそして美味しくないんだ。僕はチーズが美味しくないって初めて知ったね」
生徒と同化しているアルベリクもそんなことを言う。それでも遺跡へ潜るのだから、よほど楽しいのだろう。
わいわいと朝ご飯を済ませると、女子2人がやってきたので、シウはガスパロとククールスを起こした。
1人は野営地で待機、1人が遺跡に入ってくれる。護衛も何かあった時の為に外で1人は待機する。御者と含め、計4人が待機組だ。
準備万端だったので、女子と合流してからはすぐさま遺跡へと降りて行った。
ククールスが先頭を行き、罠がないかなど斥候を務めてくれる。
その後に護衛が続いて、アルベリクや生徒達だ。それぞれに護衛もついて、最後尾をシウと護衛の1人、それからフェレスが付いた。
途中までは硬い岩盤の洞窟が続き、やがて岩と岩がぶつかりあってできた隙間と思しき場所を抜け、人の手によって削られた岩の穴も抜けると大きな空間が見えた。
仮設階段が付けられており、安全のためのロープもあちこちに張られている。
「先に降りて、様子を見てくる。君らはゆっくり階段を下りてきな」
ククールスは飛行板に乗って空間内を旋回するように降りて行った。その都度、明かりを灯す。そのおかげで空間内の景色が良く見えた。
「小さな街のようだ。あれは、教会かな」
アルベリクが呟く。建物とは分かるが、斜めになったりひっくり返っており、判別が難しい。アルベリクが見つけたのは泥のこびり付いたステンドグラスのようだった。形が、古代の教会のものと似ている。
一番下に降り立ったククールスが声を張り上げた。
「安定しているが、水が多い。気を付けて!」
特に魔獣などの気配もなく、岩盤自体にも固定魔法がかけられており安全のようだ。
遺跡を発見したビルゴットが最低限のことはしてくれたのだろう。
めぼしいものは見付けてしまっただろうが、遺跡の勉強には丁度良い大きさに見える。
なんとか、一番下と思われる場所まで辿り着くと、すでに索敵を終えたククールスが生徒1人1人に護衛を付けて移動するよう指示した。
「大がかりな固定魔法がかけられているから安全だとは思うが、絶対に1人で行動はするな。護衛は大変だろうが、首に縄を付けるつもりで、付きっ切りで頼むぞ」
「はい」
「じゃあ、今から解禁だ」
その合図により、全員が意気揚々と四方八方に散った。その手にはナイフではなく小さなツルハシだったり刷毛が握られている。やる気満々だ。
あっという間に散らばったクラスメイトを眺めつつ、シウはククールスに近付いた。
「シウは調査しないのか?」
「うーん、まあ、適当にするよ」
全方位探索でこの空間の形は記憶したので、気になる個所を重点的に鑑定していけば良いかなと思っている。
「がつがつしていないなあ。遺跡研究科なんだろ?」
「初年度生が入れる専門科目って少ないんだ」
もちろん興味もあったが。
「……適当に入ったのか。そりゃまた。でも、新入生ってのは受講数が多くて大変だって聞いたんだがなあ。好きでもない授業なら取らなきゃいいのに。専門科目ってのは受講する義務はないんだろ? 空いた分は、時間が出来て楽だろうに」
「そうしたらスカスカになっちゃうもん。これ以上時間が空いたら、困るよ」
そこで、お互いに顔を見合わせた。話が噛み合っていないような気がした。
「僕、最低必須科目は飛び級したんだ。それで専門科を受けるしかなくて、提示された科目の中には受けたくないものがあったり、初年度生は受講できない決まりがあったりでね」
残った授業を選ぶしかなかったのだ。面白いと思ったのも確かだが。
「……プルウィアが聞いたら怒るだろうなあ」
「もう、知ってると思うよ。この間から同じ専門科目取ってるし」
「そうなのか。じゃあ最低でもひとつは飛び級したってことかよ。すごいな」
はははと笑ってから、シウの頭に手を置いた。
「いや、シウの方がすごいのか。学校なんて訳わからんところ行って、更に勉強するとはなあ。俺には信じられないな!」
勉強嫌いの台詞だ。
「でも、俺もちょっとは勉強してきたんだぞ」
「うん」
耳を貸せ、とちょいちょい呼ぶので、遺跡の端の壁際に移動した。
彼が忙しかった理由「野暮用」とやらを教えてもらえるのだろうと思って。
遺跡内部を見張りつつ、ククールスが小声で話した。
念のため、声が漏れないよう魔法で細工はしてあるが、秘密の話は誰だって小声になるものだ。
「ノウェムの村に戻って、長老にそれとなく話を聞いたり、古き時代の本を見てみたんだがな。古代語に関してはよく分からん。代わりに、複写魔法の魔道具を使って適当に写してきた。要るか?」
「いいの?」
「魔道具が高かったから、買い取ってくれること大前提だけどな!」
「それはもちろん。依頼料も払うよ」
「そっちはいいや。うーん、詫び料のうちだ」
ククールスのせいではないのに、シウの両親のことについて罪悪感がまだあるようだ。
苦笑しつつその申し出を受けた。
「あと、ちらっと小耳に挟んだんだが、またハイエルフの方から命令が下りてるようだ。俺も扱き使われそうになったんで、慌てて逃げてきた」
「いいの?」
いいんだよ、と手を振った。村に残るつもりももうないと、言い切った。
ハイエルフに従って奴隷のように生きる気はないと、そう言った時のククールスの目は真剣だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます