378 休みの過ごし方、学校での愚痴




 翌日は爺様の山を見回り、午後はコルディス湖の見回りを行った。

 爺様の家はついこの間綺麗にしたばかりなので、本当に簡単な見回りをしただけだった。狩人達はまだ来ていないようでメープルは残ったままだ。

 コルディス湖では恒例の魔獣狩りをしたり、スライム狩りをする。素材にしてしまって使いやすい状態で空間庫に保管するところまでがセットなので、そうした作業も行った。

 夕方、火竜の住処であるクラーテールにも顔を出した。無事、子供達も生まれてすくすくと育っていた。父親の姿は見えず、繁殖が済んで出て行ったのだろう。雌達だけで子育てをしている。

 ついでなので、地下迷宮アルウェウスにも飛んでみた。もちろん、真上から行ったら絶対に止められるだろうから、地下へ直接転移した。

 転移する前に一応、地上も感覚転移で見てみたが、そこはほとんど整備されており、いつでも稼働できそうな状態になっていた。兵士の数も多く、訓練も進んでいるようだ。

 盆地状態だったところは、まるで巨大なコロッセウムといった感じで、その周囲を取り囲むように街が出来上がるのだろう。道路などの下地や建物の基礎も出来つつあった。

 最奥の地下では地底竜、ワームがいて、こちらも子供達が沢山生まれていた。

 雄はどこへ行ったのだろうと思って探索していたら、端っこで死んでいるのを発見した。噛み跡があり、大きさからして雌にやられたのだと気付いた。

 死んでから時間が経っているようなのに、まだ形が残っている。このまま放置するとまた余計な騒動の元になるかもしれず、空間庫に入れた。

 急にいなくなった死体を見て、地底竜達が少し暴れたものの、気持ちを落ち着かせる薬玉に火をつけると、段々とおとなしくなった。

 子ワームの可愛らしさを堪能してから、一旦コルディス湖に転移で戻り、湖近くの小屋で寛いでからブラード家の屋敷へと戻った。

 1日、作業部屋で籠ると言っていたため、誰も来ていないようだったが念のため結界も張っていた。時折、感覚転移で確認もしていたが大丈夫だったようだ。

 部屋から出ると、待ってましたとばかりにリュカがやってきたので、夜はずっと彼と一緒に過ごした。


 翌、光の日は1日、リュカと遊んだ。

 と言っても彼にだって勉強はあるので、その間はシウも料理をしたり、細々とした道具類を作ったりして過ごした。

 晩ご飯は、厨房に鮭を提供したので、ソテーとして出てきて美味しくいただいた。

 鮭は何にでも合うから良い。和風洋風どちらにも合う。

 翌日のお弁当は何にしようかと考えていたら、リュカもお弁当が食べたいと言うので、作ってあげる約束をした。

 寝るまでの間に魔法の勉強も見てあげたが、子供で素直な分、吸収力はすごかった。

 このままいくと本当に魔法学校へ入れそうだが、本人よりもソロルや周りの者が心配しているのでまだ無理かもしれない。今しばらくは家庭教師にお願いするしかないようだ。

 ただ、できればお友達を増やしてほしかった。

 シウのように子供時代を孤独に過ごし、育ってからも周りが大人だらけという環境はあまりよろしくない。なんといっても変人と呼ばれるのだから。

 幸いにしてリュカは人から好かれる愛らしい性格の持ち主だ。素直で可愛いので、友達ができたらもっと世界は広がるだろう。

 どこかに差別なく接してくれる同年代の子がいれば良いのだけれど、今のところシウに思いつく相手はいなかった。

 一番良いのは、やはりなんといっても学校だ。どこかに良いところはないかなあと思案しながら、この日は早めに寝たのだった。




 明けて3週目の火の日。

 約束通り、リュカにもお弁当を作ってあげた。

 小さい入れ物に、ちまちまと詰め込んでいたら、メイド達がキャーキャーと騒ぐ。

「可愛いですね~」

「リュカ君に、ぴったり」

「お弁当って良いですね。こういうひとつのお皿? 入れ物に入っているのも素敵」

「わたし達もお昼はこんな風にしてみる? 洗い物も減って良いんじゃないかしら」

「素敵!」

 きゃっきゃ笑いながら、覗きこんでいた。

 リュカも嬉しそうだ。何度も見ては、笑みを浮かべる。

「お昼ご飯、楽しみ。ありがとう、シウ」

「どういたしまして。さあ、じゃ、早く朝ご飯食べよう」

「はい!」

「僕はもう出かけるけど、お見送りはここでね」

「いってらっしゃい!」

 賄い室で手を振り、出て行った。


 研究棟の教室へ入ると、ミルト達はもう来ていた。

 朝の挨拶の後は、自然と家庭教師をしているリュカのことなど、情報を教えてくれる。

 世間話など取り留めもなく話していて、ふと思い出した。

「あ、そういえば、ブリッツのシルトって知ってる?」

「……知ってるけど、そいつがどうかしたのか?」

「同じ初年度生のクラスメイトなんだけど、この間、戦術戦士科に転籍してきたんだ。そしたら、早速レイナルド先生と揉めてね」

「そりゃまた」

 嫌そうな顔をする。

「あいつは、獣人族の各部族長からなる連合のトップを任されているブリッツ族の息子で、次期長と言われている」

「へえ」

「後継ぎが他にいないから甘やかされているのか、偉そうな奴なんだよ」

「あー、うん。そんな感じだね」

「もしかして、喧嘩売られた?」

「ちょこちょこっと、軽くね。でも先生の方が怒っちゃって。怒ってるフリっていうか、面白がってるんだと思うけど。それで、どういうわけか、次の授業で対戦しなきゃならないんだー」

 やだなーと机にもたれかかって愚痴を零すと、2人とも笑った。

「珍しいな、シウがそんなの」

「それにしても、面倒な奴に絡まれて大変だな」

「もっと大人になってほしいなあ。ここは学校だぞ、と僕は言いたい」

「ははは! 確かに。あいつ、子供っぽいからな」

「そうだったか?」

「そうだよ。ようは甘やかされた子供だって」

「そういうもんか。ミルトも随分甘やかされてると思うがな」

「おい、クラフト」

 2人がじゃれ始めたので、シウは苦笑しつつ間に入った。

「まあまあ。とにかく、そんな感じだから、一応聞いておきたいんだけど」

「おっ、弱みか?」

 違う違うと首を横に振ったものの、いやそうでもあるのかと暫し考えた。

 首を斜めに捻りながら、シウは質問した。

「最低限これをやっちゃいけないって、地雷ある?」

「じらい?」

「あー、ある事に触れると怒り出すような、禁忌のようなもの? のこと。ほら、僕は獣人族のマナーに詳しくないから」

「ああ、そういうことね」

 2人とも、真剣になって考えてくれた。

「どうだろう。耳や尻尾に触るのはダメだって話は、もう知ってるだろ。シウは獣人族の習慣には疎いが基本的に差別したりするような考えはないしな。人族としてのマナーも弁えてるし」

「本質が良い人は、どの種族に対してもさして失礼にはならないと思うけどな」

「うん、だよな。ただまあ、犬っころ扱いしたり、魔獣と同列に語るとダメだけどね」

「……レイナルド先生が、ちょっと煽ってたね、そういえば」

「ひでえな、先生」

 だよねーと同意しあっていると、生徒達がやってきた。

 そこからは全員で世間話だ。

 そうこうするうちにアルベリクが来たので、授業へと突入した。


 遺跡潜りの打ち合わせでは、早速フロランが護衛の指名依頼を出したと報告した。どうせならグラキエースギガス討伐の話も聞きたいから、その関係者、あるいはシウの知り合いをと頼んだようだ。

 まだ相手側に伝わっていないので、何人来てくれるか分からないが、最低でも2人は欲しいというところに落ち着いた。もっともフロラン自身が護衛を数人連れているので、それで済むのだ。

「でもまあ、シウがいるからうちは合宿が楽になるよな」

 リオラルが言うと、他の面々も頷いた。

「護衛としては完璧だもんね。あ、シウ、わたしの父がよろしくって」

「アラバの?」

「わたしのお父さん、役人なの。前に話したかもしれないけれど、冒険者ギルドとの関連が深い職務だから、いろいろ詳しく知ってるみたい。前にシウから話してもらったグラキエースギガスの件も、お父さんから言わせると『謙虚に話してるんだよ』ってことらしいわね。シウ君がいるなら安心して行かせられるって言われちゃったわ」

「うちもよ。でも、タダ働きさせるようなものだから、親同士で話し合ってお礼をしなくてはって」

「え、要らないよ」

「ダメよ。怒られるもの。ねえ、何か欲しいものない? 聞いておいてって言われたの」

「金銭じゃダメなのか?」

 ミルトがトルカに聞くと、彼女は首を振った。

「だって、シウって特許料とか、あと討伐の際の褒賞もすごかったらしいから、金銭だと逆に失礼になるだろうって。何か欲しいものを調べておくように言われたの」

「それ、本人に聞いたらダメなんじゃないのかなあ」

 フロランが苦笑した。変人と名高い古代遺跡研究科のリーダーだけれど、そのへんは貴族の子としてしっかりしているらしい。

「こっそり調べないと」

「あ、そうなのね。わたし、せっかちだから。じゃあ、こっそり調べるわ! みんなも一緒によ?」

 はーい、とそこかしこで返事が上がった。

 いや、それを今ここで言うのかと突っ込みたかったが、比較的常識人のリオラルが黙って笑っていたので、シウも無言を貫いたのだった。

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