339 付属品開発とおめかしと宝物自慢




 昼ご飯を食べた後、王都に戻った。

 ギルドで薬草を提出し、屋敷に戻るとすぐさま庭の鍛冶小屋で作業を始める。

 外では天気が良かったので、フェレスとリュカが遊んでいる。

 スサとソロルが交替で見ていてくれるので、助かった。

 途中キリクが覗きに来て、外で作業することにした。

「何やってんだ、今度は」

「速度を上げるための、別売り商品を、作ろうかなあと」

「別売り?」

「付属品だね。要らない人にまで売りつけるつもりはないし。欲しい人だけ買えば良い。安全対策用のと同じ考え方だよ」

「なるほど。で、それをくっつけるわけか?」

「風属性持ちじゃない人には、空気抵抗を和らげる魔法なんて使えないだろうからね」

「変な形だな」

「だよねえ」

 傘のような格好の突起を、飛行板の前に付けてみたのだがどう見てもおかしい。

「ダメだ、これ。横から叩かれたら完全に落ちちゃうな」

「だよな」

「やっぱり両立しないのかなあ。スピードはスピードだけで、か」

「お前、求めすぎなんだよ。どれぐらい出るんだ、最高速度」

「補助なしなら、普通のドラコエクウスぐらい?」

「……充分だろ」

「そう? フェレスには負けるんだよね。今日は風属性の補助を付けて、勝てたぐらい」

「にゃっ、にゃにゃにゃ」

 リュカを乗せたままで、フェレスが会話に混ざってきた。

「なんて言ってるんだ?」

「今度は負けないんだって。ほんと、負けず嫌いだなあ」

「にゃ」

「どのみち、そこまで使いこなせる冒険者がいるとも思えないがな。飛べるだけましだと思うぜ」

「そっかあ。まあ、これ以上は別個の物になりそうだし。飛行関係は今度ゆっくり考えてみる」

 自分自身の攻撃パターンも増やしたいので、この研究はここで一旦終了にした。


 夕方はキリクと対人戦の訓練を行った。

 やっておいて損はないと言われ、ラッザロやサナエルも交え、汗を流した。

 ちょうどカスパル達が帰宅したところで、裏庭の様子が見えたらしく呆れていた。

「よくもまあ寒い中そんなことをしていられるものですね」

 キリクの手前、言葉遣いは丁寧なのだけれど、言ってることはひどい。

「体を動かすと暖かくなって良いんだが。カスパル殿もやらんか?」

「ご遠慮します。ダンなら、やりたいんじゃないのか」

「あ、うん。行って来ていいのか?」

「どうぞ。僕はいい。全く、気がしれないよ」

 カスパルは護衛にも声をかけて、教えを乞うて来たらと勧めていた。

 遠慮していた護衛達だが、結局交替で練習試合することになった。

 カスパルはそのまま自室へ戻ってしまい、その後は一度も見に来なかったので本気で「気がしれない」と思っているのだろう。

「……坊ちゃんはもうちっと体を動かした方が良いんじゃないのか?」

 キリクが心配そうにルフィノ達へ声をかけていたが、彼等は賢く何も言いはしなかった。



 翌日、朝からククールスが屋敷に来た。

「おい、どうしよう。晩餐会だって。俺も行くのかよ」

 はっはー、と変なテンションで笑っている。

「他の冒険者の皆は?」

「慌てて貸衣装屋とか、知り合いの貴族に声をかけて服が借りられないか、昨日から走り回ってる。ドメニカはもっと時間があればドレスを誂えたのにとか訳わからんこと言ってるし」

「あはは」

「それにしても、俺、本当にもらって良いのか?」

「良いんじゃない? 一度やったものをどうしようが勝手だって言ってたし」

 ククールスは普通の冒険者と違って細身だから、カスパルの服が着られるだろうということでやってきた。本来はシウに下げ渡されたものだったが、沢山ある上に着られるようになるまでまだ何年もかかる。一応本人に確認をとって、譲っていいとのことだったからククールスに声を掛けたのだ。

 とはいえ、ククールスは細身のカスパルよりも更に細いため、メイド達の手によって急遽詰めることになった。

「メイドさん達には迷惑かける。悪いな」

「いいえ。こんな美しい方のおめかしを手伝えるなんてとても嬉しいです」

 実際、若いメイド達はきゃっきゃと楽しそうだ。

 朝からずっとそんな調子で、屋敷内は喧騒続きだった。

 とうとうカスパルが不機嫌そうにシウの部屋へやってきた。

「本が読めん」

「……カスパルも行くんだよね? 用意は?」

「ギリギリでいいだろう。サビーネがいたら一時間で完了する」

「すごいね」

「サビーネがいないと、僕は本当に困る」

 そんなことを断言されても、と思ったが黙っておく。

「この間から煩くしてごめんね」

「それはいいんだ」

「だって、本が読めないって」

「それは事実だ」

 相変わらず、変わった人である。

 シウは、思いついて引き出しから緑に光る綺麗な魔石を取り出し、そこに魔術式を書き込んだ。それを小さ目の透明なガラス瓶に入れて、カスパルに渡した。

「なんだ、これは」

「半径2メートル内を無音にする魔道具。読書用にプレゼント」

「……いつもながら、あっさり作る」

「カスパルが風と闇属性持ちだったら良かったのにね」

「どちらも持っていないね。……ふうん」

 瓶を矯めつ眇めつして、柔らかく笑う。

「起動と解除は、いつも通りか。僕は助かるが、これでリサやダンがまた文句を言いそうだ」

「あ、そうか。それでなくても夢中になったカスパルを動かすのは大変なのにね」

 カスパルは肩を竦めただけで何も言いはしなかった。

 ただ、丸みを帯びた可愛らしい瓶を黙ってポケットに入れていた。気に入ったようだ。

「先生のお小言を聞く時にも使えそうだ」

「……使うのは勝手なんだけど、僕の名前は出さないでね?」

「さて」

 にやりと笑って、カスパルは部屋から出て行った。

 足取りが軽かったので、早速自室で使うのだろう。


 昼ご飯が終わるとフェレスのおめかしが始まった。

 ソロルに丁寧なブラッシングをしてもらい、満足げな顔をしてシウを見上げる。どう? と聞いているようだ。

「今日も可愛いね~」

「にゃ」

「スカーフはどれにしようか」

 テーブルの上に広げると、ふわふわっと飛んで上から覗きこんだ。

「にゃー。にゃにゃ」

 レースがいいと、爪を出して指し示された。見ていたスサはにこにこ笑っていたが、ククールスはゲラゲラ笑っている。

「ま、じ、か!」

「にゃ?」

「い、いや、なんでもない。うん、いいんじゃないのか?」

 ぶははっと、とても「夢のように美しい精霊のような青年」とは思えない笑い方をして部屋を出て行った。

 フェレスは笑われている意味も分からず、そもそもそうしたことには全く我関せずで、細かく刺繍されたスカーフをスサに付けてもらっていた。

「にゃ」

「うん、可愛い」

「本当に可愛いですね、フェレス君。とってもお似合いですよ。高貴なお家の宝石みたい」

「みゃ」

 褒められたのが嬉しくて、てれてれして前足で床を叩いていた。

 それから、スカーフの内側に付けている自分専用の魔法袋から、何かを取り出した。

 スサはその存在を知っているから目の前で見せてもいいと思ったのだろうが、やはり彼女は驚いていた。

「にゃ」

「……なんですか、これは」

「にゃにゃ。にゃにゃにゃにゃ」

「宝物なんだって。スサが宝石って言ったから、思い出して取り出したみたい。それ、どうするの、フェレス」

「にゃ、にゃにゃ」

「うーん、それはどうかなあ。王宮では見せびらかせないと思うよ」

「にゃ……」

 ガーンと、ショックを受けたようだ。

 どうも宝石と言われたので、自慢の宝物を身に着けて自慢しようと考えたようだ。

 しかし、物が物である。

「そうですよね、これはちょっと」

 スサも困惑げに見下ろしつつ、腰が引き気味だ。なにしろフェレスの取り出した宝物というのが。

「蛇の抜け殻はなあ。確かに綺麗なんだけど」

 いくらなんでもそれは無理だと思う。蛇皮の鞄や鞘などはあるけれど、そのものすばりを身に纏っているのはよろしくない。

 しょんぼりするフェレスを宥めつつ、宝物は大勢の人に見せると盗られるよ、と脅す。フェレスは慌てて3メートルはある抜け殻を爪で壊さないようにソッと戻していた。

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