325 学校での事後報告と謎の儀式
夜が明けて火の日になった。
キリクは後ろ盾だとか権力をかさに着て(?)シーカー魔法学院へ行ってみたいと直前まで駄々をこねていたが、結局屋敷に留まることとなった。
シリルから連絡が入ったようで、ラトリシア国での本来の代理人が朝も早くにやってきたからだ。ブラード家には大変申し訳ないが、この台風のような騒ぎは暫く続きそうだった。
シウも朝の慌ただしい中で挨拶だけはしたのだが、代理人はテオドロ=グロッシ子爵という人で、穏やかそうな男性だった。
奥様がキリクのはとこに当たるそうだから遠縁の関係だ。
貴族院では法関係を任ぜられていたようだが、現在は貴族院に属さず、ひっそりと趣味で弁護士をやっているとか。貴族年金もあるのでがむしゃらに働く必要はないと、本人からのんびりと言われた。しかも趣味なので、今回も費用は要らないと開口一番に言い放ったから、シウはぽかんとしたものだ。
キリクが、こそっと、財産を増やす投資に長けていて子爵家とはいえ内実はかなり潤っていると教えてくれた。下手な伯爵家よりもずっと財産持ちらしい。仕事を趣味と言い切れるのもそのせいだろうか。
こそこそ話していた声が聞こえたのか、テオドロは、見栄を張らないのが一番の蓄財です、と教えてくれた。
このへんで時間もなくなってきたので、失礼して席を外し学校へ向かったのだった。
古代遺跡研究の教室には滑り込みで入ったが、まだ来ていない生徒もいた。
ミルトとクラフトは相変わらずだ。
「遅かったな」
「うん。出がけにお客様がいらして」
「お前に?」
「そう、なるのかな。後見人の辺境伯が急遽来ちゃったものだから、それに合わせて代理人の方が挨拶に来られたんだ」
「……この間言ってた、揉め事か?」
彼等も話を聞いて知っていたから、心配そうに問うてきた。
「うん。ある程度片は付いたんだけど、相手側が嘘八百並べそうだしどのみちギルドからも文句を言う必要があるんだから丁度良いって言ってた。学校があるから僕は途中退席してきたんで、全部後見人に任せてる」
「って、学校ぐらい休んでも良いだろうに」
「だって、この授業好きだし」
と言ったところでアルベリクが瞳を潤ませて背後から抱き着いてきた。遅れて入ってきたことには気付いていたが、何をするんだと苦笑した。
「シウ君! 君はなんて良い子なんだ!」
よほど言われ慣れていないらしい。シウの言葉に感激して本気で喜んでいるようだ。それをフロランが茶化す。
「先生、子供に抱き着いたら変態の誹りを受けますよ」
彼はにこにこ笑って毒を吐き、さあさ、とショックを受けている先生を教壇まで連れ戻した。
「授業、やりましょ?」
「……そだね」
和やかに、授業が始まった。
2時限目の授業も終わってから、アルベリクには事の次第を説明した。
前回の授業後に相談と言う名の根回しをしたので、報告は義務だ。何故かミルト達もいて、話を聞いていた。
「じゃあ、グラキエースギガスは討伐されたんだ? すごいな」
「アイスベルク遺跡は無事なんだろうか」
「行ってみたいよな、一度は」
流れがそのまま遺跡話になるあたり、この教科のオタク度が窺える。
フロランもいたので話は一気に遺跡破壊を食い止めるにはという濃厚なオタク話へと突入していった。
午後は、魔獣魔物生態研究だったのでそのまま研究棟に留まり、昼前に教室を移動した。
ルフィナ達はもう来ており、シウを見て「やった!」と喜んでいた。
「お昼ご飯持ってきた?」
分かり易い質問に、シウは苦笑しつつ頷いた。
「多めにあるよ」
と答えると、さっそく机を並べ始めた。
そうこうしているうちに他の生徒も顔を出して、皆でわいわいと昼ご飯を食べた。
フェレスはご飯を食べた後、お仲間の希少獣達に卵石を見せてと言われたらしく、シウから受け取って見せに行っていた。
希少獣達が輪になって、床に置いた卵石を見てなんやかやと喋っている。
「あの子達の会話が分かったらなあ」
「案外くだらないかもしれないわよ」
「ウスターシュ、通訳してよ」
「いいけど、ルフィナさんの言う通り本当にくだらないよ?」
その言葉を聞いて、皆が顔を見合わせてから、ルフィナが代表で答えた。
「やっぱりいいわ。夢は砕かない方がいいものね」
「ははは」
ウスターシュは肩を竦めて苦笑していた。
卵石を中心に謎の動きと会話をしていた集団だが、バルトロメが来たらすぐさま解散していた。
フェレスも卵石を2つ、器用に口で挟んで持ってきた。
お腹に入れると、ほんのり暖かく、ほっとしたような安堵感が感じられた。
皆に囲まれて怖かったのかなと思うと、ちょっと可哀想な、それでいておかしくなってつい笑ってしまった。
授業が終わるとバルトロメにも報告だ。
前回の授業後から、本当にあちこちに話を通してくれていたようで、好感触だったのだと教えてくれた。
今の希少獣の在り様に疑問を感じる貴族も多いようだ。
特に地方の領地を持つ貴族や、その関係者などは、魔獣対策に機動力がないのはどうかと思っていたらしい。
実際に魔獣狩りをするのは領地で囲い込んでる騎士や兵などではなく、冒険者達である。手に負えなくなれば騎士や兵も出るが、地方の貴族の中に騎獣を持つ者などほとんどいない。
その囲い込んでしまった騎獣を、肝心要の時に放出しないのはどうかと、日頃の不満も溜まって爆発したそうだ。
「これを機に上奏することにしたんだよ。ま、割を食わないよう連名でだけど」
片目を瞑ってお茶目に笑い、そう教えてくれた。
屋敷へ戻ると、人が増えていた。
テオドロが呼び寄せたとかで、入れ代わり立ち代わり貴族が出入りしている。
「ブラード家は他国の高位貴族家ですから、我が国の貴族の横やりもなく大変有り難い状況で票を取りまとめられます」
にっこり微笑んで、人が増えた理由を教えてもらったが、さすがにブラード家に悪いと思って、ロランドを探した。
謝ろうと思ったのだが、彼の口から、
「この国にもまだ崇高なお考えの貴族がいらしたようで、大変安心致しました。坊ちゃまからも思う存分使って良いとご指示いただいておりますし、本家からもくれぐれもオスカリウス辺境伯の良いようにと連絡がございました。不肖ロランド、ブラード家の名を貶めることのないよう、精一杯皆様のおもてなしをさせていただきたいと思っております!」
「あ、そうですか……」
元気いっぱいの発言を受けて、シウはただ、そう答えるしかなかった。
なんだか走り出して止まれない暴れ牛のようで、段々シウ個人の話とは掛け離れていってる気がしたが、まあそうした時機に乗ったのだろう。
ついででも、シウの名がそれで霞むのなら都合が良い。
結果良ければなんとやらで、シウは当事者だけれど参加はせずに、厨房へ行ってご飯作りなどに精を出したのだった。
晩ご飯の時にはキリクがげんなりした姿をしていたので、ちょっと可哀想になってしまった。
こんな目に遭うとは思っていなかったのだろうが、テオドロは大物が来たからには利用しない手はないと言ってのけ、思う存分彼の名を使って精力的に動いているようだった。
そのため、遊び目的のキリクは1日中屋敷に留め置かれ、貴族の挨拶に次ぐ挨拶でやさぐれていた。
ちなみにラッザロ達は交替で抜けたようだ。
「飛竜の様子を見に行っただけですよ。ルーナとソールが心配なので」
「ちゃんと護衛はしましたよ」
2人とも、しらじらしくそんなことを言っていた。
でもあんまりにも放心状態で不貞腐れてるキリクが可哀想だったので、シウは元気付けるためにあることを提案した。
「特別にすごいの、こっそり食べさせてあげようか?」
「あ?」
悪代官になった気分で、にまにましながらキリクの耳を借りた。
「内緒だよ。絶対に誰にも言ったらダメだからね?」
訝しそうにしていたキリクだが、シウの念押しを聞いて段々とにやけてきた。
何故か近くに座っていたラッザロとサナエルが顔を青くしている。
「何か、唆しています? シウ君?」
「シウ殿?」
「まあまあ。ご褒美です。2人は息抜きしてきたんだからダメだよ」
「うっ」
後ろめたいところがあるらしく、2人とも胸を押さえていた。
その間に、キリクに囁いた。
「僕のとっておきなんだけど、キリクなら食べられると思う」
おおっ、と声を上げて嬉しそうな顔をした。
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